75.七瀬は夢覚ましの王子?
「七瀬君。ウチのアヤのこと好き?」
「はい、綾希だけしか好きじゃないです」
「うふふっ! 七瀬君になら任せられるかな。七瀬君、このままアヤを部屋まで送ってあげてね。眠り姫じゃないけど家に帰って来ると、この子すぐ寝ちゃうから」
「えっ? うわ……マジか」
邪魔な峻希がいなくなって七瀬を家に上げた所までは覚えていたけれど、疲れと安心感からか、わたしはすぐに眠くなってしまった。さすがにわたしが眠ってしまえば、七瀬は呆れて帰ってしまうと思っていた。
後で学校で謝ればいいかな? なんて思いながら、横になっていた。微かに聞こえてくるのは、申し訳なさそうに謝っているお母さんと、返事に困っている七瀬。
(送ってくれてありがとう……後で学校で会おうね……七瀬)
「じゃあ、悪いんだけれど七瀬君。アヤをお部屋まで連れて行ってくれないかな?」
「じゃ、じゃあ……あの、綾希の部屋まで案内して頂けると助かります」
「ありがとうね。アヤの部屋は2階の奥なの」
「あれ? 一階じゃないんですか? 前にお邪魔した時は確かそこの……」
「まぁ、風邪の時はさすがにね……ってことだから、よろしくね」
いわゆる寝落ちをしてからどれくらい時間が経ったのか分からない。分かることは、お母さんが珍しくわたしを抱きかかえながら、ベッドに寝かせてくれたらしいことは何となく分かった。
「……んー? んん……」
何かおでこにそっと手が置かれてるっぽい? 頭とか優しく撫でてくれてる。ホントに珍しい。お母さんは基本放置系なのに。ずっと傍にいてくれてるのは気配とかで分かる。
「綾希……」
「……んんん?」
展望台の屋上で感じた感触を何故か感じた。七瀬的に、あれは夢って言っていたけれど、今もわたしは夢を見ているのだろうか。でもここはわたしの家だし、自分の部屋のはずだからそんなはずはないのに。
思い切って目を開けて、夢から覚めてみることにした。そうすれば現実だってことを、すぐに認められるって思えるから。
「――え!?」
「わっ!! あ、綾希……お前、起きてたのか!?」
「七瀬、キスした?」
「……した。好きだから」
「屋上の時も?」
「あぁ、した」
「もしかして七瀬って、王子?」
呪いなんてかかってないけれど、何となくそんなことを聞いてみた。
「キスで目覚めるとか、お前マジか。まぁ、でも、夢から覚めたんならそうかもな」
「七瀬、面白い」
「いや、お前に言われたくねーな。俺を家に上げといて寝落ちとか、お前面白すぎるぞ。てか、綾希は俺に何も言わねーの?」
七瀬は答えを欲しがるくんなんだ。甘えた系の七瀬は、わたしの言葉を待っているっぽい。
「好きで正解?」
「答えを俺に聞いてどうする」
「じゃあ、正解で」
「俺も合ってた。ったく、お前って本当に素直じゃねえのな。まぁいいけど、それが綾希だしな」
「ん、それがわたし」
わたし以上に疲れてるはずなのに、それでも優しく笑顔を見せてくれる七瀬が好き。七瀬だから好き。




