74.兄との攻防戦?
話しながら歩いていたら、あっという間にわたしの家に着いていた。家の前にはどういうわけか、そんなに遅い時間でもないのに腕組みをした兄が仁王立ちで待っていた。
「おそーーい!! 綾ちゃんはいつから非行少女になったんだ。お兄ちゃんは悲しいぞ!」
「七瀬、家に上がる?」
「え? いや、でも、お前の兄キは?」
「あれ、銅像だから」
「おま……それ、ひどくね? 一応兄なんだろ?」
「ん、一応」
はっきり言えば、相手をしていると終わりが見えないから、銅像だと思うしかなかった。七瀬だけ見ていたかった。それなのに、兄はそういう所を邪魔して来る。何を比べているのかが理解出来ない。
「七瀬、玄関に」
「いや、行けないだろ。いるし」
「まてーーい! そこの男! ここを通りたくば……」
「……お兄ちゃん。どいてくれると喜ぶから。どいて欲しい」
「うっ!? 綾ちゃんが喜ぶ……むむむ」
峻希には「お兄ちゃん」って言っておけば、その場で硬直するくらいに歓喜に包まれるらしいから、惜しみなく使うことにした。出来れば、七瀬とは自分の部屋でも話をしていたいから。
「って、待った! 家に入っていいのはうちの綾ちゃんだけ。見知らぬ男は許可してない!」
「綾希、俺、帰るよ。時間も遅いし、また今度。な?」
「……行かないでくれると、もっと好きになるかも」
「そ、そうか。じゃあ、戦う」
兄と七瀬はわたしを巡って戦うらしい。はっきり言って、こういう展開が一番ウザいし、面倒。でも、七瀬のやる気を削ぎたくないから黙っておく。
「俺、七瀬輔って言います。綾希と付き合ってます。お兄さんより、綾希のことが好きなんで、放っておいてくれると嬉しいです」
「こ、この野郎……お、俺の方が、小さい頃から大好きで――」
「ちょっと、峻希! さっきから電話鳴ってるんだけど! 会社からじゃないの? 早く行かないと……あれっ? 七瀬くん。あやを送って来てくれたんだ? ちょっと上がってって!」
「あっ……」
青ざめた顔で、峻希はそのまま走って行った。本当に会社に行っているのか怪しかったけれど、呼び出しを食らうということは、一応会社は行ってたんだ。
「で、ですね。じゃあ、すいません。少しだけお邪魔します」




