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キミのその手に触れたくて  作者: 遥風 かずら
わたしと彼の始まり編

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72/92

72.綾希だから

「綾希さん、今日はなんかごめんね」


「なにが?」


「あ、うん、俺が謝りたかっただけだから。気にしないでいいよ」


「あやきちは、鋭いのか本当に鈍いのか分からないなー。七瀬くんじゃないと駄目だー」


 何となく分かるけど、どうして謝られるのかが分からなかった。むしろ謝るのはわたしの方だと思うし。


「綾希は俺に任せとけ。上城も、それでいいんだろ?」


「それでいい。なんつうか、近くの気持ちに気付けなかった俺は、ダメダメな奴って自覚した」


「まぁ、俺もそうかも」


 良かった。七瀬とヒロは仲直りしたっぽい。由紀乃も何だか嬉しそうにしてるし、来て良かった。


「じゃあ、ウチらはこのまま帰るから。七瀬くんは保護者だから、あやきちを送って行ってね! よろしくー」


「おー! 任された。上城、泉を守れよ?」


「分かってる。じゃあまたな!」


 夕方になった。お互いに帰る方向は同じかと言えばそうでもないけど、ヒロは由紀乃を送って行くらしいし、七瀬はわたしを送りたいということらしい。


「じゃあ、行くか」


「それで、七瀬の言葉は?」


「あ、あー……駅からお前の家にたどり着くまでには話す」


「じゃあ、もういい」


 ずっとはぐらかされるのはもう嫌だった。彼からの答えなんて、もう出てるって思ってるけれど、直接聞かせて欲しいから待っていた。帰りの駅への人通りの多い道を、とにかく前なんか見ないまま突き進んだ。


「お、おい、綾希。前を見ないとぶつかるって」


「見えてるし」


 見えるわけないけど、何か意地になってた。七瀬の後ろを普段はついて歩いていたわたし。前には誰もいなくて、とにかく進みまくった。後ろにはきっと、彼が慌てて追いかけて来ているって思いながら。


 このままの勢いだと誰かにぶつかってしまうか、どこかの壁にぶつかってしまいそうなくらい、何も見えていなかった。展望台から駅までの道。付いて来ただけだから、人の流れとか車の流れとか気にしていなかった。


「綾希!!」


 七瀬にそう呼ばれるまで気付けなかった。と言うより、呼ばれたと同時に彼の胸元が目の前にあった。一瞬、何が起こったのかさっぱり分からなかったけれど、七瀬が勢いよくわたしを引っ張ったらしい。


「お前なぁ……何を怒ってんのか、いや、見当はつくけど……周りを見ろって!」


「七瀬が見える」


「今は、だろ。あーもう! お前、危なすぎる。俺は、お前を離したら駄目ってことが分かった」


「駄目なの?」


「いや、だから……俺は、お前……綾希じゃないと駄目ってことだよ。じゃなくて、えと……」


「んん?」


「綾希だから。俺が……お前のこと、好きだからに決まってんだろ! あー恥ずかしい」


 七瀬に覆われてるから彼の表情が見えないけれど、たぶんすごい真っ赤になってる。そんな気がして、そのまま彼の胸元で大人しくすることにした。ここがどこなのか周りが見えないけど、恥ずかしいくらい注目を浴びてる七瀬が、何となく愛おしい。愛おしくて、しばらく七瀬から離れたくなかった。好きだから。

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