69.涙を見せる相手に
ヒロを追って、由紀乃も自販の方に行ってから時間にして10分くらい経ってた。これはもしかしてジュース買い込みすぎて動けない? なんてことを思って動こうとしたら動けなかった。考えてみればずっと左手は七瀬に繋がってた。
「待て、綾希」
「なぜ? もしかしたらジュース買いすぎてるかも……?」
「違う。あいつ、上城には泉さん付いてるし、お前が行かなくても大丈夫だから」
「七瀬、手、すごく強いけど……なんで?」
「お前、行くなよ。それに、綾希を離したくない。痛いか?」
「ん、平気。七瀬がそういうなら行かない」
わたしよりも背が高い七瀬には、ヒロたちが向かった先の所が見えているのだろうか。彼が掴んでいるわたしの手は、痛くは無いけれどギュッと掴まれていた。七瀬が心の中で思ってることがその手を通して、何となく伝わってきたようなそんな気がした。だから黙ってた。大人しくふたりを待つことにした。
「ひ、ひろくん……そ、その、何て言うか」
「泉さん。俺、フラれちゃった。いや、最初から分かってたんだ。別に席が隣じゃなかったからとか、そんなのは関係なくて、ちょっとの差だったかもしれない。でもさ、俺じゃダメなんだよ。俺じゃ……」
「ひろくん……」
「泉さん……オレ、オレさ……好きになる資格ってあるのかな」
「……あ、あるに決まってるよ! わ、わたしが保証するし、だ、だからさ、えと……」
「ありがとう……由紀乃さん。しばらくオレ、壁にキスしまくるから、だから戻ってていいよ」
「や、ひろくんの近くにいるし。ぞ、存分にキスしてていいから」
「ぅ……」
「――ひろ」
10分どころか30分くらい、由紀乃たちは戻って来なかった。しばらく待っていたけれど、さすがに七瀬は歩き出してしまった。わたしに拒否権なんてなくて、引っ張られるままに動くしかなかった。
「どこ行く?」
「あー、そうだな。あいつらは多分、しばらく帰って来ないだろうし、屋上行こうぜ!」
「外?」
「そう、外で空を見る」
「高いのに高い所が好きなんだ?」
「それ関係なくね? と、とにかく、行くし。しっかり掴まってろよ? 綾希飛ばされそうだし」
「ないし」
いくら屋上で風が強く吹いていても、飛ばされるとかそんなに軽くないし。でもなんか、七瀬は嬉しそうにしてる。すごい晴れてるし、外で青空を見上げるっていうのもいいのかもしれない。
「ほら、行くぞ」
「行く」




