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キミのその手に触れたくて  作者: 遥風 かずら
ラブ・カルテット編

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69/92

69.涙を見せる相手に


 ヒロを追って、由紀乃も自販の方に行ってから時間にして10分くらい経ってた。これはもしかしてジュース買い込みすぎて動けない? なんてことを思って動こうとしたら動けなかった。考えてみればずっと左手は七瀬に繋がってた。


「待て、綾希」


「なぜ? もしかしたらジュース買いすぎてるかも……?」


「違う。あいつ、上城わいじょうには泉さん付いてるし、お前が行かなくても大丈夫だから」


「七瀬、手、すごく強いけど……なんで?」


「お前、行くなよ。それに、綾希を離したくない。痛いか?」


「ん、平気。七瀬がそういうなら行かない」


 わたしよりも背が高い七瀬には、ヒロたちが向かった先の所が見えているのだろうか。彼が掴んでいるわたしの手は、痛くは無いけれどギュッと掴まれていた。七瀬が心の中で思ってることがその手を通して、何となく伝わってきたようなそんな気がした。だから黙ってた。大人しくふたりを待つことにした。


「ひ、ひろくん……そ、その、何て言うか」


「泉さん。俺、フラれちゃった。いや、最初から分かってたんだ。別に席が隣じゃなかったからとか、そんなのは関係なくて、ちょっとの差だったかもしれない。でもさ、俺じゃダメなんだよ。俺じゃ……」


「ひろくん……」


「泉さん……オレ、オレさ……好きになる資格ってあるのかな」


「……あ、あるに決まってるよ! わ、わたしが保証するし、だ、だからさ、えと……」


「ありがとう……由紀乃さん。しばらくオレ、壁にキスしまくるから、だから戻ってていいよ」


「や、ひろくんの近くにいるし。ぞ、存分にキスしてていいから」


「ぅ……」


「――ひろ」


 10分どころか30分くらい、由紀乃たちは戻って来なかった。しばらく待っていたけれど、さすがに七瀬は歩き出してしまった。わたしに拒否権なんてなくて、引っ張られるままに動くしかなかった。


「どこ行く?」


「あー、そうだな。あいつらは多分、しばらく帰って来ないだろうし、屋上行こうぜ!」


「外?」


「そう、外で空を見る」


「高いのに高い所が好きなんだ?」


「それ関係なくね? と、とにかく、行くし。しっかり掴まってろよ? 綾希飛ばされそうだし」


「ないし」


 いくら屋上で風が強く吹いていても、飛ばされるとかそんなに軽くないし。でもなんか、七瀬は嬉しそうにしてる。すごい晴れてるし、外で青空を見上げるっていうのもいいのかもしれない。


「ほら、行くぞ」


「行く」

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