68.好きでいてもいいよね?
七瀬と手を繋いだまま、みんなと合流した所までは良かったけれど、そのせいでヒロは機嫌を損ねてしまった。もちろん、彼の気持ちに気付いていないわけじゃ無かった。ヒロに心が傾こうとしていたのも事実。
でも、離れたはずの七瀬がわたしを引き戻した。わたしも彼も悩んで迷って、その言葉を放つためにここに来た。だから、ヒロにもはっきりと言わなきゃ駄目なんだ。
「えーと、あやきちたちは屋上にも行く?」
「おー、行くよ。すぐには行かないけどね。だから、泉さんと上城とで一緒に見て回ろうかなと思ってるよ」
「おけおけ、ひろくんもいいよね?」
「……どっちでもいい」
「あ、あはは……ほら、あやきちもひろくんに何か言って」
「ヒロくん。一緒に回ろ?」
「――!?」
なんか顔を真っ赤にして背けたヒロ。なんかおかしなことしたかな。
「ちょっ! あやきち、上目遣い禁止!!」
「そ、そうだぞ! それは誰にでもやってはいけないんだ。それにヒロくんもおかしいだろ! ったく、分かってんのかよ、綾希」
「なにが?」
「お前なぁ……それ、天然じゃなかったら完全に小悪魔系じゃねえかよ」
小悪魔? それに七瀬も顔を赤くして怒ってる? 何でかな。
「ははっ、あははっ! いいなぁ。綾希さん……君のそういうとこに惹かれたのかもしれない」
黙っていたヒロが何かすごく無邪気に笑った。そう思ってたら、わたしの前に立った。隣に七瀬がいても関係なく、彼はわたしを真っ直ぐに見つめながら口を開く。
「綾希さん、俺、君が好きでした。だけど、分かってた。俺じゃないんだってこと。最初が肝心って言うけど、最初に失敗っていうか、席が隣じゃなかったことがダメだったかもしれない」
「……」
「ごめんね、こんなこと。でもさ、これからも好きでいていいかな? もちろん、友達として……だけど」
ああ、そうか。由紀乃がいる前でも関係なく、ヒロはわたしに気持ちを伝えたかったんだ。七瀬も由紀乃も黙ってた。彼が本気だったってこと、知ってたんだよね。気持ちが届かないってことも知ってたんだ。
「うん。ヒロと友達。ずっと、友達」
「……ありがとう、綾希さん。俺、ちょっと自販で何か買ってくる。七瀬と綾希さんは適当に回ってていいよ」
「いってらっしゃい」
「行ってくるね」
ヒロは最後までわたしに笑顔を見せたまま、自販のある方に歩いて行った。由紀乃も彼の後に続いて付いて行った。ごめんね、ヒロ。こんなわたしに好きとか言ってくれるなんて、ごめん。




