65.見える心、見えない気持ち。
「お待たせ。オレンジジュースとかで良かったかな?」
「ん、それで合ってた」
ヒロがわたしのためにジュースを持ってきてくれた。その時は一瞬だけ七瀬の手が離れたけれど、彼が席に着いたらまた手を繋いできた。それって、どういう意味? 単に寂しがり屋なの?
「それでさ、週末のことだけど泉さんは来られないんだっけ?」
「うん、残念」
「シフト入ってたみたいなんだよね。残念だけど、3人で行くしかないかな」
「おい、上城。ホントに残念って思ってんの? 思ってんなら、誰かに頼んで泉さんも行けるようにしろよ。出来んだろ?」
「は? シフトのことを何で俺が出来るんだよ。ってか、残念に決まってるだろ」
出来るんならやっぱり由紀乃も来て欲しい。そうじゃないと、ヒロはきっとまた気を悪くしそうな気がする。展望台に登ったら、七瀬はわたしに話があるって言ってた。わたしも七瀬と話がしたい。たぶん、これはわたしの気持ちの問題。そこにヒロだけいたら、傷つけてしまう。そんな気がする。
「ヒロ、由紀乃のこと何とかお願いしたい。出来る?」
「うーん……期末でも何でもないけど、店長に話してみる。だから、綾希さんは彼女に聞いてみて」
「分かった」
せっかく席に着いたのに、ヒロはまた立ち上がって、奥の方に歩いて行った。
「由紀乃に連絡……あ、スマホ持ってきてなかった」
「お前、相変わらずだな。滅多にいないぞ、お前みたいな女子。まぁ、いいや。俺が連絡しといてやるよ」
「ん、任せる。でも、由紀乃の連絡知ってた?」
「あぁ、まぁな。この前の昼に聞いといたんだよ。綾希の代わりに連絡出来る係としてな」
「あー……それで握手してたんだ」
「……まぁ、そんなとこな」
そう言うと、七瀬の手はわたしから離れた。その手で由紀乃と連絡してた。何だろ、何か……嫌だ。
「行けるって」
「だと思ってた」
「ホント、お前って変わんねえな」
「……ん?」
「いや、別に。だからこそ……」
何かを言おうとしてたけどやめた? 聞こうとしたけれど、たぶん無駄だから黙っておいた。そうしたら、丁度よくヒロが戻って来た。表情を見る限りは、どっちとも取れる感じ。
「どうだった? 泉さん、休めんの?」
「まぁ、うん。一応許可出た。ただ、来週の土日は休めなくなった。今のところ予定ないからいいけどさ」
「ありがと、ヒロ」
「うん、そうだね。最初からこうしとけばよかったんだよね。そうすれば俺も変に迷わずに済んだかもしれないし」
「――?」
「何でもないよ」
「うし、じゃあ……俺らは帰るわ。綾希も大して食べなかったし」
「お前だけ帰れよ。何で綾希さんも帰らせるんだよ?」
「夕方だし、送って行くんだよ。それに、俺らは客だけどお前は一応、店員だろ? 奥の方の偉そうな人が何かこっち気にしてんぞ。バイト先でご飯食べるとか、それって結構……」
「……あ」
「ヒロ、ごめんね。ありがと。週末、楽しみ。だから、また」
「う、うん。そうだね。じゃ、じゃあ俺、行ってくる。七瀬、きちんと送れよ?」
「当然だろ」
「バイバイ、ヒロ」
「またね、綾希さん」
ヒロは慌てて、奥の方に戻って行った。夕方だからか、結構席が埋まってた。だからきっと、呼ばれてしまったかもしれない。何だか悪いことしたかも。
「じゃ、行くか。綾希の家まで送る」
「分かった」
帰る時、さすがに外では手を繋いで来なかった。ファミレスでのアレはどういう気持ちだったのだろう。でも今は、深く聞かないことにした。週末の展望台で分かることだから。今度こそ、彼の気持ちが。




