64.繋ぐその手の意味は?
ヒロが働いているファミレスに誘われて、わたしは店内の奥の席へ案内された。わたしの後ろには七瀬も付いて来ていて、背が高い七瀬の顔がわたしのすぐ後にいたことに、ヒロは何度も首を傾げていた。
わたしの隣には七瀬が座り、わたしに向き合うのはヒロひとりだけ。でも、視線は常に七瀬を気にしていたけれど。やっぱり敵?
「綾希、何でも食えよ?」
「そうする。七瀬は水?」
「まぁな。水だけだ。今回は冗談じゃなくて、マジな」
「犬だから?」
「そういうことだ」
わたしと七瀬のやり取りに、中々入って来れないのか、ヒロはどんどん機嫌を損ねていた。何だか悪い事をしてしまったかもしれない。
「ヒロ、ごめん。なんか、勝手について来た。でも、ヒロに負担かけたくないし。それよりは七瀬に負担かけさせたほうがいいって思った。だから、ごめん」
「綾希さんが謝ることじゃないよ! 俺が誘ったことだし。話をしたかったのは事実だからね。週末のこととか、その先のこととかも話せればいいなって思ってた」
「ん、ごめん」
何度も謝りたくなるほど、ヒロの表情は回復しなかった。でも、わたしとふたりだけで話をすることがそんなに楽しいのだろうか。これといって話題も無いのに。
「何か、何度もごめんって言われると俺、何も言えなくなるよ。えと、ドリバー行ってくる。綾希さん、何か飲む? 七瀬が奢るのは食べる物だろ? 俺はドリバーくらいなら出すから」
「じゃあ、オススメ? を」
「うん、任せて! じゃあ、ちょっと待っててね」
さすがに謝りすぎたのか、それとも一度席を立ちたくなったのか、ヒロはドリンクバーの所に行ってしまった。わたしの隣に七瀬がいる。それだけでも席を立ちたくなったのかもしれない。
七瀬と少しの時間、ふたりだけになった。学校の時みたく、少し離れた隣の席じゃなくて、真横に彼が座ってる。わたしの手はどこに置いておけばいいのだろう。そう思って右手はお水の入ったコップを手にしていたけれど、左手はファミレスソファの所に置いておくしか無かった。
「――?」
気のせいとかでも無くて、何か左手に右手が乗ってたと思ったらそのまま、繋いできてた。これはどういう状況なのだろう。右手の主は隣にいる七瀬。だけど、彼の顔を見ても何も言ってこない。
「なに? なんで?」
「いや、別に……お前とそうしたくなっただけ」
離してなんて言葉が何故か出て来なくて、ヒロが戻ってくるまで無言でそうしてた。何でか知らないけれど、繋いでる時何も不安を感じなかった。慣れってことなのだろうか。
しばらくということでもないけれど、誰かの手に触れることが無くなっていて、不安を抱えるようになっていた。だけどそれが消えていた。
「……ん、分かった」
七瀬は何を考えているんだろう。そして、わたしも七瀬とどうなりたいんだろうか。でも、間違いなく思っていることは、わたしの隣には七瀬にいて欲しい。
いつもより口数の少ない七瀬だったけれど、なんか気持ち、伝わって来た気がした。そして心の中で、何度もヒロに謝ってた。「ごめんね」って。




