62.それでも彼とわたしは
ふたりで握手? それとも手繋ぎ……? 遠目からでははっきり見えなかったけれど、それでもだからといって気にすることなくふたりに近付いた。
「由紀乃、七瀬……なんで手を?」
「あやきち!?」
「あ、綾希……」
あれ? 何の焦りだろうコレ。もしかしなくてもふたりはそういう仲になってた? でもそうすると七瀬の彼女は? って思ってたらすでにふたりの手は離れてた。
「あやきち、屋上に行ってたんじゃないの?」
「行ってたし、ヒロと話をしてた」
「比呂……か。で、綾希はあいつを置いて何でここに?」
「誘いに来た。週末にヒロが展望台に行くって言ってたから、ふたりも誘おうと思った。行く?」
「週末って今度の? 私は無理だなぁ……シフト入っちゃってる」
「俺は行く。比呂……上城は、お前とふたりでって誘って来たんだろ?」
「ん、言ってた」
「それなら俺は意地でも行く。泉さん行けないけど、俺は行く。いいよな、それで?」
「いい。伝えとくから。じゃあ、先に教室に戻って伝えて来る」
たぶん先にヒロは戻ってるはずだから、すぐに体をそっちに向けて歩こうとしたら、彼に呼び止められた。
「……なに?」
「綾希、話すから。俺、お前にきちんと全部話すから! だから――」
「それ、週末でもいい?」
「それでいい……」
「じゃ、行くから」
何を話そうと言うのだろう。今さら七瀬に本当のことを言われても、もう駄目なんじゃないかな。泣くのも疲れるし、変に期待しても落ち込むことになりそうだし、それならそれで全部聞いて終わらせたい。
教室に戻ったと同時くらいに予鈴が鳴ってしまったので、放課後……と言うか、どうせヒロのバイト先に行くことにしていたから、その時に話すことにした。
「あれ? あやきち、帰んないの?」
「帰るけど、行くとこがあるからここで待機してる」
「綾希さん、と、とりあえず家に帰ってていいよ。学校にいても退屈だろうし、時間もかかるから」
「ん、分かった。帰る」
「え、ちょっと、ひろくん。もしかして、あやきちを呼んだ?」
「うん、今日早上がりだし。じゃあ、俺行くから。またね、泉さん」
「あ、うん……また」
由紀乃はヒロのシフトに合わせて入ってたっぽいけれど、さすがに休みの所に無理やりは入れなかったらしく、交代してくれる人もいなくて休みになったらしかった。
「あれ? 上城と綾希は?」
「やばい、七瀬くん……と、とりあえず、これ私のQRだから登録して! んで、今すぐ外に行って! 詳細分かったら教えるから。だから、早く!」
「へ? あ、あぁ、じゃあ……」
ヒロから連絡が来るまで、とりあえずは家に帰ることにした。ヒロのバイト先のファミレスは家から近い所にあったのが良かった。一応、規則では学校のエリア内でバイトすることになってたらしく、それならわたしの家からも近くなるってことが分かってしまった。そういう意味では行きやすかったかもしれない。
展望台の誘いに行けない由紀乃。それに対して、七瀬は必ず来てくれる。彼とはもうそういうのじゃないけれど、何となく安心感を覚えた。ふたりきりよりも七瀬がいてくれる。それだけなのに。




