6.子犬の様な表情に何かが上がってきてた
クラスの女子の中で、比較的真面目な方。それが自称、わたし。でも、春だけは許して欲しい。結局、昼まで勝てずに眠っていた。
隣をチラっと見てみたけど、彼も眠ってたのが何となくの仲間感。ホント、しょうがないこと。
「綾希、昼どする?」
最近話をしていないなと思っていたら、沙奈から声がかかった。もちろん、断る理由なんて無くてすぐに返事。隣の七瀬はまだ寝ていたので、さすがに起こさずにしておくことにした。多分、それが思いやり。
ウチの学校は元々女子高。そんなこともあって、いわゆる学食がカフェと一緒になってたのが救い。見渡す限り、男子はいなかった。そんな中に、沙奈と上城くんとわたしで食べることになった。不思議な組み合わせだったけれど、特段注目を集めるわけでもなかったのが良かった。
「綾希、初めてじゃん? 比呂と話すの」
「そう言えば、うん」
何となくこの時点で気付いたことがあって、沙奈はこっち側男子が好きっぽい。そんな感じ。
「比呂っす。上城って覚えにくいし呼びづらいって、コイツに言われたから比呂でいいよ。よろしく。えーと、綾希だっけか?」
「葛西です」
「あ、あぁ」
コイツ呼びって、早くない? 七瀬が言ってた沙奈の慣れてるって、そういう意味だったのかな。
「……で、綾希は輔と話せてる? きっかけ作っといたけど気になってた」
「や、別に」
沙奈が作ってくれたらしい七瀬とのきっかけは、春眠で終わってました。それにしても、沙奈ってわたしの知らない顔でもあるのだろうか。あんまり他人を気にしたことないけど、友達だから気にはなった。
「そうなん? でも、悪い奴じゃないっしょ?」
「多分ね」
「てか、起こさなかったんだ? 今頃泣いてるかもよ」
「寝てるのを妨害はやっぱ、良くないし」
「昼だし、そこはさすがに。それに綾希に起こされるのを夢に見てるかも」
わたしに関係なく夢は見てるかもだけど、わたしが起こさなくても誰か他の女子が声をかけるかもだし。
「葛西って、結構冷えてんな。コイツの友達だからか? そういうとこ、嫌いじゃないけどな」
「綾希って、面白いよ。普段は真面目系女子だけど、それだけじゃないのがいいとこ」
「へぇ、真面目系か。それもいいな」
なんて、何か勝手に話のネタにしてるっぽいけど、それよりも昼休憩が残り20分くらいになって、何となく罪悪感みたいなものが込み上がって来て、沙奈に声をかけて先に教室に戻ることにした。
まさかまだ眠ったままじゃないよね。なんて思ってた。
「マジですか~……」
一気に罪悪感。女子の人気者だったはずの七瀬は、一度も起きていないっぽかった。これはさすがに。
「ちょ、七瀬……」
「んーー? あれ? どした?」
「や、時間やばいけど」
「はぁぁ!? え、何で? 何で起こしてくれなかったんだよ~……」
「ご、ごめん。妨害したら悪いかなって」
「葛西に起こされるのを待ってたのに~~……マジで泣く」
七瀬の顔を初めてまともに見れた。見れたのは良かったけど、まるで子犬がキュンキュン泣いたみたいな泣きそうな顔が、何となくヤバい。
眉毛自分でカットしてんだってくらいに揃えてた。ホントに泣きはしなかったけど、ウルってた瞳が……やばかった。しかも男子なのに肌綺麗だったし。あんまりじっくり眺める余裕無かったけど。
「えと、時間やばいけど付き合うから」
「いい。我慢する。そんかわし、帰り付き合ってくれればいい」
「ごめん、じゃあ帰りなんかオゴるから」
やっぱり罪悪感。そして、思わず何かが込み上がった。それの正体は自分でも不明。そんな感じで、午後の授業は七瀬のお腹が鳴りっぱなしだった。今度は確実に起こそう。そう思った。