57.七瀬トライアングル④
放課後になった。席が離れたこともあるし、彼から話しかけてくることがあまり無かったせいか、教室にはすでに彼の姿は無かった。もう帰ったのかな。そんなことを思いながらわたしも廊下に出たら、先生に呼び止められた。
「葛西さん、帰る?」
「はい、何も無いので」
「それじゃあ悪いんだけど、このノートを七瀬くんに返しておいてくれないかな? 彼のノートだけ、返し忘れちゃってたの。ホント、いけないことなのにね」
「どうしてわたしに?」
「知ってるよ? いつも課題は彼に借りてるんでしょ? 違う?」
あー……先生にはばれてた。それもそうかな。答えが同じなら気付かれるよね。でも、そのことを怒って来ないのは何でなのかな。
「え、えっと……ごめんなさい」
「ううん、別にそれはいいの。だって、彼と付き合ってるでしょ? 体育祭の時とか、教室の様子を見てれば先生でも気付くから。でもたまには葛西さんだけの力で課題をやって欲しいかな」
今は付き合ってないです。ごめんなさい。
「えと、それは、はい」
「そんなわけだから、彼の家に届けに行ってくれると助かるんだけど?」
「わ、分かりました。そういうことなら、わたしが行きます」
個人情報なのにそれはいいのかな。でも彼もわたしの家に来たことがあるんだよね。だからいいのかな。そんなわけで、いつもは使わないスマホの地図を頼りに、七瀬の家を目指すことにしてみた。
彼の家は電車で橋を二本ほど渡った所にあった。結構時間かけて来てるんだ。そう言えば水族館に行った時に、近くだから割と慣れてる。そんなことを言っていたのを思い出した。
そうして近くの辺りを歩いていたら、見慣れた彼の姿と……あの女のふたりが歩いている所に出会わしてしまった。七瀬とわたしは今は付き合ってない。なのに、その姿を目撃しただけで胸がすごく痛い。何故だか分からないけれど、とてもチクチクする。
それでも先生に頼まれた以上は、彼の家に行ってノートを届けないと駄目なわけで。ふたりで一緒にいようが、お構いなしに行く……行かなければ駄目な気がした。
「お前、今の彼氏……あいつと上手く行ってないのかよ?」
「行ってるけど、でも、輔に聞くのがいいし。だって、友達だったわけだし。連絡取ってないんでしょ? 学校が違うからって、相談に乗ってやればいいじゃん。それに、私も元カノなわけだし? 愚痴くらい聞いてくれてもさー」
「お前、そんなことの為に学校の近くにまで来てんじゃねえよ。そのせいでおかしなことになってしまったぞ」
「あの子のこと? 元カノとしては、輔に見合うかどうかを確かめたかったわけですよ。それが、どうしてか知らないけど、他の男と仲良さげにコンビニ袋とか持ってたし。な~んか、ムカついた」
何を話してるか聞こえないけれど、行くしかないっぽい。友達だし、おなクラなんだからいいよね。
「七瀬」
「……!? あ、綾希?」
「んー? 何であなたがここにいんの? 輔の家に会いに来たとか? マジですか……」
あ、綾希って呼び方になってる。隣の彼女? とはどういうことを話していたんだろ。ううん、それよりもどうして、そんなに焦っているのかな? 七瀬、わたしに会いたくなかったのかな。教えてよ、輔。




