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キミのその手に触れたくて  作者: 遥風 かずら
彼とカレと彼女編

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39.紹介と応援と眼差し。


 体育祭の打ち上げ的な何かが終わり、数日が経った日の教室。いつもの光景、いつもの時間が流れようとしていた。それでも、もうすぐ夏に近付いて来ていて衣替えとかが来たら、七瀬の肌がまた眩しく光るんだろうかなんてことを思い浮かべてしまう。


 まだ窓から春の風が吹き込んで来るのを感じて眠ろうとしていたら、由紀乃が声をかけてきた。


「あやきちー!」


「んー?」


「ふっふっふ、七瀬くんとどうだったのかね? 体育祭のあの日、教室入るまで間があったけど、校庭で何かして来たんでしょ?」


「握手してた」


「はい? キスとかしてたんじゃなかったの? 握手って、あんた……そんなの、誰でも出来るじゃん!」


「じゃあ、由紀乃も握手?」


「あ、どうも……って、違くて! 付き合ってんのが一応、おなクラのみんなには許されたんだよ? どうしてそれを活用しないのだ君は。手に触れるなんていつでもどこでも出来るじゃん。それよりもキスを……」


「――出来ないから」


「んん?」


 キスすることも簡単でもないけれど、わたしはきっと握手とか手とか、どこかに触れることを簡単だと思う日は来ないと思う。わたしから七瀬に話しかけることの方が少ないのに、その状態で手に触れることは由紀乃が思ってる以上に難しいことだから。


「付き合ってそんな経ってなくても、彼の方が甘えて来てんじゃん? どんどん近付いとけば喜ぶと思うんだけどなぁ」


「努力する」


「まっ、それはそれとして、あやきちに頼みがありまして。聞いてくれる?」


「なに?」


 由紀乃がチラりと視線を送るその先には、上城くんが座っている廊下側の席があった。彼は休み時間の時、七瀬と笑いながら何かを話すくらいに、すっかりと仲良くなっていた。休み時間に限っては、七瀬はわたしの隣には座りっぱなしではなくなっていた。


「寂しい気持ちは分かるけど、いつもいつも七瀬くんと隣でいられるとは限らないのだよ。オーケー?」


「……ん? じゃなくて、由紀乃が見ていたんじゃ無くて?」


「あー、うん。でした。えと、あやきちって上城くんとも仲いいじゃん? なので、お願いが……」


「分かった。行ってくる」


「ちょ! 待てい! 私が言いたいこと理解してる? 何言うつもり?」


「由紀乃は上城くんが好き」


 これは以前から聞いていたことだった。だから、わたしに代弁をして欲しいと思って、向かおうとしていた。


「そうなんだけど、それはあやきちが言うことじゃないから。自分で言うから。じゃなくて、紹介して欲しいわけ。私のことを彼に。そしたらすぐに行くし、話を進めるから。いい?」


「ん、理解」


 由紀乃の期待の眼差しが上城くんの席に向かうわたしの背中に、ひしひしと注がれている。確かに席は遠いけど、自分で言えばいいのに。わたしと違って、由紀乃は話しやすいし積極的なのに。


上城(わいじょう)くん、話、いい?」


「えっ? 葛西さん? 七瀬じゃなくて、俺に?」


 もの凄く驚きながら、すぐ傍の七瀬を気にしていた。七瀬もちょっとだけ驚いてた。


「えと、上城くんに紹介が――」


「あ、どうも~! あやきちの友達の、泉由紀乃です。上城くん、放課後空いてる?」


「え、あ……空いてるけど」


「じゃあ、ウチのあやきちと、上城くんとでどっか行きません? 話とかしたいんで」


「葛西さんも?」


「ですです! あやきちも行かせます」


 有無を言わさず強制参加だった。でも、沙奈の時と違って強引な事でもないし、そもそもわたしを間に挟んでのことだから、行かないと駄目かも知れない。由紀乃はたぶん、いきなりふたりとかでは無理。


「特に用も無いから行くよ。えと、泉さん、よろしく」


「はい、よろしくです! それじゃっ、席に戻りますね! ほら、あやきちも」


「じゃ、そういうことで」


 わたしの席に戻ろうとすると、黙ってた七瀬がわたしを引き留めた。


「こらこら、綾希さん。お前、俺が見えてなかったのか?」


「見える」


「だよな? いや、俺も行くし」


「なぜ?」


「お前の友達は話が上手く出来そうだけど、上城がずっとガンガンに話振られてたらキツイだろ? だから、俺とお前でふたりを見守りながら話をした方がよくないか?」


「そうかも」


「だろ? 上城もそう思うだろ?」


「……そ、そうだね。七瀬も居てくれた方がきっと、葛西さんの面倒を見てくれるだろうし、それでいいよ」


「ってことだから、綾希はお友達に俺も行くってことを伝えといて」


「分かった」


 七瀬の言う通りかもしれない。由紀乃は上城くんと話がしたくてわたしに頼んだけれど、たぶん上城くんは、わたしの方が慣れてるし話もするだろうから、気まずい思いをするかもしれない。そこに七瀬がいてくれれば、上城くんも安心するし由紀乃も話を弾ませられるんじゃないだろうか。


 七瀬に言われるがままに、自分の席に戻って、先に待っていた由紀乃にそのことを話すことにした。


「七瀬……お前、何を心配してんの?」


「あん? お前が話をしたいのは泉さんじゃなくて、綾希だろ? 悪ぃけど、それは認めてないから」


「決めつけられても困るけど。自分の彼女を信用してないの?」


「あいつじゃなくて、俺が心配なのはお前な。分かるけどさ、分かるけど……あいつは渡さねえし」


「……何のことを言ってるのか俺には分からないな」


 わたしが自分の席に戻ってからも、予鈴がなるギリギリまで七瀬は戻って来なかった。よほど仲良しになっているんだなぁと、安心しながら机に伏した。

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