38.彼の気持ち、わたしのキモチ
学校に戻ったら、沙奈と輪の中から解放されたらしい七瀬が、わたしたちを出迎えてくれた。競技が終わったからか、沙奈は敵に戻っててイヤミったらしいことを言って来た。
「おかー! って、ふたり、そうやってコンビニ袋持ってる姿が、お似合いやな。付き合ったらええのに。比呂は未だに――」
「そんなわけないだろ! お前、葛西さんに強く当たりすぎなんじゃないのか?」
「あ、怒ってんなぁ? マジになってどうしたん? 前よりも強くなった? カノジョへの想いが……」
「うるせーな! お前も教室戻るぞ」
「こっち、話終わってないのにーー!」
そう言うと、上城くんはわたしからお菓子が入ったコンビニ袋を受け取って、沙奈に渡した。
やっぱり上城くんと沙奈は仲がいいみたいだった。彼は沙奈の腕を掴んでそのまま、教室へ引っ張っていった。この場に残ったのは七瀬とわたし。
「コンビニから随分、遅かったみたいだけど何かあった?」
「ん、ミステリーにあった」
「へ? ははっ、綾希は面白い奴だな。その辺、何か安心出来る。俺はお前じゃないと駄目みたいだ」
「抱きしめる?」
「したいけど、しない。ここ、学校だし。ただでさえ綾希のことを話すのに時間がかかったのに、また説明するのは勘弁して欲しい。ま、その、そんかわし……お前の手に触れたい」
「どうぞ」
なんか、甘えてくるようになったっぽい。キスとかそういうのを我慢させて、どこかに触れさせることだけって言うのも、男子には酷なことかもしれない。けれど、ほんのちょっとのことでもその気持ちが嬉しい。
「喧嘩したわけでもねーし、なんつうか、握手って何か不思議な感じがするな。妙に照れる」
「同じだから。七瀬と手を繋ぐのは、キスをするのと同じ」
「それは違うと思うけど、でもまぁ、綾希を感じられるって意味じゃ同じかもな」
まだまだわたしも、七瀬を目いっぱい感じられるまでには時間といくつかの季節と、もっと距離を近づけないと分からないことだから。七瀬を離すことなく、過ごして行きたい。
「……ところで、あいつ、上城はお前になにか言ってこなかったか?」
「言葉」
「そうじゃなくて、いや、そうだけど……まぁ、いいや。綾希が分かってないっぽいし、あいつには悪いけど、綾希は渡さねえよ。沙奈の奴がそう言ってたからって、そもそも本人の頭の上にはハテナマークがすごく浮いてることだしな」
「なんのこと?」
「いや、気にしなくていい。俺らも教室戻んぞ! せっかく買って来たモンが無くなるし」
「ん」
わたし的に子犬な七瀬が、わたしの頭をポンポンと軽く撫でながら微笑んで、カレのその手はそのままわたしの手を掴んで離さなかった。カレのわたしへの気持ちは日ごとに増して来ていた。そんな気がした。




