33.女子の敵が増えた日?
「一瞬で好感度下がるとか、何だよ~……すげーへこむ」
七瀬も泣きそうになってる。これはさすがに敵をさらに増やしそうな気がする。
「えと――」
何かを言おうとしたら、出たくないけど自分の強制参加競技のアナウンスがされてしまった。
「ほら、呼ばれてんぞ。俺が見ててやるから、頑張れよ」
「分かった」
強制と言うか、クラスとか関係なしに毎年恒例になってる競技だから、やらざるを得ないわけで。と言っても、この競技自体はとても楽。走らなくていいし、あまり動かなくても活躍してそうに見られるから。
男子が入るとフェアじゃない綱引きは、基本女子のみでやる競技。ぶっちゃけ、やる気が無くても出来る……はずだったけれど、わたしの前後を挟むように沙奈と由紀乃が配置されてた。何かの謀略が動いているのか不明すぎる。
「綾希、今はおなクラの味方としてやる気見せるよね? イケメン七瀬にいいとこ見せたら惚れ直されるしなー?」
「沙奈一人で勝てるから、ガンバレ」
「ちょっ……!? あんた変わってないな。その辺、許せてしまうわ」
七瀬のこと、諦めてないっぽい沙奈。それでもさすがに体育祭で、そういうことを見せて来るわけでもないっぽい。でも、気にしてるんだなぁってことが分かってしまう。
「あやきち、やる気出せ! 勝てばクラT分の資金が返って来るかもだし」
「あ、そうなの? じゃあ、応援するから」
「や、あやきちも本気出せ。七瀬にいいとこ見せたらいいじゃん!」
「努力する」
そんなわけで、綱引きにやる気を出すふたりに挟まれながら、一応はわたしなりにやる気を出してみた。その結果、他クラスには勝てたけれどわたしは予想通りに弾き飛ばされて、膝ごと地面に擦ってしまった。
「んー……」
「あやきち、大丈夫? うわっ、ちょっとだけ赤くなってんじゃん。保健室に行って、消毒してもらお?」
「なんか、立てない。運動しすぎた」
「……って、綾希は引っ張ってなかったし。あんた、アレはひどすぎやな。動かなすぎ!」
「運動は苦手。綱引きは形だけしてればいいと思ってた」
「はぁ~~あんた、弱すぎ」
そんな感じで、正常だった膝からはほんのり赤く滲み出て来たモノが、立てないわたしを動けなくした。
「しょうもないけど、いちお、友達やし、肩貸すから」
「……ん、ありがと沙奈」
「じゃあ、もう片側は私が貸す。あやきち、立て」
「葛西さん、大丈夫?」などと、普段は気にもかけてくれてないおなクラの女子たちから、声援を送られていた。怪我をしたのはわたしだけだからかもしれないけれど。
この光景は、七瀬を保健室に運ぶ時の光景に似てた。何てことを思っていたら、周りの女子たちの声援が悲鳴に変わることになってしまった。それと同時に沙奈以外に敵が増えた日になるとは思わなかった。
「輔? あんた、何でここに……って」
「七瀬くんが、えーー!?」
「そ、そうだったんだ……マジかー」
「綾希、立てないのか? 仕方ねえな。悪いけど、運ぶ」
「それはどうも……」
わたしの味方と中立・無関心な女子たちのほとんどは、体育祭によって敵と化した。由紀乃だけは、「はいはい、だと思った」なんて、分かりきってたみたいだった。七瀬に運ばれながら、怒り狂う女子たちのところに、上城くんが何かを言って、怒りをおさめていたところまでは確認出来た。
「な、七瀬……あの、降ろさなくていいけど、もう少し周りを見てくれないと困るから」
「……見てたし、他の女子のことなら知ってる。あいつのこともだ。でも、お前怪我してんじゃん。運動苦手なお前が怪我したんだ。何もしないとか、あり得ねえし。だから、こうしてる」
「なるほど……膝の怪我はこうして使われる」
「保健室に行く前に、そこの水で流すからいったん降ろすぞ」
「どうも」
七瀬の言葉通り、学校の中に入ってすぐの蛇口で膝の辺りを水で流した。このまま保健室に歩こうとしたら、また持ち上げられた。
「七瀬、一人で歩くし……」
「いや、無理だ。お前が良くても俺が無理。だから、もう少し我慢な」
どういう理屈ですか? 七瀬が無理って何ですか。むしろ我慢するのは七瀬だと思われる。廊下に人がいないのが幸いすぎたかもしれない。でも、外に出て行くのが怖い。そんな日になった。