30.七瀬の汗は光るらしい
じめっとした体育祭。それでも、陽射したっぷりに晴れていれば、時季とか関係ないって思えて来る。本番を迎えて、票をたくさん集めたクラTシャツを着ながら、同じクラスの人とか同じ色のチームを応援し続けた。
そんな中で、わたしは強制参加以外は、座って眺めてるだけの存在となっていた。サボりでも無く、それが自由参加の醍醐味的な感じ。このユルイ感じがあるから、ウチの学校は人気があるかもしれない。
「あやきち、七瀬が走るっぽいけど応援は?」
「してる」
「そこからだと見えないんじゃない?」
「座って応援。それで伝わる」
「そ、そか。それならば何も言うまい。ってか、七瀬の汗やばいね」
「大量?」
「そうじゃなくて、光ってる。アレ見たら、女子人気上がる」
「七瀬の汗が光る? 何者だっけ」
女子たちが騒いでいたのは陽射しを浴びたイケメンの汗は、爽やかに流れるからそれが何だか眩しく見えるらしかった。中でも、走っている七瀬の額や腕から流れ出す汗は、陽射しの光が反射してキラキラとまるで、星のように輝いて見えるとか。
「じゃなくて、見てるだけですごいイイ! ってくらいに一所懸命なイケメンなわけ」
「そうなの?」
「うむ! そんな光モノとあやきちは付き合ってるわけだよ。ちくしょー!」
「光る七瀬……わたしは地味だから丁度いい」
「あやきちは割と目立ってるけどね。話すまでは何とも言えなかったけど、面白いし天然だし、何かおかしいし。まっ、味方もいるから安心しなよ」
「どういたしまして?」
「うんうん、それそれ。それが彼にはヒットしたかもね」
確かに七瀬はわたしの変顔から、気になり出したらしいし、彼の中では大ヒット。隣の席の恩恵をまともに受けられたから、先生には感謝したい。
「おー! 上城君も捨てがたい! 可愛い系はいいね」
なんだかんだで、七瀬と上城君は女子人気が高い。最初の印象が悪すぎたせいで、わたしは上城君を避けていた。
だけど、彼の素は優しさに柔らかさがプラスされてて、気遣いが完備されているところが女子にはいいことなのかもしれない。
「あやきち、上城君が手を振ってる!」
「返してあげて?」
「や、あやきちに振ってるぽいな」
「代わりによろしく」
嬉しいことだけど、近くの七瀬に手を振りたい。上城くん狙いの由紀乃に任せた方が良さげ。
「任された!」
そんな感じで午前中は、ずっと座って見ていた。体育祭に親とかは特に呼んでない。けど、何故か勝手に兄が来ていた。
七瀬とはちあうことは、どうか許して欲しい。なんてことを思いながら、お昼は仕方なく兄がいるところに行くことにした。