20.熱をもらいに?
「38℃……んー、熱すぎ」
昨日の雨は、七瀬のおかげで確かに濡れなかった。けれど、しっかりと彼から移していたようで、予想通りにわたしは寝込んだ。さすがに学校は休んだ。今頃は、七瀬は学校に行ってる頃だろうか。隣にわたしがいなくて、泣いてる頃かもしれない。
「あや、なんか買ってくるけど何食べたい?」
「氷」
「あーはいはい、アイスね。鍵は閉めてるけど、誰か来たら返事はしてね。じゃあ、寝てて」
「いってらっしゃい」
わたしの家には、兄とわたしと両親の4人。兄はすでに社会人だけど、実家暮らししてるからしょっちゅう、顔を合わせてる。彼女いない歴何年とかで、わたしが相手してあげてる。熱を出したわたしを看たいとかで会社を休む気だったけれど、それはやめろって言っといた。
で、結局は親に頼ることになった。誰か来たら返事してとか、寝かせる気ないじゃん。なんて思いながら、冷たいタオルを取り換えに部屋を出たら、誰か来たっぽい。
チャイムを聞くたびに、どこかのコンビニに行った気になる。それがウチのチャイム音。その前に、鳴るだけで声が聞こえて来ない。いたずら? そのまま放置してみたら、昨日聞いた声が聞こえて来た。
「誰かいません? ここ、綾希さんの家で合ってます?」
「合ってません」
「お、その声、若干ハスキー入ってんな」
「犬は七瀬。わたしじゃない」
「ってか、開けてくれませんか?」
なんでこんな時間に来てるの? やっぱり休んだとか。それにわたしの家もいつ知ったんだか。
「……で?」
「綾希、休んだしつまらないから、早退してきた。ついでに、課題も土産に持ってきた」
「そういう押し掛け、いらないし。家もなんで?」
「先生が教えてくれた。俺、お前の彼氏ですって言ったらあっさり」
「じゃ、後で先生を訴えとく」
もちろん、そんな無駄なことしないけど。こんな急に彼氏なりたての七瀬が家に来て、家に上がるとか何かが間違ってる気がした。もしかして何かの陰謀があるのだろうか。
「いや、嘘だ。先生に言うハズないし。さっきその辺うろついてたら通報されそうだったから、試しに尋ねてみたんだよ。葛西さんのお家はどこですか? って感じで」
「それ、家から出たばかりの――」
「あぁ、綾希のお姉さんだろ? だから家を教えてもらえた」
「お姉さん? 七瀬って、視力いくつ? 相当目が老化してると思う」
「目はいい方だけどな。それより、何かして欲しい事ある? コンビニで適当に買って来た」
「熱をもらってくれると喜ぶ」
熱を逃がすには寝て寝まくって、冷たいタオルとか、とにかく何かしてくれるだけでも楽。そう思ってたけど、七瀬の方が熱上げてたっぽい。
「……その行為について、言い訳は?」
「しない」
七瀬がしたこと。それは、わたしの額に口をつけたこと。何かのシーンでそんな場面もあったけど、あんまりドキドキしなかった。
「綾希から熱もらっといた。早く治って欲しいし。お前が隣に座ってないと、俺、寂しいから」
「……どうも」
「と、とにかく、来週までには治れよ? じゃないと、困る」
「なぜ?」
「もうすぐ前期の中間だし、お前と勉強したい。またノート貸すし」
「あー……」
そういえばそんなものがあった。七瀬は真面目と優しさの塊なんだ。これはありがたいかも。
「七瀬、ありがと」
「お、おう。じゃ、じゃあ帰るから……って、なに? 何で服引っ張ってんの?」
その後の展開を何も考えないまま、七瀬の服を思い切り掴んでた。どうするべきかな。