表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミのその手に触れたくて  作者: 遥風 かずら
隣の席のカレ編
19/92

19.じゃあ、そういうことで。


 わたしも七瀬もお互いが好きってことが分かった。それはいいけれど、沙奈が七瀬にしたことをすぐに聞かされて、好きがそのまま消えずにお互いが盛り上がるかと言うと、そうでもないわけで。


「綾希。怒ってるよな?」


「……」


「アレは俺の油断であって、そのまま抵抗なく、されたわけじゃないんだ。だからその……」


「なにが?」


「いや、だから」


「ベッドに寝ていた。それで合ってる?」


「うん」


 沙奈が休み時間に保健室に行った時には、たぶん寝始めて意識がぼんやりしていた時だよね。それでキスされて、目覚めて告られた。だと思う。


「不意打ちには誰も勝てない。武士とかもきっとそう」


「は? 武士?」


「昨日、時代劇見てたから」


「はは……相変わらずだな、お前。まぁ、その、ごめん」


「ずっと残るわけじゃ無いし、気にしてない」


 気持ちが変わることの方が気にする。沙奈にしてみれば、わたしよりも先に告ってキスをして、それで奪おうとしたのかもしれない。たとえフラれても、キスしとけばそれが証拠にもなるし。たぶん、それかな。


「あぁ、まぁ。俺は口にじゃないけど、綾希の口はすでに付けられたわけだし、それで守られた感じで」


「わたしの口はバリア?」


「ある意味な。それがあったから良かったかもだし、汗かいて熱も下がった」


「そうなんだ」


 会話が弾まない。雨も冷たいけれど、どうにもならないもどかしさがあるような、そんな感じ。しばらく時間なんて気にしてなかったけれど、結構歩いてる気がする。気付いたら、七瀬は傘を閉じてた。


「あ、屋根のある所に着いてたんだ。どこ、ここ?」


「俺の家の近くのバス停」


「あー、家にしては小さいって思った」


「綾希って、面白いってか、自分じゃ気付かない天然か? それも可愛いけどさ」


「んん? なにが」


「まぁ、いいや。ハンカチタオル出して」


「あ、出番?」


 七瀬の家の近くなら、家で色々乾かしたほうがいいと思うけど、何でバス停で?


「はい、これ」


「いや、えと、俺すげー濡れたんだわ。それ使ってくれると嬉しいっつうか、綾希に傘傾けての貸しを返してもらおうかなと。お前、濡れてない。俺、すげー濡れた」


「……貸し借りなしにしたいってこと?」


「だって、嫌だったんだろ? 傘を借りるのも、傾けられるのも」


 そういうことをしてくる男なんだ。やっぱり、七瀬は子犬。わたし的に子犬。しょうがない子。七瀬の差し出したハンカチタオルを使って、七瀬の頭と腕とか水滴が付いてる所を拭いた。


「家に行けばちゃんとしたタオルあるよね? お風呂入って温まるべき」


「そうする。面倒なことさせちまって、ゴメン。でもこれで、風邪は悪化しない。約束する」


「まだ濡れてるとこある」


「ん? そりゃーシャツとかは仕方ないだろ」


「違う」


 七瀬のハンカチタオルは絞れる位になってたし、頭を拭いたから使えなかった。だから、わたしは自分の指を七瀬の唇に付けた。指をなぞらせて、七瀬の唇を拭いた。


「なっ!? な、なな、なにしてんのお前……」


「そこ、汚れてたから雨で濡れたわたしの指で拭いてあげた」


「汚れって……あ、そ、そうか。そうだけど、お前……あいつは友達じゃなかったのか?」


「敵」


「マジか」


 本当はわたしも対抗して、彼の唇に重ねれば良かったかもしれない。でも今、そんなのは嫌だ。雨の滴に紛れて、七瀬に付いた沙奈の……を、拭いて消したかった。今はそれだけでいい。


「じゃあ、そういうことで」


「んん? 付き合うって意味で合ってる?」


「合ってるけど、好きから嫌いじゃないに格下げしたから、それでよろしく」


「綾希、お前……やっぱり怒ってんじゃねえかよ。はぁ~~マジかよ……」


「じゃ、また」


「あ、あぁ。またな、綾希」


 雨も小雨に変わったし、ここにこれ以上いても何か嫌だった。七瀬と関係がすぐにどうこうになるとは限らないけれど、付き合うってことにはした。安心を覚えるまで、七瀬を守るしかないっぽい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ