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キミのその手に触れたくて  作者: 遥風 かずら
隣の席のカレ編

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18/92

18.ありふれたシチュでありふれた告白。


 雨で濡れるのはわたしだけでいい。でも、七瀬はそれが嫌っぽい。だったら、先生から傘を借りれば問題ないわけで。もっとも、特定の生徒に貸してくれるわけがないことくらい、知ってる。それでも七瀬に迷惑とかかけたくない。


「綾希どこ行こうとしてる? どうせ職員室とかなんだろ。やめろって、そんなの」


「んー? 七瀬は自分の傘使えばいい。わたしはどっかから借りるから、それでいい?」


「良くない。あぁーもう、アレだ! よくあるシチュ(エーション)とか嫌だったけど、それでいいや」


「んん? なにが?」


「とりあえず、外に出るから綾希も一緒な?」


「ん、わかった」


 何か知らないけれど、七瀬は何かと戦ってた。教室も廊下も誰もいなかったので、さすがにふたり一緒に玄関に向かった。


 外玄関からだと、雨ははっきり見えていてやっぱり本降りだった。これは、折り畳みでも厳しいかもしれない。当たり前だけど、傘立てには傘なんて入ってなかった。入ってても使わないけど。


「綾希って、案外意地張りなのな。俺が貸すっつってんのに拒否るとか、マジかよ」


「治ってないのにずぶ濡れって、どう考えても病院送り」


「送られねーし。そうじゃなくて、俺よりも綾希がやばいって。お前、俺から移しただろ? 絶対、明日寝込むはず。そしたら、学校来ても面白くないんだよ……」


 ああ、そうか。七瀬的にわたしって、面白枠が認定されてるんだ。だから、隣でいつも笑顔なのかな。確かにわたしがいないと、つまらないって思うかもしれない。他にいないもんね、机顔。


「じゃあ、さな……じゃなくて、他に面白い女子を見つければ解決する?」


「いや、だから……綾希、手を出して」


 手を出すってことは、手を繋ぐ? そう言えば、元カレともまともに手繋ぎして無かった気がする。とうとう、手繋ぎデビューかな。


「コレ、やるから家の近くってか、屋根のある所に着いたらそれ使ってくれる?」


 手繋ぎかと思ってたら、手に置かれたのは七瀬のハンカチタオルだった。なんで?


「で、傘開くから、俺の近くに寄って歩いてくんない? 嫌かもしれないけど、それでマジで頼むわ」


「んん? うん。いいけど、ハンカチタオルって何の為?」


「いいから、とりあえず濡れない所にしまっといて」


 理解出来ないままに、七瀬のハンカチタオルをカバンの中に放り込んだ。そして、彼の傍に寄って外を歩き始めた。


「スゲー雨だな。綾希、濡れてないよな? こういう時、俺の背の高さが役立ってる」


「七瀬も濡れてない? 大丈夫?」


「俺、傘スキル高いから平気」


 結局、ありふれているどこかの光景のままに、ふたりで一つの狭い面積を使って雨をしのいでいる。わたしも、七瀬もなんとなく、ありふれたシチュエーションに従うのが嫌だったかもしれない。


「こういうのって、ただのクラス……隣の席だからって、やることじゃないよな」


「もしかして、嫌い?」


「嫌いな訳ないだろ! 俺は最初っから好きで、いつもこんなありふれシチュを夢見てた」


「え? 好きって何のこと?」


 あー、一応とぼけたけど、好きってわたしのことだよね、これ。やっぱ机顔からなのかな。


「……っんだよ。だからー綾希が」


「うん、好きってことで合ってた。面白いからで合ってる?」


「それだけじゃない。でも、そういうことで合ってる」


 こうして七瀬と一緒に雨降りの中を歩きながら、気付いていたことがあったのは、わたしだけが全然濡れていなかったことだった。これは予想通り。絶対、小さい折り畳み傘をわたし中心に傾けて来ると思ってた。優しさの七瀬はそういうことをやるって予想してた。だから断ったのに、七瀬も意地張りだった。


「沙奈のことは?」


「何とも思ってない。さっき言わなかったけど、あいつ休み時間に来てた。で、告られた。けど、断った」


「あーだろうね。休み時間にちょくちょくいなくなってたから、そうかなって思った」


「それにあいつ……いや、何でもない」


「なに? キスでもされたとか」


「……」


 嫌な予感と感じは大概当たるもの。こんな傘シチュでそれを知ることになるなんて。かと言って、沙奈と同じことなんてやりたくないし、付き合ってないし。家の近くに着いたら考えよう。今は、とりあえず歩く。


「七瀬。とりあえず、七瀬の家どこ? そこじゃなくてもいいけど、屋根のあるとこに行く」


「あぁ、うん。このまま一緒に、来てくれればいいから。お前、走って逃げないよな?」


「ないし」


「分かった」


 全開で傾けられてて雨に濡れてないのに、ずぶ濡れで走って帰るとかないでしょ。んー、着いたら考えることにしよう。七瀬のこと、沙奈のこと。そして、わたしのこと。

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