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キミのその手に触れたくて  作者: 遥風 かずら
隣の席のカレ編
17/92

17.予感の雨に


 昼前には戻って来るくらい大丈夫だから。なんてことを七瀬は言っていたことを信じて、休み時間になる度に廊下を気にするくらいそわそわしていた。それでも、保健室から歩いて来る気配は無くて、さすがに心配になった。


 もうひとつの心配事。それは、沙奈が休み時間に教室からいなくなって、どこかに行っていたこと。もしかして、保健室に行っていたのだろうか。こんなこと、今まで気にしたことが無かったのに。沙奈の恋敵宣言がこんなにも、わたしを動揺させるなんてつい先日までは無かった。


 窓側の席と廊下側の席。廊下に近い沙奈の動きの方が、当然だけど早い。だから余計に不安に駆られてしまった。沙奈、七瀬のことが好きって言ってた。でもだからと言って、どうしてそんなのわたしに……嫌だ。


 お昼時間になって、ようやくまとまった時間が取れたので、保健室に行ける。そう思って、向かおうとしたら、教室の後ろ出入り口から七瀬の姿が見えた。これも今まで無かったけれど、わたしはすぐに彼の所へ近寄っていた。


「七瀬。生きてた」


「あ、あぁ。生還して来た。その、なんつうか心配かけた」


 休み時間に沙奈が来ていたのだろうか。それを聞いてみていいかどうか迷う。


「あの、や、休み時間にずっと保健室いた?」


 かなり遠回しに聞くしかない。どストレートに聞くとかなんか、無理。


「いたことはいたけど、寝てた。ん? 綾希、来てたの? 何か気配はしてたっぽいけど、気付かなかった。ごめん」


「や、行ってないけど。誰かがいたんだ? じゃあ、たぶんお迎えだったかも?」


「いや、それ笑えねー……せっかく、会えたのに。それはねーわ」


「……ん?」


「何でもないし」


 何かの気配がしてた……か。それって、やっぱり沙奈? なんて言えなかったから死神に置き換えたけど、沙奈だったならホント、嫌だ。


「自分の席で午後はずっと寝る。寝心地がいいベッドは、寝やすいけど一人だから寂しくてさ。隣に誰かいた方がいい。そう思った」


「そ、それはそう思う。七瀬も机顔になる? すごい楽しみ」


「どうだろうな、まぁ、綾希に見られて笑ってくれるなら、それでもいいな」


 いつもこんなことわたしに言っていた? なんか、意識しだしたら言葉の変化に驚きを隠せないんだけど? あぁ、どうしよ。どうすればいいんだろ。


「ふぁぁ~……おやすみ、綾希。先生公認だし、放課後まで寝る。帰る時、起こして」


「うん、おやすみ。七瀬」


 午後の授業が始まっても、机に伏したまま返事もしない七瀬。そのことを周りの女子たちは気にして見ていたけれど、先生は何も言わなかった。七瀬の言う通り、伝わってたんだと思う。


 夕方に近付くにつれて、季節が変わりやすい春っぽく、なんとなく髪が湿って来た感じがしたと思っていたら、曇って来てた。放課後直前には、雨が降り出した。七瀬は傘とか持ってきてるのかな?


 午後の授業が全て終わって、HR(ホームルーム)も終わった。七瀬はまだ寝ていて、ちょっと前に上城わいじょうくんが声をかけて来た。


「葛西、傘持ってきてる? 良かったら俺、貸すけど」


「大丈夫。それは上城くんが使う」


「あー、うん。まぁそうだけど。じゃ、じゃあまた!」


 上城くんとは話をする気にならなくて、七瀬をいつ起こそうかのタイミングを計っていた。わたしもそうだけれど、寝てる所を無理に起こされるとテンションが下がるどころか気力も削られてしまう気がする。自然に起きるのが一番だけれど彼は一向に起きる気配がない。


「七瀬」


「……」


「お迎えが来てるけど、起きたほうがいい」


「……んー? 死なねえし」


「もう夕方。目覚めてくれないと、閉じ込められるし」


 これは本当のこと。早く帰らないと玄関から出られなくなる。


「それもいいな」


「や、無理」


「即答かよ。へこむぞ……マジでってか、雨降ってるし! マジかよ~綾希、傘は?」


「持ってきてる。わけない」


「ですよね」


「七瀬も?」


「俺は真面目で出来てるから、折り畳み傘は持ってるけど一本だけだし、面積狭いしな……」


「それは七瀬が使う。わたし元気だから、濡れる」


 せっかくずっと眠って、顔色を良くしているのに七瀬の傘を奪うとか、それはさすがに無理。


「……綾希。俺の傘使え」


「や、それは……」


 風邪の病人から傘を奪ってずぶ濡れにして、数日風邪で寝込ませるとかそれはヒドイ。そんなのは、あり得ない。職員室に行って先生の傘を奪おう。


「綾希、行くな」


「――え?」


 出なければ帰れないけど、どういうこと。そう思いながら、彼の次の言葉を待ってみた。

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