15.七瀬の席は、指定席。
「誰にコクられたって?」
「比呂」
「てか、名前呼びって。なんて答えた?」
「分からないって」
「お前、それ言いそうだな。まぁ、それはいいや。いいけど、綾希のおかげでめちゃくちゃ暑いし」
「夏が来た?」
「ちげーし! シャツってか、変な汗かいた」
変な汗? ってなんだっけ。気になって、七瀬のシャツに近付こうとしたら、七瀬が何かに気付いて動きが止まってた。
「……ん?」
「綾希……七瀬に何してた?」
振り返ったら、そこに彼女がいた。
「話?」
思わず七瀬に聞いてみた。
「いや、俺に聞かれてもな。お前こそ何しに?」
誰が入って来たかと思えば、先生に言いに行っていた沙奈だった。わたしの言ったことを信じたかは分からないけど、一瞬だけ疑いの目をしてすぐに笑顔になった。
「綾希いなかったから、探してた。そしたらここにいたし。綾希、隣人がいないから寂しく思ってしまったん?」
「たぶんそれ」
「先生に何を言えばいいのか分からなかったし。黙って行くのはどうかと思う」
「あ、うん。ごめん」
沙奈に怒られたの、まずったかな。でも別にウソは言ってないし。
「で、七瀬は早退すんの? なんか、汗だく?」
「いや、さっきよりマシ。昼前に教室戻る。風邪うつさねえし平気だろ」
「分かった。その前に、確かめとく」
って言ったすぐに、沙奈の手は七瀬の額に乗ってた。
「汗だくだから熱かと思ってたけど、違うぽいな」
「いや、いいって! そんなことしなくても」
「熱計っただけやし。なに、焦ってん?」
「そんなことされなくても、分かる。自分の体に触れられるのは好きじゃない。医者と親と……」
七瀬がわたしをチラって見てた。そう言えば触った。というか、口つけてた。あれはセーフ?
「とにかく、大騒ぎすんな。先生にもそう言っといてくれればいいし」
「それならそれでいいし。昼前?」
「だから、ちょっとだけ寝させてくれ。綾希も教室戻ってていいから」
「ん、分かった。七瀬の席に誰も座れないように、指定席予約済みしとく」
「座らないだろ。でも、予約しといていい。あそこは、俺の場所だ」
指定席とか、席にそんなこと必要ないけれど、もしかしたら休み時間に誰か比呂とか座りそうな気がした。わたしの隣は七瀬じゃないと駄目だから。
「……へぇー? 綾希、比呂のコクり、断ったんだ?」
「知らないし。断ってないけど」
「七瀬の席には七瀬以外は座らせたくないって、そういうこと言うか~」
「……ん? 勝手に座るのはよくないし。そういう意味。なんか、おかしかった?」
なんか、さっきより怒ってる感じがした。なんで?
「とりあえず、寝るし。ふたり、早く教室戻っとけって」
「分かった。じゃ、また」
友達の沙奈との関係が分からなくなってきた。そんな感じ。