13.たぶん、好きかも
「沙奈の好きな人って――」
「葛西、あ、あのさ、話があるんだけどいい?」
んん? いま遮られた? なに、なんで。
「あたし、先帰るからさ。比呂、あとよろしく」
「なに、用事?」
「そうでもないけど、その方がいいかなって。じゃね~」
わかんないけど、置いていかれてしまった。なに話せばいいんだろ? 七瀬と同じに編入してきた男子だけど、あんまり話してないし合わない感じがするけど。
「沙奈と一緒にいなくていいの?」
「いや、別に。今は葛西と話がしたいし」
「あ、そうなんだ。なに?」
前と雰囲気違う? 大人しいけど、これが素とか?
「ごめん、前に会った時は沙奈に合わせてた。あれ、俺じゃないから」
「あ、うん。えと、何が?」
そんなのは気にしてないけど、何が言いたいんだろ。普段話してない人って良くわかんないな。
「用ないなら帰るけど」
「俺、葛西いいなって思ってて。でも、席、離れてるし話す機会無くて。だから、あいつ……沙奈に相談してた」
「うん……?」
「俺が気にしてるのは、葛西だから」
「……」
「葛西はあいつのこと、好きなの?」
あいつ……? 七瀬のことだよね。
「違う」
「え、じゃあ……」
「ちょっとわからない」
あ、コクられてるんだ、わたし。でも答えようがないなあ。比呂のこと、よく知らないし。それに、七瀬のことが好きになってるかもだし。
「ごめん。返事はちょっと無理」
「そ、そうか。あ、でも、学校でも話かけていい?」
「いいけど、比呂って双子なの?」
「へ? なに、いきなり……俺だけしかいないよ?」
「沙奈といた時と違うから別人なのかなって」
「はは、面白いね。その辺、いいって思った。あいつもそうだと思う」
「はぁ、どうも……じゃあ、帰るから」
告られたけど、何にも響いて来なかった。これってたぶん、知らないからだよね。やっぱり、距離が近い方がいいな。だから、七瀬のこと好きかもしれない。彼は優しさで出来てるし。
「うん、明日学校で! じゃあな、葛西」
「また」
先に帰った沙奈の好きな人が少しだけ気になるけど、沙奈のことだからそんなに本気じゃないかもだし。比呂のことより、七瀬と話が出来ればいいかな。隣だし、明日から春眠よりも彼と話したいな。