12.嫌いじゃないし。
「綾希、何か怒ってたりする?」
「……なにが?」
「なんつうか、いつもよりも更に絡みづらい気がする」
「変わってないかと」
「ん~~いや、分かるって。だから、ごめん」
わたしは、彼に怒っている。らしい。七瀬に彼女がいてもそれは正直言って、そうなんだくらいしか思ってなかった。だけど、勝手にライバル扱いされたのは嫌だった。だから怒る相手は彼にじゃない。それなのに、そう思わせてることが余計に、腹が立っていた。もちろん、自分に。
「好きなの? とか聞かれて嫌だっただろ。ホントにごめん。好きじゃないだろうし、あいつが勝手なこと言ってて、何かその、何て言うか……」
「あ、七瀬のことなら嫌いじゃないから」
「――えっ?」
これは本当のこと。隠す意味も無いし。それ以上の言葉がまだ出て来ないだけ。それだけなんだよね。
「えと、あれ? マジですか!?」
「ん、嫌いじゃない」
「うん? キライジャナイ……あぁ、だよな。そりゃそうか」
「どうしたの?」
「何でもない。大丈夫ですホントに」
直後に、何故かすごく大きなため息ついてた。何かおかしなこと言った?
「ホント、面白い奴だな。ちと、聞くけどよい?」
「どうぞ」
「付き合ってる奴、いる?」
「今はいない。最近までいたけど、振ったから」
これは隠すことでもないし、本当のことだから正直に言ってみた。七瀬の表情は出だし、喜んでたけどすぐに首をかしげてた。
「振った? 綾希が?」
「そう」
「何でかは聞かないけど、理想高いとか?」
「何となく」
「あー、うん……分かった。もう聞かない。そいつと俺は違うし、気にしない。俺、根性ある奴だし。それに、綾希の気持ちが聞けたのはマジで上がった。だから、やる気出す」
「よく分かんないけど、応援するから」
「そうか、サンキュな」
お店に入るまでの途中で少しだけ、ムカっとしていたけれど、彼と話をしていたら良くなった。嫌いじゃない。今はこんなことしか言えない。気にしてるけど、まだそんな感じ。
「んじゃ、今日はサンキュ。また明日な!」
「ん、またね」
その場で七瀬と別れて、家に戻ろうとしたら偶然にも、沙奈と比呂に出会った。やっぱり、そうなのかなって感じで歩いてた。
「あれ? 綾希じゃん。何してんの?」
「帰るとこ」
「同じだし、一緒に帰る?」
「いいよ」
普段、沙奈が誰とどうしてるとかなんて、気にしたことの無かったわたしだったけれど、どうしてか今日は、そういうことを聞いてみたくなった。
「沙奈って、付き合ってる?」
って、聞いた途端に、ふたりは顔を見合わせながら苦笑いしてた。おかしなことを言ったつもりなかったけど、違ったのかな。
「違う違う! あたしが好きな人、別だから。比呂とは全然、違うし」
「あ、そうなんだ。知ってる人?」
「んー……まぁ、そうかな」
何となく聞いちゃいけない空気だったけれど、誰なのか知りたくて聞こうとしたわたしに、比呂は遮るようにして、意外な事を言ってきた。それも、まるで別人なのかと疑う位の口調で。ホントに別人かも?