10.近付くカノジョとわたし。
七瀬は意外すぎるほど真面目男子だった。しかもわたしの名前で課題ノートを提出してくれるとか、どれだけの優しさで出来てるのだろうってくらい、彼はすごく優しかった。さすがに悪いと思って、わたしから放課後の誘いをすることにした。
「んと、七瀬に付き合って欲しいんだけど、行ける?」
「……待った。どういう意味か聞いていいか?」
「外に付き合えるかどうかを聞いてるけど……」
「あー……だよな。いや、分かってたけど。それって、今日のことで合ってる?」
「合ってるけど、なに?」
「いや、何でもないけど。綾希から誘って来るとか、現実かどうか疑った」
「課題ノートのお礼」
「それか。それのことなら素直に付き合う。サンキュな」
「なにが?」
「気にすんなよ」
むしろお礼をするのはわたしの方なのに、七瀬っていつもわたしにお礼してる気がする。何となくそれを言われると嬉しい感じがした。たぶん、七瀬の口癖かもだけど。
「んじゃ、放課後な。っつっても、隣の席にいるけどさ」
「うん」
放課後になって、七瀬は先に教室を出て行ったみたいで追いかけたら、外玄関で立ってた。
「一緒に行けば良かったのに、先に待ってたのはなんで?」
「いちお、気を使った。綾希って、あんまり気にしないのな」
「ん……?」
七瀬の気遣いって、恐らく教室の中での視線だと思うけど、少なくともわたしと七瀬のことを、そんな目線で見てる女子はいないと思う。一番後ろでいつも寝てるから、たぶん存在感無いだろうし。
「気にしてる?」
「そりゃあまぁ、する」
「沙奈に比べたら目立たないし、気にしなくても平気だと思う。比べ所が違うけど」
「あいつはあざとい。でも、綾希はそうじゃない」
「よく分かんないけどありがとう。で、合ってる?」
「多分な」
って感じで会話してても、何の気配も感じられないだろうし、周りから見てもそんな関係で見られてないだろうなぁ。弾んでそうで弾み損ねてるコミュニケーションって感じだと思う。
だけど、七瀬の顔を少しだけ見上げたら、機嫌は良さそうだった。何か嬉しい事でもあったのかな。七瀬は、わたしよりも背が高い。と言うか、平均より高い方だと思う。だから、彼を見る時は首を動かす必要があって、そんなに見ることは無かった。
歩く速度は、合わせてるのか知らないけれど、腕を伸ばせば手が届きそうな距離感だった。伸ばせば届く。この距離が縮まってくれば、何かが変わる可能性はあるのかもしれない。
「んじゃ、綾希の奢りだから付いてく」
「ん、分かった」
どこに行くかとか何も決めていないまま、通りを歩いているわたし。その後ろを、きちんと付いて来ている七瀬。背は高いけど、やっぱり子犬っぽい。何となく可愛く思えた。
人通りが多い道に出て、信号待ちをしていたら向こう側で誰かが手を振っていた。わたしの知らない誰かだったけど。信号が変わったと同時に、笑顔の彼女がわたしの方に……もとい、彼の元に向かって来ていた。
驚く以前に、完全スルーはどうなんでしょうか。そんなことを思いながら、振り返って七瀬の方を見ることにした。何となく、焦りを見せていたような気がした。もしかして、彼女なのかな?