60 下界へ降りたベルザ様
「ついに貴方も私に対する信仰心が芽生えたわけですね!?」
我らがポンコツ女神様は、心底嬉しそうにはしゃいで言った。が、俺には信仰心など微塵もない。
俺がここに来た理由。それは、ギャンブルにベルザの能力を利用する--ただ、それだけである。
「ええ、その通りです! 私、ようやく貴女様の素晴らしさを理解いたしました!」
「おお、そうですかそうですか! フフン、それなら仕方ありませんねぇ……貴方の今までの無礼な振る舞いは水に流して、私の信者となることを許可しましょう!」
「ありがとうございます」
しかし、目の前の女神様は、俺の舌先三寸にコロッと騙されたようだ。
フッ、チョロいやつだ。
「時にベルザ様……」
「なんでしょうか?」
「勉強不足で誠に恐縮なのですが、貴女様の女神としてのお力は、どういったものなのでしょうか?」
「私の力ねぇ……色々ありますけど、一番は、万物の運命を操ることですね!」
えっへん! と、薄い胸を張る女神様。
少し漠然としているが、随分と大層な能力だな。
てっきり、俺は、こいつは人をムカつかせる能力程度しか持ち合わせていないと思っていたが、そうではないらしい。
「万物の運命を操る能力……」
「それがどうかしたんですか?」
「いえ……そんな力があるなら、もしかして、特定の人物の幸運値を上げたりする魔法を使えたりするのかなぁ、なんて……」
「なんだ、そんなことですか。そんなの"運命を司る女神"たる私には、容易いことですよ!」
そうかそうか。その確認が取れたら、もう十分だな。
…………ククク。
「そうですか! 勉強になりました!!」
「フフン! では、可愛い信者の一人となったところで、地上に戻してあげましょう!」
そう言うとベルザは、俺の周りに魔法陣を展開させた。
いつもは忌々しく感じるこの落下式の移動手段も、今回ばかりは、感謝しなければならない。
それにしても、ここまで順調に事が運ぶとはな……ヤバい、笑いがこみ上げてきた。
「……ありがとうございます。では……」
こみ上げる笑いをこらえながら、俺は手を突き出し、
「可愛い信者の俺に、女神の力を与えてくださいよ!」
「? それはどういう……」
「俺と一緒に現世に降りてねぇ!」
「えっ……きゃあっ!?」
俺は、スキル"バインド"を使い、魔力で創りだした縄をベルザに巻きつけた。
これで、ほぼ計画完了だ。
あとは、俺が地上に落ちるだけだ。それだけで、バインドで捕縛されたベルザも道連れにできる。
「ち、ちょっと! 女神に対してなんて無礼な……いやぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ハハハハハハ!! よろしくぅ、ベルザさまぁ!!!!」
魔法陣が完成し、俺の身体が地上へと落ちていく。それは、バインドで繋がれたベルザも同様だ。
落下していく間中、俺の笑い声とベルザの悲痛な叫びが響き続けていた。
*
「望! ……あ、目が覚めたのね!? て、隣の女の子、誰よ!?」
あんまり騒ぐなよ。寝起きの頭に響くだろ。
……ん? おお、どうやらベルザを連れてくることはできたみたいだな。
俺の側には、バインドで縛られた青髪の少女がむくれているのが確認できる。
「よし、一先ず、作戦の第一段階は成功だな」
そう言うと俺は、ルーレット台の方へと、ベルザを引きずりながら向かった。
「いた!……いたたた!!……ちょっと、もうちょっと優しく運んでください! 女神はデリケートなんですから!」
「それよりも綾乃さん。その子は誰なんですか? 女神とか言ってますけど……」
足を止めた俺に、高宮がそんなことを聞いてきた。
心なしか、目に攻撃色が出ている気がするが、気のせいだろうか。
「ああ、こいつは女神・ベルザだ。今からこいつの魔法で、俺の幸運値を上げてもらって、ルーレットに挑もうと思ってさ」
「「「女神!?」」」
あ、そういえば、こいつらはベルザに会うのは初めてだったな。
まあ、説明する必要もないし、そのままで良いか。
「その通りです! 私がこの世界の女神であるベルザ様ですよ!」
しかし、ベルザは、三人の驚いた声に反応し、意気揚々と自己紹介を始めた。
「いや、そういうのは要らないから。とっととルーレットするぞ」
「ま、待ってください! これは女神に必要な口上で……そもそも私は、そんなイカサマの片棒を担ぐつもりはありませんよ!」
おいおい、急にどうしたんだ?
親愛なる信者に協力もできないのか、この悪徳女神は。
「そんなこと言っても良いのか、ベルザ様」
「な、なんですか?」
「協力しないなら、バインド解かないけど」
「フン、下界の下等生物のスキルを女神たる私が解けないとでも?」
「ふーん、ならやってみろよ」
「……………………協力します」
しばしの沈黙ののち、ベルザは項垂れるように協力すると誓った。
するなら、最初からしてくれよ。時間が勿体無いだろ?
まあ、何はともあれこれでカジノは攻略したようなものだな。
「よし! お前ら、行くぞ!」
俺は、涙ぐむベルザと後ろの三人に合図を送ると、ルーレット台へと足を進めた。
それはそれとして……。
「あいつ、小さな女の子を脅して言うこと聞かせてるわよ」
「最低ですね。勇者とは思えません」
「畜生じゃな」
仲間の視線が痛いです。




