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59 必勝法!

「ねえ、綾乃?」


「どうした、朱夏?」


「アタシたち、観光しに来たのよね?」


観光……そうだっけ?

確か、慰安旅行のはずだったのだが……。まあ、今のところ、慰安なんて全くできていないから、「観光しに来た」でもいいか。


「ああ、そうだけど」


「じゃあ、何でこんなとこにいるのよ!?」


朱夏の怒号が辺りに響く。

それに反応した周りの人々の視線が、一斉に俺たちに注がれる。

……ああ、視線が痛い。


「……あんまり大きな声出すなよ。周りの人に迷惑だろ?」


「出したくもなるわよ。何で……何で、よりにもよってカジノなのよ!?」


俺が注意しても、朱夏は納得いかない様子。

そして、自分たちの置かれている場所に、不満を漏らした。


朱夏の言葉の通り、俺たちは、カジノを訪れ、ルーレットに興じていた(主に俺が)。


ち、違うんだ。

別に、好き好んでここにいるわけじゃない。

今の俺には、そうせざるを得ない事情があるのだ。


「ていうかあんた、迷わずルーレットをやってるけど、やり方分かってんの?」


朱夏は、不安そうに俺を見た。


あまり俺を舐めないでほしいな。

ルーレットのやり方くらい理解している。……ただ、絶望的に勝てないだけだ。


「バカにするな、ルーレットの知識くらいあるわ!」


「そ、そう……」


「……前は、7000万くらい負けたけど」


「はぁ!? ま、まさかアタシたちのお金を……」


「安心しろ! 無くなったのは、俺をナンパしてきた男の金だから」


「いや、何にも安心できないから! それに、今使おうとしてるのは、アタシたちのお金でしょ!?」


「そ、その通りです……」


「ふざけないで! さあ、もうこんなとこ出るわよ!」


「い、イヤだ! は、離せぇぇ!!!」


「何でそんなに頑ななのよ!?」


朱夏は、台にしがみつく俺を引っ張りながら、そんなことを言う。

だが、それは、朱夏たちには教えられない。なぜなら、今回、俺が賭け事をしようとする理由は、朱夏たちにあるからだ。


今朝、高宮が俺に放った言葉。


「じゃあ、目を覚ましたところで、昨日はどこで、どんな女と何をしていたのか、しっかり話してくださいね?」


生憎、それを言うと高宮はその場を離れてしまったので、根掘り葉掘り聞くことはできなかった。

だが、この言葉から察するに、おそらく、昨日の修羅場は夢ではない。

つまり、俺が朱夏たちの怒りを買ったのは現実なわけで。今、こうして普通に接している彼女らが、内心、どう思っているかは分からないのだ。


もし、朱夏たちがまだ怒っていたとしたら、そのまま観光するのはマズイ。

だから俺は、彼女たちのご機嫌を取ることに努めることにしたのだ。


だが、機嫌を取るとしても、資金が5000万程度というのは心もとない。

色々金かかりそうだからなぁ……主に、食費とか、食費とか、食費とか。


だから、このカジノで資金を調達しにきたのだが、その前に朱夏から反発を食らうとは……。


まあ、ボロ負けしたやつに、「はい、どうぞ」と、抵抗なくやらせるような人間は、そういないだろう。

実際、俺自身には博才みたいな物は、毛ほども無いから、朱夏が止めるのは当然だ。


しかし、俺には作戦はある。

カジノから金をごうだ……勝ち取る作戦が。


「まあ、ちょっと待ってくれ朱夏。俺も無策で特攻するつもりじゃないんだ」


俺がそう制すと、朱夏は「どういうこと?」と、俺を引っ張る腕の力を少し緩めた。

しかし、俺は何も答えず、


「ヤエ! ちょっとこっちに来てくれ!」


と、離れた場所にいるヤエに声をかけた。


「……………………」


声をかけられたヤエは、なぜか、あからさまに嫌そうな顔をする。


まったく……さっきから、俺たちのやり取りを後ろの方で見て、高宮と一緒に他人のフリを決め込んだりと、失礼だな。


やがてヤエは、諦めたようにため息をつくと、俺たちの方へとやって来た。


「……なんじゃ、一体?」


「ヤエ、幸運値上昇の魔法を俺にかけてくれないか?」


「「…………は?」」


朱夏とヤエが口をポカンと開け、素っ頓狂な声をあげる。ちなみに、高宮は、未だに他人のフリをしている。……反抗期が治らないようだ。


「あ、あんたそれ反則……」


「まあ、待て朱夏。外道的な方法だが、そうしないと俺の博才では勝てないんだ」


抗議しようとする朱夏を、手で制し、理論的に説得する。

正攻法で勝てるなら、こんな手は使いたくないんだが……いや、そんな「だったら、最初からやるなよ」みたいな顔しないでくれ。

こっちも死活問題なんだから。


「……そもそも妾は、そんな魔法使えんぞ?」


「へ?」


「いや、お主ら、妾がその魔法を使える前提で話しておるがのぅ……何の根拠があって妾に願ったのじゃ?」


「それはその……なんとなく使えるかなぁって」


「あ、あんたねぇ……」


やめて! そんな「こいつマジか!?」みたいな目で見ないで!


「大体、幸運値上昇魔法など聞いたこともないぞ。仮に、それがあったとしても、使えるのは、神と呼ばれる存在くらいではないかの」


「そ、そうなのか……」


神か……ん? もしかして、あいつなら……。


「ど、どうしたの?」


俺は、朱夏の問いかけにも答えず、必死に、この世界の"神"に祈りを捧げた。


(この世界のありとあらゆる理を司る女神・ベルザ様。どうか、虚弱、貧弱な私にお力をお貸し下さいませ!)


というような、祈り……というより称賛? を心の中で唱えると、今の今までハッキリしていた意識が急に薄れ始めた。

俺は、それに抗うことなく、意識を手放した。



目を開けると、またあの白い空間。

そこには、お馴染みの青髪の幼い少女がおり、いつにもなくはしゃいでいた。


「ついに貴方も私に対する信仰心が芽生えたわけですね!?」


いいえ、違います。


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