58 夢であってほしかった……
「うぅ……」
「お目覚めですか?」
目を覚ますと、俺は例の場所で横たわっており、例の少女に見下ろされていた。
今回で、訪れるのは三回目となる、女神の座す場所。
真っ白で何も無く殺風景、それでいてどこか神聖さを醸し出している不思議な空間。
そしてその空間では、青髪を携えた美少女--女神ベルザが呆れたような視線を俺に向けていた。
「あの……」
「なんですか?」
「どうして俺は、またここに?」
「はあ、そんなことも分からないのですか?」
「ここに来る前の、自身の置かれていた状況を思い出してみたらいいですよ」と、ベルザは小馬鹿にしたように言った。
その態度に、少しイラっとしたが、素直に、目を覚ます前の出来事を辿ることにした。
確かヤエに、サキュバスと出会ったことを、微妙に勘違いして見破られ、三人から尋問という名の死刑執行を受けた……はずだ。
そして、俺は今ここにいる。これは、つまり……。
「俺は死んだわけですね?」
「いえ、そういうわけでは……」
「そうですか〜。ついに死んじゃいましたか〜」
いや〜、残念だな〜。
二回目の人生もここで終わっちゃったか〜。
「あの、ちょっと……」
短い人生だったなぁ。
一回目は、何の因果か異世界転移に巻き込まれて、出来損ないの汚名を着せられながらも、魔族の攻撃から二人の美少女を庇って死ぬという華々しい人生? だった。
二回目は、……これはあんまり格好良くなかったな。
性格最悪の悪徳女神に、無理やり綾乃に憑依させられたのが運の尽き。
あらぬ疑いをかけられ、仲間の美少女たちに袋叩きにされて死んでしまったんだから。
ま、それも今となっては良い思い出か。
「聞いてますか?」
ったく、さっきからうるさいなぁ。
人がせっかく感慨に浸っていたというのに。
「ちゃんと聞いていますよ。それで、俺の処遇はどうなるんです? 天国行き? それとも地獄? もしくは転生ですか?」
できれば転生を希望したいな。それが無理なら、天国でも別に良い。
……地獄行きはごめんだが。もし、地獄行きを宣告されたら、暴れてやるからな。
しかし、ベルザから帰ってきた答えは、俺の想像とはまったく違うものだった。
「どれでもないですよ」
なん……だと?
「というか、全然私の話聞いてないじゃないですか! 貴方は死んでいませんから!」
「え、そうなのか?」
「ええ。仮に、本当に死んでも、勇者である貴方は私が何回でも蘇生します」
何、そのリアルRPGの世界……。
つまり、どんなに死んでも、魔族に勝つまで蘇生させられるってことか。
ありがたいっちゃありがたいけど……それはそれで地獄じゃないか?
それに、勇者だから〜と、死んだ人間を蘇生させるのは、女神であってもどうなんだ。
「死んだやつを無制限に生き返られても良いのか?」
「ええ、もちろん! ……本来は、"天界条例"とかいうくだらない規約で禁止されているのですが、そんなのは女神の権限でチョチョイのチョイですよ!」
満面の笑みのベルザ様。
それならそれで良いか。
ま、まあ……今は深く考えないでおこう。
それにしても……。
「死んでないなら、なんで俺はここにいるんだ?」
「それはですねぇ……」
お、なんだ、えらく神妙な顔つきだな。
「話し相手が欲しかったんですよ!!」
「………………は?」
何を宣っているんだ、この女神は。
「いや〜、女神をやってるとたまに、むしょーに誰かの話したくなるんですよね〜! 万物を見下ろせるこの仕事は好きなんですけど、話し相手がいないのが玉に瑕なんですよ〜!」
なんじゃそりゃ……。
そんなくだらない事でいちいち呼び出すなよ。
死んでしまったと勘違いしただろうが。
「……んで、こうやって俺を呼び寄せたわけですが、満足していただけました?」
「ええ。もう用済みなので帰って良いですよ!」
絞め殺してやろうか、この野郎っ……。
元の身体に戻ったら、覚えてろよ! 泣いて謝るまで、ありとあらゆることをしてやる!
「じゃ、さよなら〜!」
ベルザは、手を振ると有無を言わさず魔法陣を展開させ、俺を現世へと叩き返した。
*
「アヤノ……おいアヤノよ!」
「……はっ!?」
「おー、やっと目を覚ましたか? お主が話の途中で、急に眠ってしまったから心配したぞ」
俺が目を覚ますと、ヤエたちの心配そうな顔が目に入った。
その顔には、俺に詰め寄っていたときの恐ろしい形相は微塵も感じられない。
一体どうしたのだろうか?
そんな簡単に、許してもらえるような感じではなかったんだけどな。
「急に眠ったって?」
とりあえず、そんな話を振ってみる。
「忘れたの? あんた、アタシたちにデートの話を振った時に、いきなり眠りだしたのよ」
どういうことだ?
朱夏が言っているのは、おそらく、俺がベルザに呼び出された時のことだろう。
だが、俺の記憶では、ベルザに呼び出されたのは、ヤエたちに詰め寄られた直後だったはずなんだが……。
「どうかしたの?」
「え!? あ、いや……」
「……まあいいわ。それより、これから4人で街を観光しましょうよ!」
「それは良い考えじゃな。昨日は、邪魔が入って別行動になったからの」
そう言うと、2人は、はしゃぎながら、観光プランを立て始めた。
……2人には、怒っている様子も何か隠している様子も見られない。
……あれは、俺が見た単なる夢……だったのか?
そっか、そりゃそうだよな!
仲間であるこいつらに、俺がサキュバスとの出来事を気取られて、詰め寄られるなんてことないよな!
俺が安堵していると、先ほどまで口を閉ざしていた高宮が、スススッと俺に近づき、耳元で、
「じゃあ、目を覚ましたところで、昨日はどこで、どんな女と何をしていたのか、しっかり話してくださいね?」




