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56 残念サキュバスとの再会

「お姉さ〜ん、そんなトコでひとりでなにしてるんですか〜?」


陽が傾き、人通りの少なくなった娯楽都市の路地。

そこに迷い込み、道を失った俺は、幼い少女に声をかけられた。


「ちょっと道に迷ったんだよ。それより、君は?」


道に迷ったことより、そっちの方が気になる。


目の前の娘は、フードで顔が隠れているが、背格好や声質からして、かなり年齢は低そうだ。

そんな娘が、薄暗い路地に一人いるというのは、随分ミスマッチな光景に思える。


「……そうですか〜。道に迷っちゃったんですか〜、それは大変ですね〜」


なんだ今の間は?

ひょっとして、はぐらかされたのか?

そうだとしたら、一体なぜ……?


考えている俺の手を、少女が突然掴み、


「それなら〜、迷っちゃったついでに、わたしがはたらいている店に来ませんか〜?」


「えっ? いや、何のついでだよ……」


「細かいことはいいですから〜」


「細かくは無……」


「さぁ、はやく行きましょ〜!」


「ちょ、ちょっと待……うわっ!?」


少女は、俺の話に全く耳を貸さず、強引に俺の手を引いて、路地の奥へと進んでいった。


*


路地の奥を進んで数分が経っただろうか。俺の手を引いていた少女が、突然、足を止めた。


「お姉さ〜ん、着きましたよ〜!」


「ここって……」


少女に連れてこられたのは、何の変哲も無い路地の道が途切れた行き止まりだった。


「いや、何ここ?」


なんか、余計に道に迷わさせた感じがするんだが。

それに店に連れて行くんじゃなかったのか?

それらしき建物すら無いんだけど……。


「フフ、バカな人間ですね〜。ノコノコついて来ちゃって〜!」


「え?」


「ついて来てくれたお礼に、バカなお姉さんには、最高に気持ち良くて死にたくなるくらいイイことをしてあげますね〜!」


そう言うと、少女の身体が怪しく発光し始めた。


紫の光が辺りを包み込み、それが晴れると、少女の身体が変化していた。


被っていたフードは消え去り、隠れていた顔が露わになる。

整った容姿に、クリクリとした紫色の瞳に、美しい金髪。コウモリのような黒く小さな両翼と悪魔のような尻尾が生え、幼い身体を煽情的な衣服で包んでいる。

その姿は、魔族……それも、生物の精を糧として生きるサキュバスのようであった。


「フフ、驚きましたか〜? でも、大丈夫〜! すぐに気持ち良いことで頭がいっぱいになって、他のことなんかどうでもよくなりますから〜!」


くっ、まさか街中でサキュバスに遭遇するなんて……。


……それにしても、このサキュバスどこかで見たような?

……あっ、こいつは!


「お前、ルナとかいう名前のサキュバスだろ!?」


「へ、どうしてわたしの名前を……?」


「前に会っただろ!? ネウム教団の教祖と契約したお前の呪いから、私たちが信者を助けた時に!」


「…………あ〜〜〜〜〜!! あなた、あの時の凶暴な人たちを連れてた人ですね!?」


やはり、このサキュバスは、ネウム教団の黒幕であったルナで合っているようだ。

会ったことに気づかず、俺を連れて来るとは、マヌケだな。

俺も気づかなかったから、ブーメランになるけど。


それにしても、凶暴って……朱夏と高宮のことか?

言い得て妙だな。


「あの時はよくも……おかげでたっぷり始末書を書かされちゃったじゃないですか〜!!」


いや、知らんがな。


「……そんなことより、こんな所で何してるんだ?」


「何って、もちろん吸精ですよ〜。そろそろししょーに手伝ってもらわずに、ひとりでやらないとですからね〜!」


ししょーとは、ルナを助けに現れたあの大人っぽいサキュバスのことだろうか?

……まあ、それはそれとして。


「なんで私なんだ? 一応、女なんだけど」


「吸精に性別は関係ありませんよ〜? 女性でも問題ありませ〜ん。それに、男の人って、なんだか怖いですし〜」


へー、サキュバスは女相手でも吸えるのか。初めて知った。

しっかしまあ、男性恐怖症のサキュバスって、大丈夫なんだろうか……。


「そうか、なるほどな。じゃあ、頑張れよ!」


「はい〜、ありがとうございますぅ〜……って、ちょっと待ってください〜」


慌てたようにサキュバスが、背を向けた俺に追いすがった。

ちっ、逃げられなかったか。


「なんで逃げるんですか〜!? サキュバスの吸精ですよ〜!? とっても気持ち良いんですよ〜!?」


「バカかお前は? 気持ち良くても、吸われたら死んでしまうだろうが!」


サキュバスに出会ったら、死ぬまで精を搾り取られる。

そんなことは、常識中の常識だ。


あまり俺を舐めないでもらいたい。


中身は男子高校生でも、命より性欲を優先するような、脳みそに精液が詰まったサルのような愚行はしない。

命の方が性欲より……ギリ大事だ!


「そういうわけだから、吸精したいなら別のやつを探すんだな」


俺はそう言って、来た道を帰ることにした。


「あっ!? こうなったら"魅了(チャーム)"で……アレ、なんで効かないんですか〜!?」


どうやら、魅了は不発に終わったようだ。


「ま、待って……ふぎゃぁ!?」


あ、転んだ。


ルナが転んでいる間も、俺は止まらずに進んだ。


「ま、待ってください〜! また、ししょーに怒られちゃいますから〜!!!!」


あー、知らん知らん、聞こえなーい!!


こうして、俺は、残念ロリっ娘サキュバスから、辛くも逃げ果せたのだった。


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