53 娯楽都市デレニス
雲ひとつない青空、それはまるで、俺たちの慰安旅行をの行く末を神が祝福しているかのようだ。
……この世界の神は、あの悪徳女神なので、奴の祝福なんぞいらんけどな。
「んん、ようやく到着か〜!」
俺は、丸二日馬車に乗って凝り固まった身体をほぐしながら、目の前に広がる街を見据えた。
世界一の娯楽都市"デレニス"。目の前には、その前評判に違わぬ、活気溢れるド派手な街の景観が広がっていた。
「うわ〜、人多いわね! コルも凄かったけど、それ以上だわ〜」
「ふむ、アヤノよ。早速、食事処へ行こうぞ」
狐人姫は、どこまでも食欲に忠実でございますね。
ヤエ……お前は、もっと目の前の風景に感動したりできないのか?
見てみろ、この街の景観を。派手で美しい、今まで訪れた町とは、どれとも重ならない魅力がある。
しかも、ただ美しいだけじゃない。
食事はもちろん、ショッピングにも事欠かない充実っぷりで、他にも、観光スポットも豊富……というより、街全体が観光スポット化していたりもする。
さらには、慰安旅行にぴったりな、天然温泉のある宿や巨大カジノが備わった高級ホテルもある。さらにさらに、良質な娼館も存在するという、色々な意味で凄まじい街なのだ!
「ほれ、何をしている、さっさと行くぞ!」
「あっ、ちょっと急に走ると危ないわよ!」
待ちきれなくなり、走り出したヤエとそれを追う朱夏。
ふむ……腹を空かせたヤエは、食事以外の事に興味を持てないようだ。
なら仕方ないか。
一応、ヤエにはフードを着せ、ケモミミを隠しているから、攫われるなんてことはないと思うが、はぐれたら面倒なので後を追うことにしよう。
「高宮、俺たちもはぐれないうちに行こう」
「………………」
「どうかしたのか、高宮?」
さっきからずっと黙ってるけど。
「あ、すみません。ずっとあの口調でいると思っていたので……」
あの口調?
……ああ、ここに来る前までやってたお嬢様口調のことか。
まったく、そんなことを考えて、今まで黙ってたのか。
「あんなこといつまでもやる訳無いだろ? 周りからバカだと思われたらどうすんだ」
「えっ、ああ……それは問題ないと思いますが……あなたは元々がアレですし」
なんと失礼な!
俺が元々バカだとでも言いたいのか? そんなこと言ったら、終いにゃずっとあの口調で話すぞ!?
*
「ふぅ〜、お腹いっぱいじゃ〜!!」
お腹いっぱい食べたヤエのご機嫌な声が、人々の行き交う街の大通りに響く。
「くっ、一回の食事で100万ベルもかかってしまった……!」
どういう食欲してんだ、この狐は。最後の方には、おかわりした皿が積み上がってタワーみたいになってたぞ。
それにしても、さすが高級店だったな。美味いが高い。ヤエが食いまくったのもあるけど、まさかこんなに取られるとは……。
「のう朱夏。次はあの店に行きたいんじゃが」
「ま、まだ食べる気なの?」
待て狐。お前今お腹いっぱいって言ってただろ!?
何まだ余裕みたいな顔してんだよ!?
「お金、保ちますかね?」
どうだろう……? なんか不安になってきた……。
そんなことを考えながら歩いていると、道行く男たちの視線が俺たちに集まっていることに気づいた。
「あの四人可愛くない?」
「オイ、お前ちょっと声かけてこいよ!」
「いや、お前が行けよ!」
「俺は、あの黒髪ロングの娘がいいな〜」
「フヘヘ、俺は赤髪の幼女が」
「このロリコンめ!」
などという会話が聞こえてくる。
……忘れかけていたが、俺の身体である綾乃を含め、四人とも容姿は優れていると言っていい。
ちっ、面倒だな……この街の雰囲気で、開放的になった野郎共がいることも考慮するべきだったか……。
俺が心の中で舌打ちしていると、先を歩く朱夏とヤエの行く手を阻むように、若い四人の男たちが立ち塞がった。
おそらく、さっきヒソヒソと話していた連中のどれかだろう。
「……ん、なんじゃ?」
「やあ、キミたち今ヒマ? 良かったら俺たちと遊ばない?」
そして、軽薄な笑みを浮かべながら、ナンパしてきたのだ。
「はぁ……妾には貴様らの相手をするような暇は無い」
「邪魔だからあっちに行きなさい」
男たちはよほど勝算があったのか、余裕の表情だったが、ヤエと朱夏は、それを冷たくあしらった。
特に、店探しを邪魔されたヤエは、心底うんざりした様子だ。
どこまでも食欲に忠実な狐姫である。
「えっ!? いや、ちょっと待ってよ! 俺たちといるの、きっと楽しいよ?」
「そうそう! 行きたいトコに連れて行ってあげるし、好きなモノも買ってあげるからさぁ」
「自慢じゃないけど俺ら結構金持ってるし、不自由させないって!」
しかし、男たちは、そうなことを口々に言って、必死に食い下がる。
ホント、面倒な連中だな。
……それにしても、自分で自慢するだけあって、奴ら本当に金持ってそうだな。
体型は、太ってたり痩せたり様々だが、皆一様に身なりは良い。
さながら、バカンスで、女を引っ掛けに来た金持ちのボンボンといった感じだ。
金持ち……金持ちか……これはもしかしたら、利用できるかもしれない。
そう考えた俺は、すかさず男たちに駆け寄り、朱夏たちに聞こえない程度の大きさで、話した。
「あんたら、ホントに金持ちなんだよな?」
「えっ、そ、そうだけど……」
そうか、そうか。
なら--
「なら、私たちの食事代とか払ってくれたりする?」
「あ、ああ。もちろん払うよ! なあ、お前ら?」
「お、おう、任せとけ!」
「お安い御用さ!」
「うん、問題ない」
よしよし、良い答えだ。
男たちの答えに満足した俺は、綾乃の演技をして、朱夏たちに向かって--
「みんな! この人たちについていこうよ!」
「「「えっ!?」」」
アレ?
三人が急にフリーズしたぞ、どうかしたのか?
ま、まさか、綾乃の演技が下手になっていたのか!?
しばらくやってなかったからなぁ……これから、ちょっとずつ練習するか。
少しすると、三人のフリーズが解け、俺の言葉の意味を、懸命に咀嚼し始めた。
なるほど、俺の意図が分からなかったのか。
しかし、考えても分からなかったらしい。
「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」
三人の少女の絶叫が、街に響き渡った。




