43 人攫いと獣人少女
「ああん、なんだてめぇら!?」
突然間に割って入って来た朱夏と高宮に、男の1人が額に青筋を立てて、怒鳴り散らした。
しかし、朱夏たちはそれに全く怯むそぶりをみせず、男たちに対して怒りと軽蔑を含んだ視線を向けていた。
それにしても、この男たち、2人とも見事な悪人面だな。
両方の特徴が似通ってて区別がつかないな……よし、分かりやすく、さっき怒鳴った方を悪人面1号、もう1人の方を悪人面2号としよう。
「おいおい、仕事の邪魔しといてだんまりか嬢ちゃんたち。……なんとか言ったらどうなんだ!?」
悪人面1号は、朱夏たちが怯まず、しかも、何も言わずに睨みつけてくるのが気に食わないのか、元々歪んでいた顔をさらに歪ませ、怒りを露わにした。
しかし、そう言われても朱夏たちは、口を利くつもりは無いようなので、仕方なく俺が話すことにした。
「仕事ねぇ……子供を大の男2人がかりで追い回すなんて、ずいぶん悪趣味な仕事だな」
「んだとてめぇっ!!」
「よせ、こんな小娘どもに構うな。仕事が優先だ」
俺の物言いに、目を見開きキレる1号を止める2号。どうやら、2号の方が少しばかり冷静なようだ。
しかしまあ、こんな小さな子供がターゲットの仕事か……さっき浮かんだ人攫いやら人身売買といったイメージは、間違いではなかったかもな。
「ちっ、分かったよ……いや、待て。こいつらもなかなかの上玉だぞ。特に……」
「……ああ、そうだな。確かに、こいつらなら高く売れそうだ」
男たちは何やらヒソヒソと話し合うと、こちらに顔を戻した。その表情は、先ほどのイラつきは消え、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。
ああ、この展開は……。
「ケケケ、悪りぃな嬢ちゃんたち。お前らも俺たちと一緒に来てもらうぜ」
「なぁに、心配するこたぁねぇ。命までは取らねぇよ」
「そうそう。まあ、変態貴族の奴隷として一生を過ごすなんてのは、女としては死んだも同然かもしれんがな!!」
ガハハハハハ!!!! と男たちのバカ笑いが荒野に響き渡る。
やはり、この男たちは奴隷を斡旋する人攫いだったようだ。
おおう……なんというテンプレ展開。
普通の物語なら男主人公が助けに入り、エロ同人ならイケナイ展開になりそうだな……この世界じゃどっちも無さそうだけど。
男たちの言葉に俺は「おおっ、テンプレ!」としか思わなかったが、仲間の2人は違ったらしい。
朱夏たちから滲み出た殺気が辺りに広がり、いつもの5倍増しの威圧感を感じる。
それに対し、二人の人物は竦み上がっていた。それはもちろん、助けた子供とこの俺だ。
人攫いの男たちは気づいていない。早く気づけ、死ぬぞ。
だがこの男たちは何を思ったのか、俺たちが自分たちに対してビビっていると勘違いし、さらに余裕たっぷりの表情になる。
「ククク、まあそうビビるな。……さてと、まずはお前から味見させてもらうぜ」
1号が俺に顔を向け、舌舐めずりしながら近づいて来た。そこでもうこの男の運命は決まった。
「や、止めとけって!」
「あんまり暴れんなよ……ぎゃあぁぁぁ!?!?」
「綾乃さんに触れないでください。綺麗な身体が汚れます」
男が俺の……綾乃の身体を掴もうとした瞬間、どこにそんな俊敏性があるのか、高宮が一瞬で距離を詰め、男が掴もうとした腕を握り潰したのだ。
だから止めとけと言ったのに。
高宮は、ネウムで教祖を半殺しにした時の修羅モードに入ってしまったようだ。
「ひいっ!?」
「ガァッ! な、何が……」
2号が情けない悲鳴をあげ、片腕を潰された1号は、何が起こったのか理解できず、突然襲ってきた痛みに混乱している様子だ。
「フフフ……まだまだ終わりませんよ。……覚悟してくださいね?」
高宮は満面の笑みを浮かべ、問答無用で1号の腕をあらぬ方向へと捻じ曲げた。
「ひぎゃぁぁああああ!!!! や、やめて……ぎゃあ!? た、頼む……がぁぁっ!?」
男は涙ながらに懇願するが、修羅となった高宮には届かない。
腕、指、足……肢体のあらゆる部分をへし折られた男は、最後には意識を飛ばし、泡を吹いてピクピクと跳ねることしかしなくなった。
ニ回目だが、相変わらずグロい。
ふと、朱夏に目を向けると、さっきまで凄まじい殺気を放っていたはずなのに、今は例の子供と抱き合い、プルプルと震えていた。
完全にトラウマになっているようだ、可哀想に。
「ひいぃぃぃっ!!」
目の前で、仲間が現代アートのおもしろオブジェに変えられた2号は、腰を抜かし悲鳴をあげるだけだった。
それも仕方のないことだろう。次は、自分がこうなるのだから。
「た、頼む、助けてくれ!! 俺たちは、脅されて仕事をしてただけなんだ!! 本当はこんなこと……」
2号は、俺に対して命乞いをしてきた。今頃になって命が惜しくなったのだろうか。
しかし、命が惜しくなった割にはお粗末な命乞いだな。
さっきまでの事を見て、脅されてやっていただけ……なんて誰が信じるのか。
「脅されて? 見え見えの嘘つくなよ。俺たちをターゲットに加えたり、味見しようとしたり、ノリノリだっただろ」
「うっ……す、すまなかった!! も、もうこんなことはしないから、許してくれ……!!」
男は、同情を買わせるのを諦め、今度は必死に謝し始めた。頭を地面に擦り付ける、それはもう見事な土下座だ。
はぁ……どうしたもんかな。
俺は少し考え、やがて結論を出した。
「おい高宮」
「…………」
最終決断を伝える。
「……殺れ」
「言われなくてもそのつもりです」
「い、いやだ!! く、来るな!! ……ぎょぇぇええええええ!!!!!」
刑を執行された男の絶叫が荒野に響き渡った。耳を塞いでいても聞こえるのだから、相当な痛みなんだろうなぁ。
俺は、未だに震えている朱夏たちの元に行き、目と耳を塞いだまま、同じように震えていた。俺も完全にトラウマになってる。
やがて声が止み、目を開けると、スッキリした表情の高宮と1号と同じくおもしろオブジェと化した2号の姿があった。
……二人ともかろうじて息はしてるみたいだな。時間の問題だけど。
その光景を見て、俺は、敵ながら少しばかり同情の念を抱いてしまった。
……まあ別にいいか、こいつらのことなんて。
それよりも、子供のケアが先だ。
高宮によって展開される、R15指定映画も真っ青の地獄絵図。
耐性がなかったら、大人でもトラウマになるような光景を、まともに見てしまったこの子の精神的ダメージは、計り知れない。
「お、おーい……大丈夫だったか?」
主に、おもしろオブジェ製造過程を見たことについて。
「……はっ! も、もちろん大丈夫じゃ、問題ない!」
俺の呼びかけに、正気を取り戻したその子は、慌てて答えた。
フードで顔は見えないが、声質的に目の前の子供は、幼い少女のようだ。
ほんのさっきまで放心していたけど、本当に大丈夫なんだろうか? あえて口にはしないが、少し心配になる。
「それよりもお主ら、人間のくせに妾を悪漢共から救い出すとは、なかなかやるではないか!」
特徴的な口調で話しながら、少女はおもむろにフードを脱いだ。
「「えっ!?」」
「へー……」
露わになった少女の姿に、朱夏と高宮は驚きの声をあげ、俺は感心したような声が自然に出た。
目の前の少女は、綺麗な腰あたりまである黒髪と幼いながら整った顔を持っていて、そのままでも人目をひくのだが、普通の人間とは明らかな違いがあった。
少女の頭には、動物の、それも狐の耳が付いていたのだ。




