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34 サキュバス

「ふぅ……これに懲りたら、こんなことはもうしないことですね」


教祖の一通りボコった高宮は、満足げに一息ついた。

さて、そう忠告された教祖様はというと……


「…………ぁ、ぅぁ…………」


虫の息でまともに返事すらできないようだ。

その身体はいたるところにアザを作り、出血もしている。腕やら指やらも所々あらぬ方向に曲がっており、その姿はさながら、スプラッター映画のやられ役の末路を見ているようだ。


いや〜、本当に凄惨な光景だった。

痛みに泣き叫ぶ教祖を怒りに任せて殴る蹴るを繰り返していた高宮。その悪鬼羅刹の如き所業は、仲間である俺が止めに入ろうかと迷うほどだった(迂闊に止めに入ったら、俺まで巻き込まれそうだったのでやってないが)。


「おーい、朱夏〜。もう終わったから、目を覚ましてくれ〜」


俺は白目をむいて立ったまま気絶している朱夏に声をかけた。


「……はっ!? な、何……終わったの?」


はっと目を覚ました朱夏は、悪鬼の蹂躙劇の終幕を願うかのような目をして、辺りを見渡している。

大丈夫です、もう終わりましたから。

可哀想に朱夏は修羅と化した高宮がトラウマになってしまったようで、見渡した時に目に入った、教祖だった物を見て、また気を失いそうになっていた。

彼女がトラウマを早く克服できることを切に願っているよ。


「くっ、せっかく力を与えてあげたのになんて使えない奴……」


一件落着と思っていたところに、ふとそんな忌々しげな声が響いた。

声にする方に目を向けると、元教祖・現肉塊の影から小学生くらいの大きさの少女が現れた。


少女は、クリクリっとした紫の瞳と金のボブヘア、そして黒い小さな羽と二本の黒いツノが生えている。その姿は、悪魔のお手本のような感じだ。


「あ、あの……一応聞くけど、どちら様?」


この状況でこの質問は、自分でもおかしいことは分かるが、あまりにも普通に出てこられたので思わず聞いてしまったのだ。


「へ……? ……うわわっ!? し、しまった!! つい出て来ちゃいました!?」


……なんだろう。初対面だけどこの少女がどういうやつか分かった気がする。

悪魔と思しき少女は慌てた様子を見せていたが、やがて平静を取り戻したのか、コホンと咳払いをして、こちらに向き直った。


「フフン! わたしの存在を一瞬で見抜くなんて、なかなかやりますね〜。それに免じて教えてあげましょ〜」


いやいや、見抜くもなにも、あなた思いっきり自分で表に出てきてたじゃないですか。


「わたしの名はルナ、サキュバスのルナです〜。契約でこの男に力を与えて、影に潜んでいたのですよ〜」


「……ご丁寧にどうも」


サキュバスを自称するルナは、聞いてもいないことまでペラペラと話し出した。

どうもこの世界の魔族は、お喋りなやつが多いようだ。ヴィルムの庭園で会った魔族も口が軽かったしな。


それにしても、ネウム教団の一件には魔族が絡んでいたのか。それなら、教祖のあの力や信者に刻まれた黒い模様なんかの異変にも一応の説明がつく。


「それで、なんでお前はこの男と契約を?」


「それはもちろんご飯のためですよ〜。契約したこの男が女と行為に及ぶだけで人間の精を得られますからね〜。わざわざわたし自身が搾り取らなくてもお腹が膨れるという訳です〜」


ほうほう、それで女を自分の意のままにしたいという教祖と契約して、あんな事になったということか。

それにしても自分でするのを面倒臭がるなんて、それでいいのかサキュバスよ。ちょっとガッカリだぞ。


しかしあれだな、今回の件は、ただの変態男と自分は動かずに飯を食いたいという淫魔によって引き起こされたものだったのか。

……この心にかかったモヤモヤはなんだろうか?


事件に巻き込まれた者の被害は大きかったのに、首謀者の動機はショボかった事に対する怒りだろうか。

それとも、カルト教団の陰謀に立ち向かうという雰囲気だったのに、教祖はアッサリ斃れ、黒幕も残念な本性をすぐに現した事で肩透かしを食らった感じなのか。はたまたその両方か。


「ふーん……それじゃあ、ここでの事は全部あんたが絡んでたってことね」


俺がなんとも言えない感情に襲われている中、なぜか怒気を孕んだ朱夏が淫魔を底冷えするような眼差しで見つめていた。

お、おい、どうしたんだ朱夏?


「ひぃ……そ、そうですよ〜! それがどうかしたんですか〜?」


淫魔は気圧されながらも、虚勢を張って答えた。それが良くなかったのか朱夏の怒りが増したように感じる。


「そう。フフフ……つまりこいつがいなければ、教団ができることもなかったし、ダレルさんたちがああなることもなかったのよね? あんなグロシーンも見せられることはなかったし、アタシが子供たちに捕獲されることも末っ子として扱われることもなかったのよねぇ?」


ええ〜!? 嘘だろこいつ……そんなことでキレていたのか!? いや、前半は分かるが、後半のはほとんどお前が原因だろ。

それに末っ子て何の話だよ。

…………ああ! ここに潜入した時の設定か!! こいつまだ三女が不服だったのかよ!?


「朱夏ちゃん、貴女そんなことで怒ってたんですか!? 特に後半は貴女自身の問題でしょ。少し落ち着きましょう!」


言っていることはもっともだが、怒りに任せて教祖を嬲ったお前が言っても説得力無いぞ高宮。

説得力は無いが、もっともなことなので俺もアシストしておこう。


「そうだよ朱夏ちゃん。冷静になろうよ」


「うるさいわね、黙ってて!! さあ淫魔! アタシが引導を渡してやるから大人しくしてなさい?」


取りつく島もない朱夏は臨戦態勢に入った。こうなると止めることは出来ないな……まあ、対象は淫魔だし問題はない、か?


「ひぃいいいい!!! お、お願いします〜! み、見逃して下さい〜!! どうか、命だけは……」


淫魔は必死に命乞いをするが、もう手遅れだ。大人しくやられてくれ。


「フフ、命乞い? そんなの聞くわけないでしょ!!」


「そ、そんなぁ〜!」


俺が心の中で合掌したその時、紫の怪しげな光が発生し、辺りを包んだ。

眩い光に奪われた視界が復活し、目を開けると、淫魔……ルナのそばに別の、サキュバスと思しき女が立っていた。


幼女の姿をしたルナとは違い、その女は大人びていて、長い赤毛を携え、豊満な肉体を煽情的な衣服に身を包んでおり、髪と同じ赤い瞳で不機嫌そうにルナを見下ろしていた。


「あ、あんた誰よ!?」


女は一瞬朱夏の方に顔を向けたが、問いには答えず、ルナへと向けなおした。


「全く……こんな所でサボるなんていいご身分だこと。おまけに人間に襲われそうになって命乞いなんて、情けない」


「うう、ごめんなさいですよ〜。で、でも! 決してサボってたわけじゃ……」


「言い訳は聞かないわ。帰ったら始末書よ」


この世界で、しかもサキュバスに始末書なんてあるんですか? これは新事実だ。


「そんな〜……ぐすっ、それならここでやられた方が良かったかも……」


ルナは涙目で自身の置かれた状況を嘆いていた。死ぬことより始末書の方が嫌なのか?


「ちょっと待ちなさい! まだそこのちっこいのとの用は済んでないわよ!」


朱夏が不満げに呼び止めると、サキュバスの女は、初めて朱夏を認識したような態度をとった。

実際のところ、女はさっき朱夏を認めていたので、気づいていかったことは絶対にないのだが、その反応は、朱夏を苛立たせるには十分だった。

朱夏は目を吊り上げ、怒りを露わにしている。


「……私たちサキュバスは暇じゃないの。人間の、それもあんたみたいなお子様に構ってられる余裕はないわ」


「な、なんですって……!? こ、このっ!」


女の物言い、主に「お子様」という部分に、大いに怒る朱夏は、淫魔たちに向かって猛然と駆け出した。


「ま、待って朱夏ちゃん!」


「はぁっ!!!!」


呼び止める俺の声も聞かず、朱夏は女に殴りかかった。しかし、それがヒットすることはなかった。

女は拳を簡単に掴み、腕を捻り上げたのだ。


「ぐうっ……!」


「はあ……だから暇じゃないって、言ってるでしょ!!」


「きゃあ!?」


そして、そのまま朱夏を投げ飛ばした。


「朱夏ちゃん!!」

「朱夏!?」


俺は綾乃の演技も忘れ、宙を舞う朱夏をなんとかキャッチする。体重の軽い朱夏だが、キャッチした反動はかなりのものだった。


「あ、ありがと……」


腕の中で朱夏が頬を染めて礼を言うが、それどころではない。顔には出さないが、反動による痛みでまともに返事もできないのだ。


「へぇ……まあいいわ。……"テレポート"」


その隙に、女は移動魔法でルナと共にどこかへ消え去ってしまった。

儀式の間に残ったのは、俺たち3人と死にかけの教祖、そして気を失った信者たちだ。

これは、子供たちの依頼は達成した……のか?


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