3 冒険者カード
目的地である手続きの場所は、少し離れているそうなので、そこに行くついでに、城内の施設の案内が行われた。
食堂や図書館など様々な場所を巡る途中、プラは、申し訳なさそうな態度をとり、
「先程は、父、マルムが大変失礼な態度をとり、申し訳ありませんでした……。父は、ベルザ様のご意思に従うことは、幸福なことであると考える人でして、振り回される人に対して、配慮が無いのです」
全ての人がベルザ様に喜んで従うわけでは無いのに……。
そう付け加えた。
成る程、ここの連中は、皆、ベルザとやらを狂信する輩と考えていたが、例外もいたのか。
というか、えっ!? 2人は、親子だったのか!?
マルムは、随分と若く見えたし、プラは、逆に大人びているため、親子には見えなかったが。
そんな反応を察したのか、プラは、
「昔から実年齢より上に見られるのです。やっぱり私は、老けているのでしょうか……」
と語り、やや悲しそうな表情を浮かべた。
まだ十代後半というプラが実年齢より高く見られるのは、老けているからではなく、その大人びた雰囲気と、巨大な体の部位のせいだと思うんですけど。
そんな事をしていると、目的地に着いたようだ。
扉が開かれ中に入るとそこは、受付と思われる場所だった。
30数人の人間がいても、スペースに余裕があるところを見ると、この部屋は、かなり広いようだ。
長方形の部屋の奥に、女性三人が机を隔てて座っており、その横に不思議な球体が埋め込まれた、筒状のオブジェがあるだけのシンプルな作りだった。
「皆様には、この窓口で冒険者カードの発行をしてもらいます」
冒険者カードという物がどういった物か定かでないが、名前だけ聞いて連想するのは、RPGのようなゲームでステータスを表示するためのカード、と言ったところか。
「それでは始めましょう。こちらの機械に、手を当てれば自動的にカードが発行されます」
どうやら、窓口にある不思議なオブジェが、カードの発行を行う機械らしい。
プラの話によるとこの機械は、大昔の高名な魔導技師が創り出したようで、その原理は現在に至るまで謎に包まれているようだ。
「原理が謎なものを今まで使い続けているのは、大丈夫なのだろうか?」という疑問は浮かんだが、あえて言及はしない。今に至るまで使い続けられているのなら、大丈夫だろうし。
「カードには、名前、職業、ステータス表、スキルがそれぞれ表示されます」
「さて、そろそろ始めましょうか。どなたでも構いませんよ?」
それぞれの顔を見合わせて、他の動向を伺ったのち、発行機の一番近くにいたという理由で、野間口巧という男子が先陣を切ることになった。
野間口は、おずおずと発行機の上部に手をかざす。すると、発行機の球から、淡く青い光を放ち、その光の中から、カードが生成される。
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野間口巧 男 Level 1
職業 武闘家
魔力保有量 0
攻撃力 95
防御力 54
魔導力 0
魔法防御力 34
俊敏性 99
スキル
神速
連撃
身躱し率上昇
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ステータスが表示されるが、比較となる数値がないため、なんとも言えない。
クラスメイト全員が微妙な反応に、当事者である野間口は、若干涙目になっている。
「攻撃や俊敏性の数値が100目前……。レベル1でこの数値……、やはり、ベルザ様のご加護を受けているようですね」
野間口のステータスを確認したプラが、少し興奮したように言う。
どうやら、このステータスは初期レベルであることを鑑みるとこの数値は相当高いようだ。
通常、初期レベルのステータスは、30〜40程度が平均的な値であり、60を超えれば相当高い数値という扱いらしい。
また、レベルの上限は100なのだが、非戦系の商人などがレベルの上限に達しても、数値は100を超えない程度なので、野間口のステータスの高さが証明される。
職業は、下級と上級に分かれており、それぞれ、かなりの種類があるらしいのだが、いかんせんかずが多いので覚えきれなかった。
ただ、木佐貫の職業は、下級職に当たるらしい(それでも高スペックだが)。
また、スキルは、初期に覚えているものが全てではなく、レベルを上げたり、誰かから教えられたりすると、スキルポイントを払えば習得できるという。
1人目が無事終えると、躊躇する理由はなくなる。クラスメイトたちは、続々と3つの窓口に殺到し、我先にとカードの生成に勤しんだ。
クラスメイトの半分が冒険者登録を終えた頃、榊煌成に順番が回ってきた。
クラスの中心人物である榊に、皆が注目する中、イケメン特有の余裕を見せ、機械に手をかざした。
その姿、仕草だけで女子たちは黄色い歓声を上げ、男子は嫉妬と憧憬の混ざった眼差しを向ける。
生成された冒険者カードを見て、プラは、目を見開いた。
「こ、これは凄いです!!!」
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榊煌成 男 Level 1
職業 聖騎士
魔力保有量 54
攻撃力 103
防御力 164
魔導力 71
魔法防御力 136
俊敏性 48
スキル
デコイ
鋼鉄化
物理耐久・魔法耐久・属性耐久上昇
キュアー level3
乱槍
一閃
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プラが目を見開くのも納得だ。
榊のそれは、正にチートと呼ぶにふさわしい。とんでもない能力だった。
榊は聖騎士-パラディンとも呼ばれ、固い防御と高い攻撃力、回復魔法を操る上級職となったのだ。
しかし、聖騎士か。榊にぴったりの職業だな。上級職になった榊を見て、ますますクラスメイトたちのボルテージが上がる。
歓声を送るクラスメイトに、笑顔で応える榊。なんだあのイケメン。
そんな榊に、また歓声が上がる。
女子の中には、興奮のあまり卒倒した者までいるほどだ。
未だ興奮冷めやらぬ中、次に、発行機と対峙したのは、神代綾乃だった。
榊と同じくクラスの中心的人物の動向に、期待が高まる。
綾乃は、落ち着き払った様子で発行機に手をかざす。
その綺麗な動作にどこからか「ほぅ」というような声が漏れる。
今日何度となく見た、カードを発行するときの淡く青い光。
だが、それが見慣れたものに感じないのは、今行われているのが、神代綾乃に関わることだからだろうか。
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神代綾乃 女 Level 1
職業 勇者
魔力保有量 154
攻撃力 168
防御力 96
魔導力 140
魔法防御力 102
俊敏性 134
スキル
滅魔劔
隼切
滅魔光
物理耐久・魔法耐久・属性耐久上昇
キュアー level4
ブロスタ level3
ライング level2
ホーリー level3
トラテム
コンフィス
etc、etc
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表示されたステータスや見慣れないスキルたちは、聖騎士である榊を超えるチート能力を綾乃が手に入れたことを表していた。
あまりに飛び抜けた数値、スキル量に、皆、声を上げることも忘れ、固まっている。
数十秒の沈黙の後、
「……凄い。これが勇者様の力……」
衝撃のあまり、力のない声を上げるプラと同時にクラスメイトたちの歓声とどよめきが混ざった声が部屋を震わせる。
「凄いよ! 綾乃さん!」
「やっぱり神代さんしか勇者に相応しい人はいないよな!!」
皆が綾乃を褒めそやし、その力を認める。男女問わずクラスメイトたちは、目にハートが浮かんでいるように見えるのは、気の所為じゃないだろう。
「ふふっ、みんなありがとう!」
歓声を浴びるのに慣れているのか、綾乃は特に動じることなく、優しい笑顔を向けている。
*
もう、クラスのほとんどの人がカードの発行を終えていた。
その後も皆一様にチート級の力を手にし、上級職になった者もいたが、榊と綾乃の能力を目の当たりにしたこともあってか、そこまで盛り上がることもなく、淡々と進行していった。
「次がラストですね。ノゾム様、お願いします」
俺は、プラの声に頷き、発行機に手をかざす。
どうでもいい事だが、皆、もうイベントは終了したとばかりに白けた雰囲気を見せており、俺の方を注目している人間がほとんどいないのが実に悲しい。
青い光の中から生成されたカードを手にし、能力を確認してみる。
「…………」
……えっと、これって何かの間違いだよな?
「ちょっと、黙ってないで、アタシにも見せなさいよ」
沈黙し、その場に静止する俺の横に朱夏が寄ってくる。
「どうせ、期待よりも能力が低かったとかのそんな事で……」
『魔道剣士』と呼ばれる魔法と剣技の両方を扱える上級職になった朱夏は、余裕綽々な態度で、俺の冒険者カードを覗き込んできたが、俺と同じく、その場で固まってしまった。
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幸月望 Level 1
職業 勇者
魔力保有量 25
攻撃力 10
防御力 5
魔導力 7
魔法防御力 6
俊敏性 15
スキル
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……これは、一体どういうことだ!?
最上級職の勇者というのも驚きだが、それ以上に能力が低すぎる!
最弱職の冒険者にも余裕で負けるステータスの勇者がいて良いものだろうか。
しかも、スキルを一切覚えていないというおまけ付き。
俺と朱夏は、お互いの顔を見合わせ、もう一度、カードに目を落とす。だが、カードは、変わらず貧弱なステータスを表示しているだけだ。
「プラさん、これはどういうことですか!?」
この事態に俺は、プラに詰め寄る。
「い、いえ、私にも何が何だか……。でも、これは……、えっと……」
これには、プラも予想外だったようで、戸惑った様子で、言葉に詰まっている。
先程まで、全くこちらに注目していなかったクラスの奴らも、いつの間にか、哀れみや嘲りといった感情を含んだ視線を向けている。
何で、みんなそんなに見下した目で見てくるのかなー。
そういうの良くないと思うなー俺。
などと、言えるはずもなく、俺の件は、そのまま流されることになってしまった。
おかしい……俺の思い描いた異世界生活と違う……。
俺が想像したのは、俺が勇者として覚醒し、俺TUEEEEEしたり、俺に想いを寄せる女の子たちが集まり、ハーレムを形成したり……、そんな感じだったのに。
そんな俺の浅はかな野望は、脆くも崩れ去り、俺は、僅か1日にして、普通の高校生から勇者の皮を被った出来損ないという烙印を押されることになった。
……どうしてこうなった。