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28 ネウム教団にて

「そして最後がここ、中庭よ。ここは誰でも好きな時に自由に使えるわ。私たちの憩いの場所なの」


「確かに、すごく良い所ですね」


「フフ、そう言ってもらえて嬉しいわ」


施設内部で最後に案内された中庭は、小さいが日当たりも良好で、植物も植えられていて居心地の良い場所だった。

もっとも、居心地が良いのは中庭に限った話じゃない。

信者たちの寝室は一部屋3人で綺麗なものだったし、風呂は大浴場の様式で使用に制限はない。他の設備も全てが素晴らしいと自信を持って言えるレベルだ。


中庭をひとしきり見学した後、俺たちは空き部屋だった寝室に案内された。

中は俺たちの人数分のベッドしかなかったが、綺麗に掃除されていて不快感はない。


「ここが貴女たちの部屋よ。まだベッド以外無いけど、必要な物があれば遠慮無く言ってちょうだい」


「いえ、そんな……いきなり駆け込んだのにこんな待遇してもらって、申し訳ないです」


「気にしなくていいのよ。ここにいる娘は、みんな貴女たちみたいな境遇でここに来たの。そんな娘に対して、不自由させたくないというのが教祖様のお考えなんだから」


「遠慮しないでくつろいでね」と言って、エミルは部屋から出て行った。


……綺麗な寝室に三食食事付きに風呂有りか。


「いや〜、本当に見れば見るほど最高な場所だね〜」


「確かにそうですね! 宗教施設だからもっと質素で厳しいものかと思ってました」


「…………」


俺が呟くと高宮が目を輝かせ同意した。しかし、何故だか朱夏は不満げだ。

一体どうしたんだ?


「朱夏ちゃん?」


「どうかしたんですか?」


「どうして……なのよ」


「えっ?」


ブツブツと小さい声で言ったので、肝心なところが聞こえない。

聞き返すと、朱夏は--


「どうして私が三女なのよ!?」


と大声で怒りを露わにした。


どうやら、潜入するための嘘の設定で、自分が三姉妹の一番下に割り振られたのが気に食わなかったらしい。因みに、俺が長女で高宮が次女、朱夏が三女という設定だ。この人選は、我ながらナイスだと思う。

……しかしまあ、そんなくだらないことで怒るなよと言いたい。


そう思ったのが態度に出ていたのか、朱夏はさらに怒り出した。落ち着け三女。

すると、高宮が諭すような口調で朱夏に話し始めた。高宮が助け舟を出してくれたようだ。


「別に綾乃さんに悪意はなかったと思いますよ。だから落ち着いて、朱夏。お姉ちゃんの言うことを聞いて。ね?」


全然助け舟になってない……それは朱夏の神経を逆なでするだけだ!

その証拠に、朱夏は怒りに身を震わせ、辺りに殺気を振りまいている。


「誰がお姉ちゃんよ! それと呼び捨てにしないで! 」


「ダメですよ朱夏。お姉ちゃんにそんな口聞いちゃ」


「〜〜〜〜〜っ!! 」


朱夏は、真っ赤に染めた顔を悔しそうに歪ませた。

俺が経験した中でも過去最高クラスの怒りかもな、これは。


「大体あんたも綾乃が勝手にアタシたちの姉になってることに納得してるわけ!?」


おっと、今度はこっちに飛び火してきたか。

だけど三女、この次女にそんなことを言っても、お前の望み通りの答えは返ってこないと思うぞ。

……俺の読みは正しかった。


朱夏に問われた高宮は、顔を赤らめ「ふぇ? あ、綾乃さんがお姉ちゃん? ……ということは、私が妹? …………フヘヘ」と腰をくねらせ不気味な笑い声を上げている。


「ああ……あんたに聞いたのが間違いだったわ」


その通りだ、三女。


「ムッ、なんですか、その顔は? 私が変だとでも言いたいんですか!?」


「変でしょ、誰がどう見ても! 変よ変態よ!」


「へんた……!? と、取り消しなさい!」


「イヤよ! 変態を変態と言って何が悪いのよ、この変態!」


「このっ……! 姉に向かってそんな態度をとっていいと思ってるんですか!?」


きゃいきゃいと不毛な姉妹喧嘩をする2人。

ああ、またこのパターンか……。最近仲良くなってきてたのになぁ。

ここで俺が間に入っても解決しないと思うし、長女は妹たちの喧嘩を見守りましょうか。


静かで落ち着いた雰囲気の施設内に、しばらくの間、2人の少女の言い争う声が響いていた。



俺たちがネウムの施設に潜入してから、丸3日が過ぎた。

今のところ、ここは普通の宗教団体……いや、むしろ質の良い宿泊施設のような感じだ。潜入する前の情報収集の時に聞いた『行き場の無い女たちの楽園』という触れ込みは、あながち間違いでもなかったようだ。

もちろん、当番制で食事やら掃除やらはしないといけないけど、それ以外はほとんど自由な時間で、1日に数回ある祈りの儀式も参加するかどうかは自由に決められる。


こんな生活を数日送った感じでは、子供たちから聞いたような危険な教団には思えない。

強いて気になる点を挙げるとすれば、ここにいる人間が教祖以外、全員女であることぐらいだ。


いや〜、何にしても本当に天国ですよ、ここは!

冒険者なんてやめてずっと住みたいくらいですね!



この3日間で、俺たちは他の信者たちとも随分打ち解け、美人三姉妹として教団内では人気者になっていた。

朱夏はマスコットみたいな扱いで可愛がられているし、高宮も他の信者と優雅かティータイムに興じている。そして、俺は、案内をしてくれたエミルをはじめとする信者のお姉さんと仲を深めながら、悠々自適な生活を送っているのであった。


そんな中でも、子供たちの依頼を忘れてないのが俺たちの良い所。

親しくなった信者からネウムの情報やらなんやらを3人で仕入れていた。しかし、当然といえば当然だけど、ここのことを褒めそやす人はいれども悪く言う人は全くいなかった。




「アヤノさん、ちょっといいかしら?」


調査が停滞していた頃、1人でいる俺に声をかける人物が現れた。


その人物は、黒髪に痩せた体型、灰色がかった瞳の女性--メイの母親のダレルだった。


まさか、向こうから声をかけてくるとは……。

俺は突然のことに混乱していた。

ダレルは大半の時間を1人で過ごし、どこか近寄りがたい雰囲気のある人だったので、こちらから声を掛けるのすら躊躇っていたのだ。だから、向こうから接触してくるなんて思ってもみなかった。


「あっ……はい! いいですよ」


俺はできるだけ愛想よく答え、天真爛漫な笑顔を作った。これは、信者のお姉さんを大勢堕としてきた俺の秘技だ。

そろそろ技名をつけようかとも考えている。


「そう、なら早速言わせてもらうわ」


なんか素っ気ないな……。どうやら、ダレルには効果は無いようだ。

秘技、敗れたり。技名をつけるのはやめておこう。


そう心に誓った俺にダレルは無表情で--


「貴女たち、さっさとこの教団から出て行きなさい」


そう言い放ったのだ。


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