25 初の依頼
「ほらほら、ここまでおいで〜!」
「このっ……! 返しなさいよ!」
サトスの町の裏路地。そこで俺たちは、カードを盗んだ子供たちを追いかけていた。
単純な素早さなら、俺たちの方が上だと思うが、子供たちが裏路地の入り組んだ道を巧みに使い、逃げ回っているからか、一向に距離が縮まらない。
「はあ、はあ……ま、待ってください〜」
高宮が息も絶え絶えになりながら、そんなことを言うが、子供たちが足を止めることはない。
「おそいおそーい!」
キャハハハハハ! と無邪気に笑いながら、子供たちは、路地に置かれた障害物をすり抜け、走り去っていった。
「待ちなさい! 絶対に逃がさないから!」
少し遅れて、朱夏も障害物をすり抜け、路地の先へと姿を消していった。
そういえば、あなたも子供と変わらない程度の体格でしたね。
「はあ、はあ。ぜ、全然追いつけない……」
肩で息をしながら、俺は足を止めた。
純粋な素早さなら勝っているかもしれないが、子供たちのすばしっこさと無尽蔵なスタミナには、敵わなかったみたいだ。
それにしても……なんであいつらは、冒険者カードなんて盗んだんだ? そんなことをしても、あいつらに得はないと思うんだが。
そんなことを考えていると、高宮がよろめきながら追いついてきた。
俺よりも先に脱落していた高宮は、完全にスタミナが尽きてしまったようで、ひゅー、ひゅーという音をたて、地面に突っ伏してしまった。
おいおい、大丈夫かよ。息をするっていうより、息が漏れてるだけみたいな状態になってるぞ。
「ひ、陽奈……だ、大丈夫? 」
「ひゅー、ひゅー……だ、だいじょうぶ……です。はあ、はあ……」
……あまり大丈夫ではなさそうだけど。
俺は、未だに荒く息を吐く高宮の背中をさすってやった。
「ありがとうございます」と言う高宮。どうやら、あの件のことは頭から消え去っているようだ。今は、ただ疲れていて、それどころじゃないだけかもしれないけど。
まあとにかく、俺の秘密がバレることを防ぐことに成功したわけだ。……少なくとも今は。
そんなことを考え、ホッと一息ついていると--
「きゃああああああああ!!!!!」
という朱夏の叫び声が路地の先から聞こえてきた。
一体何があったんだ!?
俺たちは、未だに体力が完全には回復してない身体を引きずって、声のした方へ向かった。
*
路地をしばらく進むと、広い空き地のような場所に出た。
そこには、さっきよりも数を増やした子供たちと……なぜかロープで縛られた朱夏がいた。
「あの、朱夏さん……一体どうしてそんな状況に?」
「う、うるさいわね!!」
朱夏は、顔を真っ赤に染めて怒りを露わにした。
いやいや、普通聞くだろ。どうしたんだよその状態。
あなた、仮にも女神にチート能力を与えられた勇者の一行の1人ですよね? なんで、町の子供たちに捕まってるんですか?
側から見ると、子供たちが悪ふざけしているようにしか見えない。もちろん、その子供たちの中に朱夏も含まれている。
まあそれは今に始まったことじゃないし、どうでも良いか。
それよりも--
「君たち、なんでカードを盗んだりしたの? それに、その赤髪の……朱夏はどうして縛られてるの?」
盗んだ動機やらなんやら、聞きたいことが山ほどある。
子供の1人--カードを盗み、今、朱夏を縛っているロープを握っている少年が他の子供達と目配せをした後、口を開いた。
彼らの態度を見る限り、こいつがリーダーみたいだな。
「この空き地におびき寄せるためだよ。そのためにカードを盗んだんだ。これは、冒険者にとって大切な物なんだろ? だから、これを持って逃げたら絶対に追いかけてくると思ったからやったんだよ」
「それで、こいつは狙い通りここまでついて来たんだけど、その時に勝手に転んで気絶したんだよ。だから、ついでに縛って人質にしようとした……」
「うわあああ!? それは言わないでって!!」
朱夏は、顔を羞恥心で赤くしながら、リーダーの少年の言葉を遮った。
えーっ!? マジですか朱夏さん!?
何度も言いますけど、あなたは、女神の加護を受けた上級職の冒険者ですよね!?
それなのに、転んだ挙句気絶って……。
ドジっ子なんですか? ドジっ子属性持ちなんですか!?
あなたは既に、「赤髪暴力系ツンデレ幼なじみ幼女」という属性過多なのに、まだ増やすつもりですか? この欲張りさんめ!
おっと、これ以上はやめておこう。俺の考えていることを察した朱夏が、射殺さんばかりの視線をこっちに向けている。
俺は、ワザとらしく咳払いをして、別のことを聞くことにした。
「どうして、私たちをおびき寄せる必要があったの?」
「ちょっと頼みたいことがあったんだ」
頼みたいこと? それだけなら、わざわざこんなことをする必要なくないか?
「頼みたいことがあるなら、広場にいる時に言ってくれればよかったのに。こんなことする必要なんて……」
「ウソつくな! 金の亡者で性格最悪の冒険者たちが俺たち子供の頼みなんて聞くわけないだろ!」
高宮が俺の思っていることと同じようなことを言い終わる前に、リーダーの少年(次からはリーダーのみ)は、目を吊り上げて叫んだ。
そんなことはないだろ。……と思ったけど、ギルドの冒険者たちみたいなのもいるから、案外間違ってないのかもしれない。
マジかよ、冒険者最低だな。あ、俺も冒険者だったね。冒険者に悪いやつはいない! たまたまそいつがクズだっただけだ! そうに違いない!
「中にはそういう人もいるかもだけど、私たちは違うよ……多分。それで、頼みたいことって何?」
「……おい、今、多分て言わなかったか?」
あら、聞こえてたの? 割と小声で言ったつもりだったのに。
俺が誤魔化すように手を振り、「何も言ってないよ」と言うと、リーダーは疑わしげな目をしてこちらを見つめた。
しかし、すぐにそれをやめ、真剣な顔つきで口を開いた。
「頼みっていうのは……ある教団から友達の親を取り返してほしいんだ!」
彼らの頼みごとは、結構な難易度のものだった。




