24 異世界に来て、クエストさえ受けられないなんて誰が想像しただろうか
そんなバカな……クエストを受けられないだと……?
一体、どういうことなんだ!? ゴブリン退治のクエストには、特に条件なんて設けられていなかったはずだぞ!?
「どうして受けられないの!?」
朱夏が受付のお姉さんに詰め寄る。
気持ちは分かるが落ち着け朱夏。お姉さんがビビってるだろ。
「は、はい……あのですね、魔物と戦うタイプのクエストにはランクが必要になります」
「ら、ランク?」
「はい。ランクはG〜AAAまでありまして、魔物討伐のクエストは、最低でもGランク持っていないと受けられないのです」
「じ……じゃあ、そのランクを貰うにはどうすればいいんですか?」
「ランクは、魔物討伐以外のクエスト……例えば、採取クエストなどを1つでもクリアしたら手に入れることができます」
ランクの存在なんて、この世界に来てから初めて知ったぞ。
でも、よく考えたら、国のために戦う召喚組は、わざわざクエストなんて受ける必要ないから、教えられてなくても仕方ないのかもしれない。
とにかく、ランクを得るには、採取クエストとかをクリアしたらいいのか。よし、早速……。
俺が掲示板の方を向くと、さっきの冒険者たちが採取系クエストの紙を全部取ろうとしていた。
「悪りぃな、嬢ちゃん! このクエストは、俺たちが引き受けさせてもらうぜ!」
「じゃあ、私はこのクエストにしようかしら。こういうのは早い者勝ちって決まりだから、文句は無いわよね? 冒険者なら」
冒険者たちは、クエスト用紙を手に取り、ニヤニヤと不快に笑いを浮かべていた。
こ、こいつら……。あからさますぎるだろうが!
結局、やつらにクエストを全部持っていかれてしまった。
ちくしょう……あとで覚えとけよ!!
俺は、心の中で捨て台詞を吐くしかなかった。
*
サトスの町の広場、人で賑わうこの場所で、俺たち三人は絶望に打ちひしがれていた。
「……朱夏さん、陽奈さん、どうしましょう?」
「ホントにどうしましょうね。綾乃さん、何か妙案はありませんこと?」
「イヤですわ、朱夏さん。それがあるならこんなこと聞きませんわよ?」
「そうですわね。失礼しましたわ」
オホホホホホ! と高笑いする俺と朱夏だが、心の底から笑ってなんかいない。ただのやけ笑いだ。
そんな様子の俺たちを見た高宮が、若干引いた表情をしている。
なんですの、その顔は?
「どうかされましたか? 陽奈さん?」
「ふ、2人ともどうしたんですか!? そんな変な喋り方して」
心底心配した様子で、「頭、大丈夫ですか?」と続けた。
なんて失礼なことを。
カチンときたが、本心から心配しているようなので、制裁はやめておこう。命拾いしたね。
それにしても……「頭大丈夫ですか?」 だと? 大丈夫なわけないだろ! 金もない、稼ぐ手段もない……どうすりゃいいんだ!?
「オホホ、イヤだわぁ、陽奈さん。私たちは、いつもこんな感じではありませんこと? そうですわよねぇ、朱夏さん」
「ホホ、その通りですわ、綾乃さん」
「ふ、2人とも、正気に戻ってください〜!!!」
高宮が泣きそうになったところで、この喋り方はやめにした。
全く、これくらいで大袈裟な。
まあでも、こんなバカみたいなことして現実逃避しても現状は変わらないから、そろそろ現実と向きあるか。
とにかく、なんでもいいから金を稼がないと……このままじゃ、飯抜きどころか野宿しなければならない可能性まであるからな。
「さて……真面目な話、どうやって稼ごうか?」
「冒険者のランクを手に入れるには、魔物討伐以外のクエストを受ければいいんでしょ? 採取系のは、あいつらに取られちゃったけど、他のを受ければいいんじゃないの? 報酬も貰えるわけだし」
「却下!」
「どうしてよ!?」
「まともなのがないからだよ! 俺たちが受けられるので、あそこに残ってたのは『怪しい薬とか魔法の実験台になる』とかばっかりだっただろうが!」
魔法とかならまだしも、異世界の、しかも新薬の実験台なんて下手したら死ぬかもしれない。断固拒否だ!
ぐぬぬ……といった感じで、俺と朱夏が睨み合っていると、高宮が口を開いた。
「綾乃さん、俺って……? それに最近、口調が男みたいになる時がありませんか?」
「「…………っ!?」」
ヤバい! バレたか!?
興奮して、ちょくちょく綾乃の演技を忘れることがあったのがマズかったか。
な、なんとか上手い言い訳を考えないと……。
「そ……そ、そ、そんなことないよ! ね、ねぇ、朱夏ちゃん?」
「そ、そ、そうよね! 普通よね!?」
ヤバい……! 唐突に突っ込まれたから、2人とも超挙動不振だ。
あっ!? まずい。高宮の目は、完全に疑う者のそれだ。
上手い言い訳も思いつかないし、冷や汗がダラダラ流れている感じがする。
もし、もし仮に、俺の秘密が高宮にバレたらどうなる……?
この綾乃の親友で綾乃LOVE、しかも男嫌いの気がある高宮陽奈に、綾乃の身体に俺が憑依していることを知られたら、どうなってしまうんだ……!?
俺の頭に、バレた時の想像が浮かんでくる。
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「へー……綾乃さんに、男が憑依してたんですかー……」
「ま、待ってくれ! これは、悪徳女神に無理矢理されたことで……俺の意思じゃないんだ!」
「そーなんですかー、なるほどなるほどー」
「わ、分かってくれたなら、その……手に持っている鉈を降ろしてくれないか!?」
「でもー、あなたを身体から出さないと、綾乃さんが汚れるじゃないですか。早く綺麗にしないと」
「待て待て! 俺も一応お前のクラスメイトで……そ、それに、そんなことをしたら、綾乃も死……ぎゃあああああああああああ!!!!!」
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いやいや、これはいくらなんでも飛躍しすぎだろ。なんで高宮がヤンデレ化して、しかも鉈なんて持ってんだよ。
あまりに突飛な想像に、俺は自らツッコミを入れた。
でもバレたら、最悪こうなることもあり得なくはない……のか? 鉈で殺られるのは無いにしても、殴殺される可能性はある。アレ? どっちにしろ殺されてないか?
……そうなるとしたら、意地でも誤魔化さないといけない!
俺が死ぬか死ぬかの瀬戸際の言い訳を考えていると、不意に、幼い少年が声をかけてきた。
「あれ、お姉さんたちって、もしかして冒険者? 」
「えっ? そうだけど」
声のする方に振り返って言うと、数人の子供たちがわっ! と歓声を上げ、羨望の眼差しで俺たちを見ていた。
一体、なんなんだ?
「俺たち、冒険者に憧れてるんだ! もし良かったら、冒険者カードを見せてくれない?」
急に来たからなんだと思ったけど、そういうことか。
だが、冒険者カードは身分証明にも使う大切なものだから、簡単に他人に見せることはできない。
「ごめんね。冒険者カードは、大切なものだからな簡単には見せられないの」
朱夏も俺と同じ考えなようで、子供達の申し出を優しく断った。
「え〜!?」という子供の不満の声が上がる中、俺は、あることに気がついた。
あれ? 子供に気を取られているのか知らないけど、さっきのことが有耶無耶になっている気がする。
もし、そうなら、これはチャンスだ! このまま、子供たちの相手をしていたら、少なくともその間は、高宮からの追求はなくなる。
なら、ここで子供たちを引き止める必要がある。
そう考えた俺は、朱夏に--
「少しくらいなら良いんじゃないかな?」
「えー……」
頼む! このまま子供たちがいなくなったら、また高宮の追求が始まるかもしれないんだ!
俺は、渋る朱夏に心の中で必死にお願いする。
すると、願いが通じたのか、渋々といった態度で朱夏は、カードを子供の1人に渡した。
「ちょっとだけよ」
「わー、姉ちゃんありがとう!」
子供達が歓声を上げ、朱夏に礼を言う。俺も表には出さなかったが、内心泣きながら、朱夏に礼を言った。
俺は、なんとか秘密がバレるのを阻止したのである。
子供たちは、一頻りカードを持ってはしゃいでいた。しかし、俺たちがふと目を離した瞬間、カードを持ったまま一斉に広場の外へと駆け出したのである。
「「「…………は?」」」
突然のことに驚き、間抜けな声を上げる俺たち。
しばし固まったままであったが、我に返り、状況を理解した。
「ぬ、盗まれた!?」
魔族討伐のために異世界に来た俺たちが、現地の子供たちに、あっさりと物を盗まれた瞬間だった。




