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2 クラスメイトと異世界召喚

突如、教室の床に巨大な魔法陣から光が発生し、視界を奪われる。


光が晴れて、瞼を開けると、先ほどまでいた、見慣れた教室とは程遠い、荘厳で神聖な雰囲気の神殿と思しき建造物の中にいた。


辺りを見回すと、そこにいるのは、俺だけではないようで、クラスメイトたちもキョロキョロと落ち着きなく辺りを見回している。


あまりに非日常的な光景に、俺は我が目を疑う。

これじゃまるで、小説や漫画のような物語の中の出来事じゃないか。


混乱は、クラスメイト全員に伝わり、ざわめきの声は、徐々に大きさを増していく。中には、パニックになり泣き出す女子生徒までいる。


しかし、そんな状態を打ち払うかのように、大きな咳払いをする者がいた。


そこにいる全員が騒ぐのを止め、その音のする方へ注目する。

その視線の先には、司祭のような格好をした男と女2人が立っており、


「どうやら上手くいったようですね」


と、少しホッとした表情でこちらを見ていた。


男の方は、30代半ばだろうか?

細い体型だが身長は高く、薄い金髪は耳を隠す程度に伸びており、狐のような細い目が特徴的だ。


もう1人の女性は、20代前半といったところか。

横の男と同じ色の髪を腰まで伸ばして、後ろで1つに束ねている。しかし、男とは対照的に目はぱっちりとして大きく、物腰が柔らかい雰囲気がある。


あと、胸がでかい。かなりでかい。それこそ、厚手のローブの上からでも大きさが分かる程度にはでかい。

大事なことなので3回繰り返した。


見知らぬ場所に見知らぬ人物。

未だに事態を飲み込めずに困惑する俺たち。クラスメイトたちは、ここはどこなのか、自分たちは、何故ここにいるのかなどの疑問を次々に投げかけた。


「立ち話も何でしょうし、我々の国にご案内いたします。質問にも全て答えさせていただきます」


男の司祭がにこやかに答えて、2人は神殿の外へと出て行った。


あの2人について行って良いものかと、俺たち全員が躊躇し、互いの顔を見合わせていたが、


「みんな、ここはあの2人についていきましょう。ここにいても何もわからないわけだし」


という、神代綾乃の発言と榊煌成の同意もあり、司祭たちの後を追うことにした。


神殿の外は、見渡す限りの森林地帯。巨大な木々が広がり、その中心、木々に囲まれるように神殿が建てられているようだ。


見慣れぬ景色、しかも、かなりの幻想的な風景に再び俺たちは足を止めてしまう。しかし、神殿を下りた先に先程の2人がおり、直ぐにそこを目指して進み出す。


俺たちが全員集まったことを確認した司祭たちは、何やら聞き慣れない言葉をぶつぶつと唱え始めた。


すると、足元に数十分前にも見た魔法陣が現れ、再び光に包まれる。


「さて、到着いたしました。……もう目を開けても結構ですよ?」


それを合図に目を開けると、森林が辺りを覆っていた風景が巨大な円卓を中心に配置した会議室のような場所に変化していた。


今日何度目かの不可思議な体験だが、それに慣れることはない。今、俺たちの頭の上には、疑問符が浮かんでいることだろう。


そんな俺たちの様子を見てか、女の司祭が優しく微笑みながら説明してくれた。


「移動魔法ですよ。神殿から聖教国まで歩いて戻るのは大変ですから」


移動した? 魔法? 聖教国?

聞き慣れない単語が次々と飛び出し、何が何だかよくわからなくなってきた。


再び疑問符を浮かべる俺たちを、座席に促し、2人は円卓の中心の席に陣取った。


「ようこそ、聖教国ヴィルムへ! 勇者様とその御一行! あなた方は、女神ベルザ様に選ばれた!」


「わたくしは、この国を治める教皇マルムと申します。以後お見知り置きを」


司祭の男ーマルムは、両手を広げそんなことを言う。治めるということは、この男は、「王」ということか。


しかし、またしても聞き慣れない単語が多数現れる。しかも勇者御一行って何だ? 俺たちのことか?


「色々聞きたいことがあると思いますので、まずわたくしから説明させていただきます」


俺たちがいまいちピンときていないことを察してか、マルムは、演説調に語りだした。


それを要約すると、


この世界は、科学の代わりに魔法が存在しており、人類の他に魔族や獣人といった亜人も存在しているとのこと。特に人類と魔族は、お互いを忌み嫌い、数百年に渡って争い続けているという。


永きに渡る戦争は、一進一退の攻防を繰り返したが、近年、魔族軍の戦力が増大しており、一瞬にして人類は、劣勢に追い込まれた。


人類は防戦一方の戦闘を強いられ、生存領域を次々と失うなかで、絶望が人類全体に広がり始めていた。


しかしそんな時に、聖教国ヴィルムの崇める女神ベルザの天啓があり、それが『異世界にいる少年少女たちをこの世界に召喚し、その者たちが魔族との戦いに終止符を打つだろう』というものだったらしい。


あまりに突飛な話に、皆が唖然とする。しかし、ここが異世界でこの2人の話が本当なら、先程からの不可思議な現象にも一応の説明はつく。

俺たちをこの世界に連れてきたのも、この部屋に移動したのも全て魔法によるものだろう。


だが、それが真実だったとしても、俺たちがここに連れてこられた理由としては、到底納得のいくものではない。


俺たちは、全く関係のない戦争に巻き込まれたということだ。しかも、勝手に呼び出した挙句、『女神の意向なので戦争に参加して、人類を勝たせてください』という始末。


そう思っていたのは俺だけではないようで、皆、口々にマルムに非難の言葉を浴びせた。


「何でそんな訳のわからないことのために私たちが連れてこられないといけないわけ!?」


「関係ない世界の戦争に巻き込んでおいて、神の天啓だからってだけで納得できるわけないだろ!!」


「戦争なんて知らないよ! お願いだから帰してよ!」


俺も同意見だ。いきなり異世界に連れてこられて、『困っている人のため、戦争に参加します!』なんてこれっぽっちも思えない。


だが、別世界の人間をいきなり連れてくるなんて強引な手段に出る奴らが、手放しに帰してくれるとは考えにくい。


そう思う俺の不安は、マルムの言葉で現実のものとなった。


「残念ですが、神の意向は絶対です。皆様を元の世界にお帰しすることは出来ません」


「ですが、魔族との戦に参加していただけるのであれば、聖教国ヴィルムが貴方たちをもてなしますよ」


「そ、そんな……」


「うそ……でしょ……」


そんな落胆の声が上がる。


なんて悪質な奴らだ。


戦争に参加するなら世話をするが、そうでなければ、右も左も分からない異世界で路頭に迷うことになりますよ。と、言っているようなもんじゃないか。


本当に神に使える聖職者なのか?と、疑いたくなる悪質さだ。

こいつらが信仰しているのならば、ベルザといわれる女神も、たかが知れている。


しかし、もうこうなると俺たちに選択の余地はない。


「マルムさん、魔族との戦いに勝ったら……、私たちは元の世界に戻れるんですよね?」


マルムの話以降、沈黙を保っていた綾乃が睨め付けながら言う。


普段は穏やかな表情をしていることが多いが、顔の整っている綾乃が険しい表情をすると、かなり迫力があるが、マルムは何処吹く風、という様子で、


「ええ、それは勿論」


と、飄々と答える。



綾乃はもう一度、マルムを睨め付けてから、席を立ち、俺たちに向けて言う。


「みんな! 私は元の世界……、日本に帰りたい! だから魔族と戦う! 」


「みんなはどうするの? 私はみんなと一緒に帰りたい。だから、一緒に元の世界に戻るために戦いましょう!」


クラスの中心的存在である綾乃の言葉に、クラスメイト達の意志は揺らぐ。


しかし、どうしても決断することができない。そして、俺もその一人だ。


元の世界に帰るためには戦うしかないのはわかっている。だが、そうすると戦争をするしかないと言う事実に尻込みしてしまう。


皆が押し黙る中、声を上げる者がいた。


「俺も戦う! 綾乃が戦う覚悟を決めたのに黙っている訳にいかないからな!」


声を上げたのは、綾乃と同じくクラスのトップカーストのグループに所属する榊。


クラスのリーダー格二人が魔族との戦争を決意したことから、他のクラスメイト達も戦うことを決断したようだった。


「皆様ご決心なされたようで。ベルザ様もお喜びになるでしょう」


俺たちの様子に満足そうな表情をするマルム。


「それでは、皆様を冒険者として登録する手続きを行うので、このプラの案内に従ってください」


マルムのそばにいた女性--プラといったか。今まで沈黙を守っていた彼女は、人当たりの良さそうな笑顔を俺たちに向け、頭を下げる。


「それでは皆様、ご案内いたします」


プラを先頭に俺たちは、会議室を後にした。


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