10 勇者補正発動?
ゴーレムのあの攻撃は、おそらく弾切れというものが無い。自分の身体の一部を使っているはずの砲撃なのに、一切の躊躇もなく乱射しているところからも判断できる。
だから、こちらから無理やり塞ぐ。弾切れで自滅に追いやる作戦を使えないからには、それしかない。
その役目を担うのが、(出来損ない)勇者であるこの俺だ!
まず、さっき説明したように、2人が囮になって、左右別々の方向からゴーレムの気を引く。
照準を合わせてからでも時間のかかるあの砲撃のことだ、別々の方向から素早く撹乱されたら、おそらく発射することはできないだろう。
ゴーレムが砲撃できなくなったら、俺が水魔法を腕の砲塔にぶっかける。その後に、氷魔法を同じ位置に掛けて、氷結させる。
氷で砲口を塞いで撃てなくしたら、支援魔法でステータスを上げた朱夏と綾乃の2人が、無抵抗のゴーレムを袋叩きにする。
これが俺の立てた作戦だ。
全て聴き終えた2人は、納得したような釈然としないような、複雑な表情を浮かべている。
「……うーん、悪くはないと思うけど……」
「了解……。けど、あんたがゴーレムの腕を氷漬けにするのよね? 保有魔力保つの?」
朱夏の疑問に、綾乃も頷く。どうやら、俺の保有魔力の少なさが不安材料だったようだ。
確かに、囮という危険な役目を担う2人が、作戦の肝を握る奴の能力が低いのは、怖い。
2人の言わんとすることを理解した俺は、安心させるように笑顔で、諭すように言う。
「凍らせる前に俺の魔力が尽きたら、作戦失敗だ。3人仲良く弾の的になろう」
それを聞いた2人は、理解できなかったようで、一瞬固まる。やがて、言葉の意味が理解できたようで、綾乃は乾いた笑顔を浮かべで 天を仰ぎ、朱夏は目を見開いて、俺に詰め寄る。
「あんた、ふざけんじゃないわよ!? そんな無責任な奴の作戦なんて聞けるわけないでしょ!!」
そんなことを言ってくる。至極まともな意見だが、おれが"無責任"というのは誤りだ。
俺は、首を横に数回振り、やれやれといった態度を取ってから、口を開く。
その時に、朱夏が心底イラついた様子で、口元をヒクつかせていたが、そんなのはスルーだ。
「無責任……? 俺は、ちゃんと責任は取るつもりだぞ? 仮に、全滅したらその時は、あの世で恨み言でもなんでも聞く。何なら、俺だけ地獄に落とされたっていい。生還した場合でも、お前らのサンドバッグに喜んでなってやるさ」
俺は、そう宣言した。今でも、異世界転生組のお荷物的な扱いなんだ、失うものなんてない。全責任を喜んで引き受ける覚悟だ。
それに、魔力量の低い俺がその役をやるのは、活躍したいってだけじゃない。
2人のうちどちらかがその役を引き受けると、砲撃を封じた後、攻撃できる奴が1人しかいなくなる。 というか、鈍足の俺が囮を務めても、万一の時にあの岩石砲を交わすことはできないだろう。
そもそも、2人は、砲口を塞ぐようなスキルを持ってなかったしな。
つまり、この役は俺が適任ということで……、自分の活躍する場が欲しくて無理やりねじ込んだわけじゃないんだ。
そういう旨を説明すると、
「あ〜、もう! 解ったわよ!!」
朱夏が嫌そうに叫んだ。
綾乃は、クスクスと笑いながらー
「フフッ、じゃあ、私を幸月君を信じるね。勇者補正がかかることに期待するよ」
そう言ったのだった。
どうでもいいけど、"俺自身"ではなく、"勇者補正"に期待というのが悲しい……。
既に、作戦の第1段階を行動に移し始めた2人に向けて、聞こえるかどうか、という程度の声量で呟いた。
「ああ……、成し遂げてやるよ。俺は……"勇者"だからな」
*
ゴーレムを少し離れた位置、左右から挟み込むと、2人は、ほぼ同時に気を引こうと、挑発を始めた。
それに気づいたゴーレムは、腕の砲塔を左右に向け、照準を合わせようとするが、2人は、素早くチョロチョロと動き回り、それを許さない。
ゴーレムは、必死に狙いを定めようとするが、もともと高い俊敏性を支援魔法で上昇させた2人の動きについていけず、発射できずにいた。
よし、作戦の第1段階は、成功だな。
もっとも、この段階で失敗したら話にならないが。
その光景を見た俺は、両手に神経を集中させ、水魔法の詠唱を始める。
水色の魔法陣が2つ、俺の両手に張り付くように形成される。
詠唱が終わり、魔法陣が完成すると同時に、俺は、未だに砲撃を撃つことすらできていないゴーレムの両腕に向けて、水魔法-"ウォータルを放った。
それは、先ほどと同じく、水量も迫力もないような、弱々しいものだったが、幸い、目標には命中したようだ。
突然、水をぶっかけられたゴーレムは、一瞬、こちらの方向を振り向いたが、攻撃ではないと判断したようで、すぐに囮役の2人を砲撃する態勢に戻った。
だが、それは、計算通りと言って良い。さっきので俺が奴に敵認定されたら、作戦は完全失敗だったからな。
あの2人には言うのを忘れていたが、これがら俺がこの役をする理由の1つでもある。高い魔導力を持つ2人の魔法なら、下手したら攻撃と判断されて、砲撃の的にされるかもしれない。その点、魔導力がほぼ皆無の俺なら、その心配はないから安心できるという訳だ。
俺は、再び集中し、両手に魔法陣を形成する。
詠唱を終え、水に濡れたゴーレムの両腕に向けて、今度は氷結魔法を唱えた。
「"ブリーズ(Level1)"!!」
その瞬間、手からは、凍てつく氷風が迸り、目前の巨大な敵の腕を包み込んだ。
水に濡れたそれは、瞬く間に凍り始めたが、まだ、奴の攻撃を完全に封じられるほどではない。
(なんとか保ってくれよ!)
内心祈りながら、氷の風を放ち続けるが、魔力が底を見せ始めているのを、俺は、力の抜け始めた自分の身体で感じていた。
やがて、魔力が完全に尽き、脱力感からその場に膝をつく。
(奴の腕は、どうなった!?)
顔を上げ、ゴーレムの方を見ると、白い煙が立ち込め、作戦の結果を隠していた。
囮役を務めた朱夏と綾乃の2人も固唾を飲んで見守っている様子が確認できる。おそらく俺も同じような様子だろう。
奴の砲撃が、まだ可能な状態のままなら、俺たちの敗北。逆なら勝利。
さあ……、どうなる?
やがて、その煙が晴れると、そこにはー両腕が完全凍結したゴーレムの姿が!
「ヨッシッッ!!!」
作戦が成功したことを確認し、まだゴーレムを斃してもいないのに、思わずガッツポーズをしてしまう。
「やったぁ〜〜〜!!」
「っ!!!」
2人も戦闘中という状況を忘れ喜び合っているようだ。
俺たち3人が喜ぶ中、腕を凍結され、攻撃を試みることすら叶わなくなった哀れなゴーレムは、自身の身に起こったことが理解できずに、必死に無駄な足掻きを試みていた。
俺は、ニヤリと笑みを浮かべて、立ち上がり、2人に指示を飛ばした。
「さあ、後は、奴をボコるだけだ! いっ……」
「散々手こずらせてくれたけど、これで終わりよ!」
「覚悟は良いよね? 容赦しないから!」
「……けー」
俺が言い終わる前に、2人は支援魔法でステータスを上げ、獲物に突撃していた。
……あー、うん。まあ、そうだよね……。
別に俺がリーダーって訳じゃないし、凍らせただけだしね……。
そんな奴に命令される筋合いないしね。仕方ないね。
俺は、ゴーレムに対して攻撃を開始した2人を見つめながら、複雑な気分に浸るのだった。




