ルナとリルと勇者もどきの1日PART2
浩人は言葉を失い上を見上げている
リルは浩人を見ながら何か考えているようだった
ルナは続けて話し出した
「ミーナが居なくなった事はすぐ分かるようで奇襲も空からだった…村は全壊。村人の数名は亡くなったようだ…。さっき長から連絡が来てな…。」
何も言わずボーッと上を見上げている浩人にルナは追い討ちをかける
「浩人…。結斗は強い…今のお前では太刀打ち出来ない程の力を持っている。お前が無理だと言うのならお前の世界に返そう…。記憶を戻す事は出来なくもないからな…選んでくれ…」
浩人は話しをちゃんと聞いていた
そして迷っていた
自分が本当に出来るか…
ルナは浩人の答えを待たずに話し出した
「師匠は気付いているはずなんだ…結斗がいなくなった事も浩人がいなくなった事も…あのお方は干渉をうけない。なのに何故来ないのか……。」
浩人はその言葉を聞いて驚いている様子だった
リルが続けて話し出した
「前も話したけど師匠は先読みが出来るからこうなる事も想定の範囲内のはずなの。これから起こる事も解っているはずだから動かないという事は結斗と浩人がなんとか出来るって事だと思ったんだよね。浩人は無理だっていうなら仕方ないけどさ…」
「俺に出来るって事……。でも…俺はダメな人間だから…どうしていいか分からない…。力もない…体力も…頭も微妙…どうすれば…」
「お前に力がないなら私たちが力を貸そう。どうか、私たちの世界を救ってくれ。」
ルナが深く頭を下げた
「頭なんか下げないでくれ…」
浩人はルナの肩を持ち頭を上げさせた
「俺が出来る事であれば頑張ってみる…本当にダメな奴だけど大丈夫?」
「ありがとう。本当にありがとう。」
ルナとリルは喜んで抱き合っている
浩人は何ともいえない気持ちで二人を見つめていた
自分の置かれている立場を理解しようと必死だった
そして父親が自分たちを助けに来ない理由を考えていた
“父さんは俺たちが居なくなった事に気付いている…結斗が居なくなった事だって分かっていたはずなのに普段通りに過ごしていた…俺たちの事なんてどうでもいいのかな…父さん…”
浩人はまた座り込んだ
必死に泣くのを我慢しながら
「ルナ、リル結斗にも今の話したの?」
「ここに来た時に師匠の話をした。驚いているようだったが話をすぐに飲み込んでいた…それがいけなかったのかもしれない…結斗は来てすぐに魔女の村に向かい魔女を仲間にした…その後すぐに竜族を従え、この世界を壊し始めた…」
「私たちの説明不足だったんだと思うの…ゴメンなさい。ちゃんと話をすれば良かったんだけど…」
「結斗は父さんに見捨てられたと思ってるんだと思う…俺も今そう思ってる…。」
リルとルナは顔を見合わせて何かを言いたげだった
浩人は上を見上げ鈴が揺らぐのを見つめていた
鈴を見ていると気が紛れるからだ
「浩人……。師匠は『2人の少年が世界を救う』って言ってたの…だから2人に託したんだと思うの。浩人と結斗なら救ってくれるって思って…」
「でもさ、もし俺たちが死んだらどうするの?」
「師匠は先読みが使えるお方だから、それはないと思う…」
「でも全部が当たるとも限らないでしょ。未来は日々変化するって……よく父さんが言ってたから。」
「………」
「今の状況が父さんの見た未来じゃなかったのなら俺か兄さん、2人とも死ぬ可能性があるって事だよね……」
「だが、師匠が来ないという事は見た未来だって事なのではないか?すまない…ちゃんとした回答が出来なくて…だが私たちが結斗も浩人も死なせはしない。だから頼む。」
「…やれるだけやってみる…。でも俺、魔具もまともに持てないのに戦えるかな…?」
リルが何かを思い出したように棚を探し始めた
ルナはリルが何を探しているか分かっているようで紅茶を飲みながら何かを作っていた
「あった!浩人!この薬を飲めば大丈夫だよ!」
すごいテンションで紫に緑が混ざったような薬を差し出してきた
「えっ!何それ…。色が怖い……」
「飲んでも大丈夫だぞ…。その薬は精神老化剤。それを飲めば体力も精神も魔力も格段に上がるんだ。結斗には少し劣るだろうが…これから修行を重ねれば結斗にも負けない力を手に入れられるだろう。」
「…。毒薬でしたとかないよね?」
「あるわけないだろ!お前を殺して私たちにメリットはあるのか?!」
「ですよねー。でもマズそうで……」
「良薬口に苦しだ。我慢して飲め。」
薬を見つめながら唾を飲み込み迷っている様子を見ていたリルは浩人をおさえつけて薬を飲ませた
「…おぇ…何するんだよリル!心の準備してたのに!」
「浩人の事だから、すっごい時間かかりそうだったんだもん!」
「そうかもな…」
薬は見た目と違い味もなくすんなり飲めた
そして少しすると身体が火照っているような気がし気分も少し落ち着き
冷静に今までの話を思い出していた
「一つ確認したい事があるんだけど…いいかな?」
「なんだ?」
「ミーナの事なんだけど…結斗の子供だとするとデカクない?俺が思うに結斗が居なくなってから時間経ってないと思うんだけど…」
「こちらの世界とお前たちの世界とでは時の流れは違うんだ。結斗がこちらに来てから15年の月日が流れている…お前たちの世界では一年…」
「えっ!時間の流れ違いすぎるよ!ミーナの母親は誰なの?」
「ミーナの母親はエルフ族の長の娘だった…ミーナが産まれてすぐに殺された…違うエルフ族の長によって…異世界から来た人間に心奪われ子まで産んだと罵倒されてな…その時、結斗は違う村で仲間を集めていたんだ…。結斗が戻った時には無残な姿で息絶えていたんだ。それから結斗は荒れ果て…この世界を壊し始めた…」
「なんで…殺されなきゃならなかったの?だって異世界から来た人間は救世主だよね?!」
「そう思わない種族もたくさんいる。自分たちの世界が終わる事さえ分かろうとせず…ただ自分と違う人間を受け入れようとしない…そんな世界に結斗は絶望したんだろう……」
「………」
「でも結斗はミーナを可愛がってくれた人々には手を出さない。ミーナに危害を加えた人間は殺したがな……。これから行く村にも結斗の子分たちが近くで様子を伺っている。気をつけて行ってくれ。」
「分かった…。」
「それでは元の場所に戻るぞ。時が止まっていたのは魔獣も知らないからな。」
「そうなんだ。あっ!2人の喧嘩止めなきゃ…」
「そうだな。何かあれは呼んでくれ!」
「ありがとう。」
そしてミーナとアルが待つ森へと戻った