勇者とエルフと
長老に見送られ村を後にした2人と一匹
どこに向かえばいいか分からないが歩き始めるとミーナが話しかけてきた
「あなたは何をしにここに来たんですか?」
「よく分からないんだよね…勝手に連れて来られた挙げ句の今だから……」
「じゃ今どこに向かっているの?」
「とりあえず歩けばいいかなって…」
「馬鹿なんですか?竜族が最近近くに居たのに意味もなく歩くとか馬鹿以外の何者でもないよね」
気を使って敬語を使ってたミーナも浩人に対して怒りをあらわにし始めた
「…すみません…。アル~怒られた。」
〖エルフにも怒られちゃったね。あはははは。〗
「どこ向かえばいいのかな…?」
〖あの双子に聞いてみたら?〗
「うん。」
鏡を出して三回叩きキューレと唱えると鏡が光りルナの方が出た
『どうした?』
「エルフ族の長老に荷物を渡しました。」
『よくやった。それで?』
「それで次どこに向かえばいいか分からなくって…」
『次はマカロ村に向かえ。そこの長に渡して貰いたい物がある後で受け取れ。エルフ族のミーナも同行してるのか。ミーナこちらへ。』
「はいっ。」
『この魔具をお前にやる。服もこちらに着替えよ。』
「えっあっありがとうございます。」
『浩人こちらへ。』
ミーナは着替えにいなくなり、またルナと話し始めた
『マカロ村は魔女の村だから気をつけよ。それとミーナの村が襲われた。ミーナには言うな…。』
「えっトカゲにですか?」
『違う…今は色々な種族が争っているからな…まっ長に渡した物が役に立つはずだから、それほど心配はしなくて大丈夫だ。お前には色々な種族を繋ぐ架け橋になってもらいたいんだ。』
「良かった…無事で。でも今さっき出てきたばっかりだし、誰にも会わなかったのに……。架け橋ですか……俺に出来ますかね…」
『ミーナがいなくなったから狙われた…。ただそれだけだ。長は分かっててミーナをお前に同行させたんだ。村に居ても厄介者扱いされるからな。』
「そうなんですか…エルフ族でも違うんですかね…」
『ミーナは特別なんだ。エルフ族でも桁が違う力を持っている。だからこそなのかもしれない。マカロ村はもっと希少なんだ。今や魔女自体の数が減っていて、マカロ村とエナメ村にしか居ないんだ。魔法で村ごと隠しているからミーナを頼りに探してくれ。』
「はい。」
ミーナが着替えを終えて戻ってきた
その姿を見て浩人の鼓動は爆発寸前でルナの声も聞こえなくなっていた
『聞いているのか!?おい!』
〖浩人、ルナ怒ってるよ!〗
アルが浩人の裾を引っ張り浩人は我に返った
「あっ…すみません」
『まぁいい。今から荷物を送るからマカロ村の長に渡しておいてくれ。』
「はい。」
『ミーナよろしく頼んだぞ。』
「仰せのままに。」
ミーナは深々と頭を下げた
通信が切れ光ると荷物が出てきた
浩人は鞄にしまいミーナにマカロ村を探してもらっていた
ミーナには様々な力があり今回はバードアイを使い村を探し魔力がかかった場所を即座に見つけてくれた
「ここから西に向かえば2日もかからずに着くと思うよ!」
「……」
浩人はミーナに見とれていて話しを聞いていなかった
「ねぇ!聞いてるの?!」
ミーナの顔が浩人の顔に近づき浩人はビックリして飛び跳ねた
「あっすみません……。なんでしたっけ?」
「だから、村を見つけたから行くよって話ししてたの…いい加減話し聞いてくれる?」
ミーナはイライラしながら浩人に話した
「ちゃんと聞きます。すみませんでした。」
浩人は反省しながら自我を保つのに必死だった
初恋をしてしまったからであった
アルはなんとなく気付いていたがあえて何も言わないようだった
何も話さずただ歩く2人
アルは浩人のポケットの中で様子をみていた
浩人が話しかけようと試みるも言葉に出せず飲み込んでいた
何度も何度も繰り返すばかりだった
ミーナはそんな事にも気付かずただマカロ村へと向かっていた
〖浩人、話かけてみたら?〗
アルが小声で浩人に声をかけた
「でも何を話せばいいか分からないし…女の子と話した事もないし…」
〖勇気を出して!〗
「でも話がないって言うか…」
〖村の話とかわ?〗
「なんか色々あったみたいだから聞きにくいよね…嫌な気持ちになったらな…」
〖聞いてみるだけ聞いてみなよ。嫌な事なら話さないと思うし。話してみないと分からないじゃん。〗
「う…ん」
アルに促され聞く事にした浩人は大きく深呼吸してから自分の胸を三回叩き話かけてみた
「あの…ミーナさん。」
「…何?」
「ミーナさんはずっと村で育ったんですか?」
「そうだよ。長老が面倒を見てくれてたの。」
「そうなんですか。」
「………」
会話が続く訳もなくミーナはそのまま歩き出した
浩人は溜め息を吐き地面を見つめながら歩き出した
アルは浩人を見つめる
浩人の目には涙が溜まっていた
泣かないように地面を見つめているようだった
「はぁー何、下向いてんの!勇者なんだよね!しっかりしなさいよ!」
ミーナが怒りながら言い放った
「……」
「なんで、そんなにウジウジしてんの?もっとちゃんと歩きなさいよ!あなたと一緒だったらマカロ村まで何日かかるか分からないじゃない!」
「…すみません……」
泣き出してしまった浩人を見てアルが怒り出した
〖浩人をいじめるな!〗
毛が逆立ち怒りを露わにする様子を見てミーナは続けて話だした
「魔獣があなたの事を心配して怒るのは分かる…けど、あなた守られてばっかりで自分の意志はないの?私はあなたに話をしてるの。」
〖これ以上、浩人を傷つけると許さないぞ!〗
アルがミーナの目の前に立ちはだかった
慌てて浩人が2人の間に入った
「アル!大丈夫だから怒らないで!俺が悪いんだから…ゴメン。」
浩人はアルを抱きしめた
〖浩人。泣かないで…僕は浩人の笑った顔が大好きなんだ…浩人を悲しませる人間は僕が消してあげる。だから大丈夫だよ。〗
「ダメだよ…それじゃ今までの俺と変わらない…逃げてるだけだ…俺はアルのために頑張るって決めたのに……本当にゴメン。ゴメン…。」
〖分かったよ。でも忘れないで僕は浩人を守る存在だって事。ずっと一緒に居るよ…周りに誰も居なくなったとしても…〗
「ありがとう…ゴメンね。俺も頑張るから…もっともっと…」
〖そのままでも僕は浩人が大好きだよ。〗
「ありがとう。俺も大好きだよ。」
鼻と鼻をこすりつけて友情を確かめあってアルは大人しく浩人のポケットへと戻って行った
「ミーナさん。ウジウジしててゴメンなさい。これからはないように頑張ります!」
「私もキツい言い方してゴメン…魔獣もゴメンね。」
〖いいよ…泣かせないでね…〗
「私も頑張る…たぶん…」
「俺が2人の倍頑張れば問題ないよ。うん。」
さっきとは違ってしっかり話をしていた
浩人の中で何かが少し変わったようだった
それからは前を向きスタスタと歩いてミーナの後を遅れないように付いて行っていた
そんな姿を見てミーナは不思議な違和感を覚えた
一瞬でこんなにも人が変わるものなのかと…
ミーナとアルは知るはずもないがルナが時間を止め自分たちの居る空間へと呼び戻し丸1日説教をしていたのである
浩人は自分の置かれている立場や魔獣の存在意味、これから起きるであろう様々な話をされ理解した
今の自分では太刀打ち出来ないと悟りルナに精神老化剤を貰った
精神老化剤とは文字通り精神を老化される薬である
その薬は見た目は変わらないが内側は何年も年を取っている感じになっていた
ルナが言うには『これで本物の勇者の出来上がり』だそうだ
歩きながら試しに魔具を取り出し軽く振り回してみた
“最初の頃と違って全然重く感じなくなったな…魔法も使えるようになってるのかな…今使うとヤバいよな…”
そう思いながら魔具をグルグル回していると
「ねぇ。何やってるの?」
「あっ魔具の使い方になれてないし重さにも慣れておこうかなって。危なかったよね。ゴメンね。」
「別に大丈夫だけど…急に魔法出てきたりしたら危ないよ。」
「あっそうだよね。ゴメンね。すぐしまうよ」
「いや、腰に付けて置いたら?重さに慣れたいなら」
「そうだよね。ありがとう。」
ミーナは前を向き首を傾げていた
さっきまでとは別人のように受け答えが出来ているからだ
でもミーナは聞かなかった魔獣をまた怒らせる事になったら困るからだった
当の本人は浩人のポケットで眠っていた
ミーナと話した後も魔具を腰に付けるでもなく両手で持って歩いていた
腕の筋肉を付けるためと魔具がアルに当たらないようにと考えての事だった