エルフ族
浩人は必死に走った
疲れからつまづいたり転んだりしながらも歩き続けた
〖浩人、大丈夫?〗
アルが心配そうに浩人を見つめる
「なんとか……でも疲れた……」
〖少し休んだら?今の所、嫌な気配はしないから〗
「本当?はぁー」
浩人は地面に倒れ込んだ
「さすがに疲れたなぁ……腹減った………」
仰向けになり空を見つめながら呟いていた
その様子を見てアルは急に居なくなった
浩人は気付かず目を閉じて少し眠っていた
しばらくするとアルが戻って来た
“なんだか甘いいい匂いがするなぁ”
そう思いながら目を開けるとアルが果物の様な物を加えて飛んでいた
浩人が起き上がると足の所に優しく置き
〖浩人これ食べて元気出して〗
「ありがとう」
無我夢中で食べた
〖これは木の実の中でも栄養価も高く美味しいと言われるリリーって言う食べ物なんだ。美味しいでしょ?〗
「うん!すっごい美味しいよ!アルも食べなよ。」
〖僕は大丈夫だよ。さっき摘み食いしたから〗
「そっか。じゃ残りは袋に入れておくか」
〖全部食べて大丈夫だよ。この森には色々な木の実があるからお腹が空いたら僕が取ってくるから!〗
「ありがとうアル……俺、不安だったんだ…色々分かんない事ばっかなのに…放り出されるし……アルが話せるって分かって本当に嬉しかったんだ…ありがとう…」
〖そうだね…あの2人は説明不足だからね…だから……〗
「?!どうしたんだ?」
〖何でもないよ。さっきあっちの方に村を見つけたから行ってみよう!歩ける?〗
「なんとかお腹も満たされたから大丈夫…明日は筋肉痛かな……運動なんて小学校以来だからな……」
〖ちょっと先だから頑張って歩こう〗
「頑張るぞ!」
そして歩き始めたが直ぐにバテ始めた
〖浩人大丈夫?〗
「大丈夫……魔具が重い………」
〖あっそのままの状態で持ってたら重いよ。魔具は首飾りにしまうんだよ。〗
「えっ!!どうやって?」
〖首飾りを持ってドグラって唱えるんだよ。〗
言われた通りにやってみると魔具が光って首飾りの方に吸い込まれるように消えた
「本当だ!おしゃれで付いてるのかと思ってたよ。」
〖あはは。早く教えれば良かったね。出すときはドギマって唱えると出てくるからね!〗
「ありがとう教えてくれて。あれの重さで体力削られてたからなぁ……。魔具って何に使うの?」
〖戦う時に使うんだよ。浩人は光だから雷とか操れるはずだよ。〗
「感電死しそうで怖い………戦わない事を祈るよ……」
〖僕の前のご主人は火だったけど強かったよ。でも僕の寿命と君達の寿命は違い過ぎるからね…もっと一緒に居たかったんだけど…あっと言う間だよ…〗
悲しそうに空を見つめるアル
浩人はどんな言葉をかけてあげればいいのか分からずにアルを見つめていた
〖早く村に行こう〗
「うん……」
歩き始めて少しすると急にズボンのポケットが光り出した
「えっ!!なんだ?!」
〖あの双子からの通信じゃないかな。〗
「えっ!!通信?」
〖ポケットの中に水晶で出来た通信機が入ってるんだよ。見てみて〗
ポケットを探ると手のひらより少し小さい鏡のような物が出てきた
『やっと出たわね。遅いわよ。』
「えっ……すみません…」
鏡には双子の姿が映し出され話が出来るようになっていた
『この鏡は私たちと連絡が取れるように入れておいたの。どう?少しはなれた?』
「いや…分からない事だらけですし…トカゲ人間みたいなの居るし…とりあえず何をしたらいいのですか?」
『トカゲ…?竜族の事かしら?あいつらには近付かないようにして。食べられるから。』
「?!…アルが急いで離れろって言うから逃げて来たんですよ。」
『正解だったわね。魔獣も話せるまで回復したのか良かった。魔獣の言う事は正しいから言う事を聞くように。それと近くに村があるんだけどエルフ族の村で警戒心の強い種族だから気をつけて。』
「はい。」
『そこの長に渡してもらいたい物があるの。今から送るから渡しておいて。私たちに用事がある時は鏡を三回叩いてキューレと言えば繋がるから。』
「分かりました…品物は空から来るんですか?」
『鏡から出てくるから受け取ってね。』
「分かりました。」
姿が消えた瞬間に鏡が光り葉っぱの様な物に包まれた物が出てきた
ビックリしている浩人にアルは優しく話しかける
〖浩人大丈夫?あの双子、今回は色々用意してたんだね。〗
「大丈夫だよ…今回は?」
〖一番最初の勇者は何も渡されず魔獣の言葉も分からなかったみたいで、すぐに殺されたんだよ。〗
「え………」
〖浩人で4人目とか話ししてたよ。〗
「勇者じゃないじゃん……てか異世界呼ばれた意味あったのかな…俺もすぐ殺されそうだし…」
〖大丈夫だよ!僕が絶対に浩人を守るから!〗
「アル!」
泣きそうになりながらアルに抱きついた
〖浩人は僕の大切な存在だからね!〗
「ありがとう。俺もアルを守れるぐらい強くなるからな!」
〖うん!頑張ろう!〗
二人は絆を深めエルフの村へと向かった
浩人は体力の限界を超えてしまったようで歩けなくなっていた
“足が上がらない…クラクラする…” 〖浩人大丈夫?!〗
アルの声は聞こえるが話す気力もなくなっていた
浩人はそのまま倒れてしまった
アルは何度も何度も浩人の名前を叫んでいた
その声を聞いてエルフ族の女の人が現れた
〖お願い浩人を助けて!〗
「私たちは異世界から来た人間を助けたりしない。」
〖長老に用事があって村に向かってたんだよ。お願い力を貸して!今、大きくなっちゃうと竜族に見つかっちゃうから…〗
「!!竜族が近くにいるのか?」
〖うん…さっき違う村が襲われてたんだ…〗
「………。分かった村まで連れて行こう。」
エルフ族の女は近くに隠してあった荷車の様な物に浩人を乗せ村へと急いだ
村に着くと異世界から来た人間を連れてきたと助けてくれた女が村の人間から批判された
「長老に用事があるって言ってたから連れてきただけだよ。」
「また村を壊されたらどうするんだい?」
「用事がすんだら出て行ってもらうから大丈夫だよ!」
「信用出来る訳がないだろ!まためちゃくちゃにされたら村はお終いだ!」
もめていると長老が現れた
「ミーナ。よく連れてきてくれた助かったよ。ありがとう。」
長老が礼を行って浩人を自分の家まで運んだ
浩人は起きず2日が経った
長老は起きるのを待っていたが目を覚まさない浩人にしびれをきらし魔法で起こした
「起きなさい。」
「う…ぅ…」
それでもまだ起きれないようで唸っているだけだった
「起きなさい!」
長老はそう言いながら杖で浩人の頭を叩いた
「いたっ!」
「起きたかい?」
〖浩人に痛い事するな!〗
アルが怒っていた
「すいませんな。年寄りは気が短いもんで。」
「ここどこですか?」
殴られた頭をさすりながら起き上がった
アルはすぐに浩人にすりより怪我をしていないか確認していた
「ここはラフス村だよ。お前さん、ルナとリルの使いだろ?品物は?」
「あっはい。品物は俺の鞄の中にあります。俺の鞄は…?」
探しているとアルが口で加えて持って来てくれた。
「ありがとうアル。」
〖どう致しまして。浩人頭は痛くない?大丈夫?〗
「大丈夫だよ。ありがとう。」
アルは浩人の膝に座り長老を睨んでいた
「すまないね。もうしないから許しておくれ魔獣よ。」
〖次したらかみ殺す…〗
「アル。大丈夫だから怒るなよ。なっ!」
アルを撫でながら話しをすると渋々頷いた
「すみません長老さん。これ頼まれてた物です。」
「ありがとう。こんなに魔獣が懐いているのを見るのは初めてだよ。」
「そうなんですか?!アルは初めて会った時からこんな感じでしたよ。」
「余程お前さんを気に入ってるみたいだな。大事にしなされ。」
「はい!」
嬉しそうにアルを見つめていると扉が開いた
「長老。話しってなんですか?」
「丁度良かった。今、目が覚めた所だったんだ。こっちに来なさい。お前さんを連れてきてくれたミーナだ。」
「あっその節はありがとうございました。」
「別に礼を言われるような事してないし…。それで話しってなんですか?」
「この人たちに着いて行きなさい。」
「……嫌です。私は村に居たい…なんでですか?」
「ミーナ。お前は自然に愛され力もある…がここに居てもいい事はない…勇者に同行して自分の場所を見つけなさい。」
ミーナは泣いて出て行ってしまった
「…。追いかけなくていいんですか?」
「すぐに戻ってくるから大丈夫。お前さんには悪いがあの子を連れて行ってくれ。ここに居ても傷つくだけだから…」
「……。何かあったんですか?」
「あの子は異世界から来た人間との間に産まれた子でな。村の人間からは忌み嫌われているんだ。あの子の母親は、あの子を産んですぐに亡くなったから私が面倒を見てきたんだ…だが…ここは危険だ…私はあの子を助けたい。頼めるか?!」
「……。分かりました。俺に何が出来るかは分かりませんが……。」
「ありがとう……。すぐに出発してくれ。荷物は用意した。」
「…あっ…はい。」
ミーナが泣きながら戻ってきた
「今までありがとう…」
「気をつけて行っておいで。元気でな。」
2人は抱きしめ合って別れを惜しんだ
身体中に痛みを感じているが出発する事になり浩人は苦笑いするしかなかった
〖浩人大丈夫?身体痛いの?〗
「ちょっと運動不足だったからかな…結構痛い…」
〖これ食べて!痛みに効く木の実だよ。〗
「ありがとう……おぇぇ。」
口に入れ噛んだ瞬間に異臭が口の中に広がり浩人は吐きそうになった
その口をアルが一生懸命押さえて飲み込ませた
「おぇ。アル…うぅ…これヤバいよ…うぇ…」
〖体にいいから我慢して食べなさい!〗
涙目になりながら吐くのを必死で我慢している浩人に対して長老とミーナは鼻を押さえて見ていた
「食べさせるなら言って下さい。身体にいいけど臭いが酷いので……」
「年寄りにも厳しいわ…」
〖動けないよりましでしょ!〗
浩人は皆から批判を受け尚更泣きそうになっていた
「すみません…おぇ…」
「謝らなくていいので…しばらく話さないでくれません…臭い酷いので…」
ミーナに冷たく言われ浩人は泣き出してしまった
〖浩人泣かないで!お水持ってきたから飲んで。〗
泣きながら頷き水をゆっくり飲んで木の実を流し込んだ