浩人の力
二人の元に浩人とアルが近づいてきた
ワサイは必死で涙を拭いた
「アルと話し合ったんだけどさ一時的に村と周りの森の時空間をねじ曲げればいいんじゃないかなと思ったんだけどさ、どうかな?魔術で守った所で壊されて襲われるよりは時空間を変えてしまえば襲われる心配はなくなると思うんだよね。」
「そんな事が出来るのか?!」
「アルとルナがいれば出来る。とりあえずルナに話ししてくるから皆はここにいて。」
「分かった。」
浩人は皆から少し離れた所に行きルナと話し始めた
「ルナ、ワサイの村を時空間に一時的に移動させたいんだ力を貸してくれないか?!」
「……。ワサイが望んでいるのか?」
「村の人間に何かあるのだけは許さないって……。自分だけ無事でも意味がないとも言っている。ワサイからの条件だ。」
「……だが…村を時空間に動かすには相当な体力、魔力が必要になる…もし我々が襲われる事があれば…全滅する……それも分かって言ってるのか?」
「あぁ!分かって言ってるよ。ワサイの願いだ…叶えてやりたい。」
「時空間移動はお前の考えだろう?!違うやり方でもいいんじゃないか?」
「アルと色々話し合ってシミュレーションしてみたが全部ダメだった。一番安全なのが時空間だった…」
「ワサイには大丈夫だって言えばいいじゃないか!それで襲われても相手の魔力が強かったんだろうって言えばいい!とにかく私は反対だからな!」
「じゃワサイは連れて行けないよ……大切な人達を見殺しにするような真似はしてほしくないからな。」
「何を言っているんだ!ワサイを連れて来いと言っただろ?!私は村の人間なんてどうでもいいんだ!アイツだけを守れれば……」
「ワサイは気付いているよ。ルナが自分を助けてくれている事に……でもワサイは村の人間は皆家族だから自分だけ助かるのは嬉しくないって死ぬなら村の皆と死にたいって言ってるんだ……。」
「だが…村を移動させて助けたとしても我々が戦えなかったら結果は一緒だろ?!どちらかが死ななきゃならない運命だとしたら?」
「俺がさせない…俺が皆を守るからワサイの気持ちを分かってやってほしい。ルナ力を貸してくれ!」
「…………。しばらく考えたいが……時間がないんだよな……。」
「そうみたいだね……。」
「……分かった……力を貸そう……でも一つ約束してほしい。ワサイだけは絶対死なせないでくれ頼む!」
「大丈夫。分かってるよ。」
ルナとの話を終えアルを呼び三人で結界を作り始めた
広さがかなりありアルに股がり空から結界を張ってその作業が終わると時空間の穴を広げ村が入れる広さまで広げた
三人は力を合わせ村を時空間へとねじ込ませた
無事、村を移動させ次は村のあった所にフェイクの村をおき完成
「これで村はなんとか大丈夫だね。アル大丈夫か?」
【思ってたより大丈夫みたい!】
「ルナは大丈夫?」
「……なんとかな…早く場所を移動しよう…」
ルナは変な感覚に陥っていた
魔力を放出させたはずなのに魔力を失っていない事に気付いたからだった
ルナは静かに浩人を見つめていた
それに気付いた浩人がルナに話しかける
「ルナどうしたの?俺の事見てたけど、なんか付いてた?」
「……なんでもない…あとで話しがある…」
「分かったよ。ワサイとアリッサの所に行こう。」
ルナはそれ以上、何も話さず二人の元へ
アルは二人の様子に戸惑いながらも浩人の肩に乗り頬擦りをした
浩人は無言で優しくアルを撫でた
「ワサイ無事に移動出来たよ!」
「ありがとう浩人…本当にありがとう……」
「そんな…とりあえず俺達も移動しよう。マリたちが現れたら厄介だからね。」
ワサイとアリッサは静かに頷いた
すぐにリル達の居る空間に移動した
リルが心配そうな顔で出迎えた
「大丈夫だった?」
「大丈夫、タリアルもマリも現れなかったよ!」
「良かったぁ!すっごい心配になっちゃって……。ルナどうしたの?怖い顔して?」
「なんでもない……。浩人…話しがあるからさっきの部屋へ行こう。」
「あぁ。ワサイとアリッサはゆっくりしててね!リル頼んだよ!」
「任せておいて!」
【浩人!】
「アルも悪いけど待ってて!ルナと二人で話しがしたいんだ…ゴメンね。」
【分かったよ……でも何かあったら心で呼んで!僕がすぐに行くから!】
「ありがとうアル!」
浩人はアルを撫でるとルナが歩いて行った方へと向かった
ルナは扉の前で待っていた
「ゴメン。アルが来たがってしまって…」
「かまわん。中に入るぞ」
ルナの後に浩人が入る
修行していた時とはまるで違い部屋の中にはテーブル、椅子、などがそろえてあった
「なんだか前とは様子が違うね。」
「普段はこんな感じだ…本題に入ろう…いつから力に目覚めた?」
「……修行が終わってワサイに会った時かな…なんだか不思議な感覚で…気づいたら色々出来るようになってた。」
「なぜ私にすぐ言わなかった?」
「自分でも理解出来ていなかったから言わなかっただけだよ。なんでそんなに怒っているの?ルナの周りすべて赤く染まっているよ。」
「えっ?」
「周りが赤いって事は怒っているんだろ?俺はルナに嘘をついた訳じゃない。」
「そんな事も見えるようになっていたんだな……ワサイの件で高ぶってしまったようだな」
「ワサイはルナの弟でしょ?ルナがワサイを大事に思うようにワサイも村の人々が大事なんだよ。分かってあげなよ。」
「……頭では理解しているんだ…でも今は無理をするべきではない!皆を守らなければならない!分かっているだろ!」
「俺は無理じゃないって思ったからワサイの願いを叶えた。」
「……平行線だな。」
「ルナが一人で感情的になっているだけだと思うよ。何がそんなに怖いの?」
「……お前の力だ……タリアルのようにならないか不安だ……」
「俺は親父のようにはなれないよ。俺はルナとリルとアルが側にいてくれる俺でありたいから。」
ルナは顔を手で覆いため息に近い息をはき笑い始めた
しばらく笑い静かに話し始めた
「すまない。私は本当にバカだったようだ。心配性だしな。」
「俺を信じてほしい。もし俺が可笑しな言動、行動があったとしたら言ってほしい。ダメなら殺してくれ……」
「なんでそうなるんだ?私が理解を示したのに」
「ルナに言われて親父が可笑しくなった理由が分からないから……
もし何かあったらの話だよ!」
「引き受けよう。」
「ルナ、俺達は運命共同体だ。頼んだぞ。」
ルナは浩人の目を見つめ静かに頷いた
「一つ聞きたいのだが、なぜワサイが弟だって気付いた?」
「うーん。なんとなく…冷静なルナが我を忘れてって感じだったからね」
「…何年か前にタリアルが言っていたんだ…お前たちには弟がいると……でもリルはその話しを忘れている…だから言わないでほしい。リルが自分で気付くまで…」
「分かったよ。」
「ありがとう……」
話しを終え皆の元へ戻るとアルが急いで浩人の顔目掛け飛んできた
「いたっ」
浩人の顔面にぶつかりながらもアルは浩人の顔に自分の顔をすり付けながら喜んだ
【浩人!怪我はないかい?良かった…本当に良かった…喧嘩でもしてるのかと思ったよ】
「心配かけてゴメンね。話ししてただけだよ!」
【良かった…】
アルは浩人の顔から離れようとしなかった
その様子を見ていた皆も笑って見ていた
ほんの少しの安らぎの時間だった……




