稲妻と希望
部屋を飛び出したアリッサ
ルナとリルが居る部屋に行くなり涙がこぼれ落ちた
床に座り込んだアリッサを心配したリルがベッドから立ち上がろうとするとルナが制止しアリッサの元へ
「何があった?」
「……」
アリッサはただ泣きじゃくるばかりで言葉が出てこない
「ゆっくりでいいから話してみろ。」
アリッサは静かに頷くとゆっくり話し始めた
「私…浩人さんに変な態度とってしまって……」
「?浩人にか?」
「はい…どうしていいか分からなくなって…」
二人は顔を見合わせて状況を理解した
アリッサが浩人に向けていた眼差しが違う事に気づいていたからだ
「何をしたんだ?」
「心配してくれたのに大声で大丈夫って……」
「それだけか?」
「はい。」
「あはははは!アリッサ気にしすぎだよ!浩人そんな事で嫌ったりしないから!」
堪らずリルが大笑いした
ルナは笑うのを我慢しながら話した
「アリッサ。リルの言う通りだ。浩人はそんな事で嫌ったりはしない。」
「でも……すごいビックリした顔をされてたので…どう接していいか……私…こんな気持ち初めてで……」
「うーん。私たちもそんな気持ちなった事ないからなぁ。」
「普通にしていれば大丈夫だろう。」
「でも……心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思うと普通になんてしていられません。」
「大丈夫…心臓の音はそう簡単に聞こえるはずがないからな。」
「ルナって正論なんだけど抜けてるよね。あはははは!」
「なんで笑うんだ?」
堪らずアリッサも笑ってしまった
「アリッサまで何故笑う?」
「あっ申し訳ありません。分かっているのですが側に居るだけで心臓がすごい事になって恥ずかしくなるんです。」
「ルナに聞くのが間違ってるんだよ!ルナ恥ずかしくなる事なんてないでしょ?」
「失敬だな!……ないな」
「ほらね!だから分からないんだよ!」
「リルだってないだろう?」
「……あっないわ!あはははは!」
そして3人は笑い合った
結局、話を聞いてもらったが答えは出ず
それでもアリッサの気持ちは楽になったようだった
急にルナとリルが上を見つめ目で合図しルナが出て行った
リルはアリッサに部屋に居るように言った
治療が終わりシラーズはゆっくり起き上がった
「ありがとう助かりました。」
「多分、魔力も消費しているでしょうから横になっていた方がいいかと。」
「いや。大丈夫。」
ルナに話す事があるのかシラーズは横になろうとしなかった
浩人はシラーズの気持ちを察しそれ以上は言わなかった
「マリとタリアル様は浩人を探していました。仲間に引き入れたいから手助けをしろと。」
「なぜ浩人なんだ?」
「結斗とも接触したようでしたが……」
「なんだ?」
「浩人には及ばないと言っていました…求める力すべて浩人にあるようです。」
「……」
その話を聞いていた浩人も思わず話に割り込んだ
「兄さんの方が強いに決まっているじゃないか!なんでそんな事を…」
「私にも分からないが結斗に無いものが君にはあるみたいです。」
「……浩人。お前は自分が思っているよりも素質も秘められし力もあるんだ。タリアルがお前を欲しているのも頷ける……」
「俺は……結斗や父さんのように強くない!治癒力はあるかもしれないがそれだけじゃないか……」
「剣を持ってみろ。ペンダントに入っているのだろう?」
「えっ?ここで?!」
「出して握ってみろ。」
ルナに言われ渋々ペンダントから剣を出し握りしめた瞬間に剣から黄色い稲妻がジリジリと唸りながら出ていた
「ほらな。お前は凄まじい勢いで魔力を使いこなせているんだ。結斗でさえ10年近くかかった。お前はまだ一年も経っていない…一年も過ぎれば世界の神にでもなれるかもな…」
近くに居た皆が驚き過ぎて言葉を失っていた
「………」
浩人は返す言葉が見つからず静かに剣をペンダントにしまった
そんな浩人を心配してアルが肩に乗り優しく頬擦りした
【浩人、僕はずっと側に居るよ。タリアル様にも渡さない。】
「俺もアルと離れたくない。もっと強くなって、あの人たちを止めてみせるよ!」
浩人とアルは抱きしめ合った
その様子を見てルナは少しだけ安心したようだった
浩人の苦しみを分かってくれる存在がいる事に
自分では役不足だと理解していたからだ
「浩人、シラーズが回復するまで修行でもするか?」
「えっ!いいの?」
「私にはそれぐらいしかお前にしてやれる事はないからな。」
「ありがとう!」
「さぁこちらへ。」
ルナに案内され違う部屋へ移動すると霧がかかったような部屋だった
「ルナなんだか見えにくいよ。」
「お前は雷をメインとしているからこの部屋でいいんだ。剣を出してみろ。」
剣を出し握りしめるとまた稲妻がジリジリと唸りながら剣を回っている
「その状態で剣を振り下ろしてみろ。」
ルナに言われるまま振り下ろすと霧が一瞬で消えた
「えっ……」
「しばらくすると霧が出始めるから何度も切れ。魔力があっても使いこなせなくては意味がないからな。」
「うん。」
「霧が完全に出なくなるまで続けろ。その後で私と手合わせだ。魔獸こちらへ。」
【なに?】
「お前も鈍ってしまっているだろうからな。このビンに入り浩人と共に修行に励め。」
【僕は浩人を見守っているから大丈夫だよ。】
「いいから入れ!!」
ルナに怒鳴られ渋々ビンの中へ
「浩人の魔力は危険だ。修行が終わるまではビンから出るなよ。魔力に当てられたら大変だからな。」
【そうなんだ。分かったよ、大人しくしているよ。」
アルは大人しくビンの中から浩人を見つめていた
浩人は無我夢中で剣を振り下ろして霧を消す行為を繰り返していた
何度やっても霧は消える事はなく段々手が上がらなくなってきた
「いてぇ……。」
それでも止めずに降り続ける
アルは浩人の側に行きたいのを必死で我慢した
【浩人……】
浩人からアルの姿が見えるはずもない
それでもアルはビンの中から浩人を応援し続けた
魔力が暴走し始め雷があちらこちらに飛び散っては稲光と共に雷鳴が鳴り響く
するとルナが現れた
「浩人、一度剣を下ろせ。」
浩人の耳にはルナの声は届いていなかった
ルナは浩人へ手を向け無理やり剣を下ろさせた
「あっルナ…どうしたの?まだ…霧が消えないんだよ…」
「よく見ろ!どこに霧がある?!」
「えっ……」
浩人はフラフラの状態でゆっくり周りを見渡した
「あっ…」
「霧がかかっていたのはお前自身の心だ!!それが今、消えたのだ!」
「そうだったのか……そっか…俺か……なんだかスッキリしたような……」
「当たり前だ!無理やりだったがお前の気持ちを自分自身で断ち切らせたんだからな。魔力も自在に使えるようになったはずだ。剣を振り下ろしてみろ。」
言われるまま剣を振り下ろした
すると綺麗な稲妻が振り下ろした方向に飛んで行った
「あっ……すげぇ」
「まだまだ使いこなせる技も増えるはずだ。今回はこの技だけだがマリにも通用する。」
「あのマリに……」
「あぁ。これからチカヤル村に行ってほしいんだ。そこにワサイという男が居るんだが私の所に連れてきてくれ。」
「あっうん。」
「今回はタリアルやマリがうろついているから村の近くまで移動させる。交渉はお前がしてくれ。」
「交渉?」
「ちょっと厄介な男でな。私の事を嫌っているんだ。」
「えっ?!絶対大変じゃん!」
「大丈夫。シラーズに頼めば呪術で縛れるから。」
「それはちょっと…」
「それならアリッサを連れていけ。あの子は人の心を替える魔法が使えたはずだからな。」
「う…ん。」
「何かあるのか?」
「いや……さっき嫌がられたから……一緒に行って嫌がられたらいやだなって…」
「それは心配ないはずだ。ここで少し休んだら出発してくれ。」
「分かった…」
ルナが部屋から出て行くなり浩人はその場に横になった
「はぁー」
するとビンの中からアルが<カリカリ、カリカリ>と爪で浩人に合図を送っていた
「あっアル!」
浩人がアルに気付きビンの蓋を開けるとアルが飛び出してきた
【浩人!!】
「アル!」
抱きしめ合い横になった浩人の顔に頬擦りをして腕の間に潜り込み二人で寝始めた




