シラーズの所在
ルナとリルはタリアルに打ち勝つための作戦を考えていた
「タリアル様が私たちの世界を壊そうとするなんて……」
「だが微量ではあるがアレクからタリアルの魔力の気配がしたのは間違いない……マリだけならアレクは殺されていたはずだ。タリアルが側に居たのならアレクが無事だったのも頷ける。」
「でもタリアル様はそんな酷いことさせないと思うけど……長の皮膚を着る事だって…」
「それを言ったら私たちの世界も壊そうとはしないはずだ。あの方にとっても故郷なのだから……。あの方も変わられてしまったのだ…」
「………私は信じたくない……」
「私だって違っていればと何度も思っている…だが結果は変わらない……」
二人の話は平行線を辿っていく
タリアルが敵だと思いたくない気持ちの現れだった
「シラーズが来てくれれば分かるはずだ…もしかすると奴もあちらに付いている可能性だってあるしな……私たちの邪魔を出来る呪術師は奴しかいないからな…」
「そうだね…二人で言い合っていても仕方ないよね……シラーズを待とう」
「うん。」
シラーズの到着か奇襲か
浩人が眠ってから1日が過ぎた
本人も気付かない間に膨大な魔力を消費していた
寝る事によって普通の魔力保持者の倍の速度で回復する
浩人はエルフ族と魔男のハーフ
両方の力を受け継いだ稀な人間だからこそ魔力の回復も魔力も父親の比ではない
その事に本人はまだ気付いていなかった
中々起きない浩人とアルを心配そうに見つめるアリッサ
キリはシラーズに送った魔獸の事が心配で外が覗ける部屋から出てこない
アレクもベッドの上で祖父が殺され皮膚を剥がされる瞬間を何度も何度もフラッシュバックしていた
その度に妹に見られないように顔を隠して毛布にくるまっていた
ルナとリルが戻って来て浩人の様子を見てリルが自分の魔力を浩人に移した
「うっ……」
「大丈夫かリル?」
「思ったより持っていかれちゃった……私も少し休むね。」
リルはフラフラしながら違う部屋へいなくなった
ルナはリルの事が心配で後を追った
二人が居なくなって少しすると浩人が目を覚ました
ボーっとしながらアルを撫で続けているとアルも目を覚まし
【おはよー浩人。珍しく眠ってたね。】
「……うん。まだ寝れそうだよ…」
浩人はうつらうつらしながら座った状態から動かなかった
アリッサとアレクはそんな浩人を見て微笑んでいた
「浩人さん大丈夫ですか?飲み物でも持ってきますか?」
「……大丈夫だよ…ありがとう…」
「浩人。君にお礼を言わなくては……本当に妹を助けてくれてありがとう…そして私も助けてくれてありがとう。心から感謝している。」
「当たり前の事をしただけなので…体調大丈夫ですか?」
「おかげで元気になったよ。アリッサも大丈夫そうだ。」
「良かった!」
浩人は嬉しそうに笑みを浮かべた
アリッサはその笑顔を見て恋に落ちてしまった
胸の高鳴りが聞こえてしまうんじゃないかと端の方へと移動して落ち着くのを待っているとアレクがアリッサの異変に気付き
「どうしたんだいアリッサ?」
「なんでもないの。ちょっと…」
「アリッサどこか具合悪いの?」
浩人が近付きおでこに手をやるとアリッサの頬が赤くなり恥ずかしそうにうつ向いた
「なんだか熱いような……熱でもあるのかな?」
「本当か!アリッサ無理せず休め!」
「大丈夫…熱はないから…本当に大丈夫だから…」
アリッサはうつ向いたまま呟いた
「無理せず休んだ方がいいよ。まだ疲れがとれてないんじゃない?」
「本当に大丈夫だから!あっごめんなさい。」
思わず大声で返してしまいアリッサ自身も驚いていた
たまらずルナとリルの元へ走っていなくなってしまった
「アリッサどうしたんだろう?何か気にさわる事でも言ってしまったかな…」
「………」
アリッサの行動にアレクはなんとなく気付いた
「何か考え事をしていたんじゃないかな?あいつ繊細だから知恵熱だよ!」
アレクは笑いながら話した
「そうなんですかね…なんか悪い事してしまったかなと……」
「浩人も気にし過ぎなんだよ!あいつはいつもあんな感じだから気にするなよ!」
「ならいいんですが…」
浩人はアリッサの事が気になったがアレクの言葉で少し気が楽になった
【アリッサ照れてただけだよ。クスクス】
「えっなんで?」
【急に近付いたからじゃない!恥ずかしがり屋さんみたいだからね!】
「あっそっか…おでこ触っちゃったからビックリしちゃったのか…」
【アレクも分かってたのになんで浩人に言わないの?浩人、結構悩むタイプだからはっきり言ってあげてよ。】
「アリッサが嫌がるかなと。恥ずかしがり屋だから尚更さ。」
【でもアリッサ今いないから言えば良かったのに。】
「浩人ときまづくなったら困るからさ」
【うーん。僕には分からないや!浩人。】
アルは浩人に飛び付いて顔に身体を擦り付けて甘えている
浩人は嬉しそうにアルと戯れていた
するとキリの魔獸が戻って来た
「キリ!!魔獸が戻って来たよ!」
だが魔獸の様子が少しおかしい
アルもその事に気付き巨大化して浩人の前に立った
【浩人。下がって…】
キリは慌てて部屋から出てきた
「ルイ!心配したんだぞ中々帰ってこないから……ルイ?」
キリが魔獸に近付こうとすると後退りしてキリを避けているようだった
「キリなんだか変だよ……」
「解っている。ルイこちらに入れ!!」
キリが命令すると差し出したビンの中に入っていった
魔獸はそのまま眠りに付いたようだ
「キリ……何かされたのかな…?」
「いや。シラーズが居る山は特殊な山で魔獸でも魔力を吸い取られてしまうんだ。シラーズが見当たらずにさ迷っていたのかもしれない……。魔獸は自分が弱っている時は人を近づけないんだ。」
「そうなんだ。でもアルは違うよね?」
【僕は浩人にはすべてを委ねているからね!】
「それ事態が珍しいんだけどな。ルイは人が居ると会話もしないから…。少し休ませたら話を聞いてみるよ。」
「そうだね。ゆっくり休めるために。」
浩人はビンを手のひらに乗せ魔獸が回復する手助けをした
魔獸はビンの中で喜んでいるようで羽をパタパタさせている
「良かった。ゆっくり休んでね。」
【浩人は優しいね。だから大好き!】
「ありがとう。俺もだよ!」
二人は微笑み合っていた
その様子を羨ましそうにキリが見つめていた
アレクはキリに気付き肩を叩いて励ました
「アレク…ありがとう。」
ルナは魔獸が戻ったのを察知して現れた
「シラーズは現れなかったのか…手紙は?」
「まだ確認してません。魔獸が弱ってしまっていて……」
「そうか……だが微かにシラーズの気配がするな。手紙は魔獸が持っているのだろう。手紙だけ出させろ。」
「はい!ルイごめんね。手紙をおくれ。」
ビンの中から手紙が出てきた
「なんて書いてある?」
「ちょっと読めません……。」
「よこせ!」
ルナが手紙を見るなり床に投げ捨て何かを唱え始めた
「マリザリカユタキリタカラワアユ!はっ!」
すると手紙から煙が出てきて辺り一面真っ白になった
煙が消えると真っ黒なマントを羽織った男が膝まずいて顔を上げずにルナに話しかける
「お久しぶりでございます。」
「久しいな。なぜ身を隠していた?」
「マリとタリアル様が現れ仲間になれと言われ断りましたら無理やり連れて行かれそうになり隠れるために文書に潜り込みました。」
「やはり、そうだったか……。」
「キリの魔獸も襲われてしまい戻るまでに時間がかかってしまいました。」
「やはりな…魔獸は怪我はしていないようだがお前は……浩人治してやってくれ。」
「うん。」
シラーズがマントを脱ぐと身体のあちこちから流血していた
「大丈夫?すぐに治すから動かないで!」
「すまない……」
「ベッドに横になって!」
シラーズは浩人の指示に従いベッドに横になった
血が出ている箇所を探しながら手当てをしていく
全部で10箇所、何かで刺されたような後があった
手だけは何かで切られたようだった
浩人が手をかざすと傷口が次々塞がれていき血も止まった
シラーズは驚いた顔をして浩人を見つめている
「すぐ治るから動かないでね。」
「ありがとう…素晴らしい力をお持ちなんですね。」
「自分ではよく分からないんだけど治癒力は飛び抜けてあるみたいなんだ。」
浩人は照れ笑いしながら話
みんなは静かにその様子を見守っていた




