プロローグ
「位置について」
競技場内の喧騒が、スターターの声と共に一瞬で静まり返る。
「よーい」
高校男子インターハイ100メートル決勝。
全国から集まった「走り自慢」達が一斉にクラウチングスタートの体勢を作る。
パンッ
ピストルの音と共に、全員がゴール目指して走り出す。
4レーンを走る俺は、20メートル程地面を見ながらピッチ走法(歩幅を短くし回転数を上げた走り)を行う。そして、スタートダッシュの前傾姿勢から、中間疾走の体勢に切り替え正面を向く。
左右に人影はない。
目の前には夏の太陽と、無人のゴールのみ。
文句無しのトップスタートだ。
自分で言うのも何だが、中学生1年生から今日までの6年間、血の滲む様な努力をしてきた。時代錯誤とも言えるトレーニングをこなしてきたが、1度たりとも怪我をした事がない。よく疲労骨折をしなかったなと自分で不思議に思うくらいだ。父さん、母さん、丈夫な身体に産んでくれてありがとう。
信じられないかも知れないが、自己ベストは10秒00
高校生ながらアジア記録を持っている。
高校生活最後の夏。陸上を始めて以来、ずっと思い描いていた「目標」を「今日こそ達成してやる」という気持ちで一杯だった。
「五十嵐の奴!やっぱ速い!今日も10秒前半か!?」
観客席から聞こえてくる声に心の中で否定を返す。
違う。俺が目指してきたのは10秒の壁。日本人初の9秒台を出す事だ。
ゴールが徐々に近づいてくる。
60メートル
体が軽い。後半戦に入っても、体はいつも以上に動く。視界の端が少し白く見える・・今までにない現象だ・・かつて無い集中状態という事だろう。
80メートル
90メートル
・・・
この感覚はイケる!
最後の力を振り絞り、胸をゴールラインに向かって突き出す。
電光掲示板を見ると9秒95を示していた。
観客席から驚きと賞賛の声が響き渡る。
人生で掲げていた「2の目標」の内1つを達成した事により感情が爆発した。
視界の白い靄が広がった気がするが、興奮で気にならなかった。
右手を上げ、普段なら絶対にやらないガッツポーズを観客席に、いや「ある人物」に向けてした瞬間。
目の前が真っ白になった。
次の瞬間、日本で1番足の速い高校生
五十嵐 真人は「地球上」から姿を消した。
初投稿です。拙い文章で申し訳ないですが、宜しくお願いします。