他客観視
煙草に火をつける
ベランダから見渡す夜の田舎の風景は、月と外灯に照らされて不気味な不安を彩ると、すぐに吐き出した煙と共にどこか遠くへ流れ、また次なる不安を男に映す。
この所作を何度も毎晩、飽きる事なく繰り返すのだ。
いい加減な男はこの所作にある種の美しさを感じていた。なんとも言えない優越感、孤独の夜が男の何かを刺激するのだ。
煙草に火をつける
ベランダから見渡すいつもの夜の光景。静かな空間に木々の葉の擦れ合う音、火の迫る音、敏感になった五感が感じるもの。恐怖かあるいは期待か。
暗く、自然的で静かな空間に多少の美徳感のある行為を足す事によって男は何故か恐怖と高揚を同時に味わっているのだ。
なんともいい加減な話だ。人は色々なものに感化され自分の感情が他人の作り物だという事に気付いていないようだ。
白黒の世界に黄金は意味を成さない。偽りの感情に振り回される人間。紙切れに翻弄される無様さに人の本性が見透かせる。本当の恐怖を知らない者が得体の知れない想像物に畏怖している。
これらが他人事だと人は何故か笑うのだ。それこそが本物の恐怖だ。