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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ルナ・グレイスコールという私
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10月、試験会場

 

「“目覚ませ大地 その身を起こせ 彼方に(またた)く 彼の星掴め”」


 こん、と。杖の柄で地面をひとつ叩く。それが合図。

 猫が喉でも鳴らしているような、ごろごろという音をたてて地面が隆起していく。一際太い一本と、それを囲うように五本。それらはさながら、木が伸びていくような様であり、石筍が急速に成長していくようでもあった。


「“摘み取る星は 光を(あた)う”」


 軋む六本の柱は人の背を優にみっつは超えたあたりで成長を止める。

 どうしても私の中で質量保存の法則がちらつくせいで、今立っている僅かな部分を残して地面は陥没し、渓谷のような有様だ。これはもう、どうやっても改善できなかったので諦めた。


「“我は思う これは輝き 鈍くあれど (たが)えぬ宝珠”」


 変化は徐々に、根元から。ぱきりぱきりと凍りついていくかのように、岩だった柱錐はやがて石英の塊になった。


「“しかし美しきは 災禍呼ぶ 人の(もとむ)るは 戦火呼ぶ”」


 透明度は低いものの、それでも日の光を内部へ取り込み輝くそれらの先に、火が燈る。最初は錯覚かと思う程小さいそれは、瞬く間にその身を脹れあがらせ、接する空気をじりじりと焦がす炎へと変わっていく。

 そして、唐突に。何か支えを失ったかのように、ぞろりと。炎は柱錐に沿うように下り落ち始める。


「“(ほむら)は野を駆け 地へと帰す 遺るは 磨けし宝珠のみ”」


 或いは赤い雪崩のように見えたそれらはしかし、地面に触れた傍から消えていく。煙さえ残さず、まるで最初からなにも無かったかのように。

 炎の舐めた柱錐を見遣れば、濁っていたはずのそれらは圧倒的な透明度を以てそこに存在していた。


「“焦土に残る (べき)は無し ただ吹く風が 過去語る”」


 瓢、と風が唄う。今しがた消えた炎の置き土産であるかのように地面より噴き上がった風は、不可視の刃となって柱錐を駆けあがる。きゃらきゃらと硬度の高いもの同士が擦れ合う音をたてて、柱錐に意匠を施していく。


「“遺晶(いしょう)はその身に 火を(いだ)く 幾人たりとも 侵せぬ炎”」


 出来上がったのは、巨大なランプ。中央の柱の中ほどが大きく膨らみ、それを繊細な彫刻が為された五本のガラス柱が支えている。燈された炎は、風にさらされていない所為か殆んど揺らめかず、ただ柔らかに光を放っていた。


「“炎はやがて 星と成り 後往く人の (しるべ)()らん”」


 今一度、ひとつ。杖の柄で地面を叩けば。幾つもの鈴を打ち鳴らしたような、高く澄んだ、それでいて深く響く音を残して、五本の柱は砕け散る。

 陽に照らされた欠片たちは、解けた氷のように地面へ降り注ぎ、穿たれた穴へ流れ込んでは土へと戻っていく。

 そうして今、形を保っているのは中央のガラス球のみ。

 しかしそれもやがてとろけるように消えていき、最後に残った炎は一度だけ。ゆらりと身をくねらせて空へと消えた。

 しんと静まり返る試験会場の真ん中。手番前よりずっと綺麗に(なら)されたそこまで歩み出て、一礼。一拍遅れて拍手と歓声が爆発した。

 それに応えるように再度礼をとり、控室へ戻る。


「あ、お帰り。」


 ほとんどの生徒が既に披露を終えて観客席に移動しているからか、控室に居たのはルカ一人だった。


「…あああああああああああああああああ緊張したぁぁぁぁぁぁ……」


 …ので、恥もプライドもなくその場に崩れ落ちる。


「切り替えの良さもここまで来ると才能だよね。」


 くつくつとそれはもう心の底から楽しそうに笑いながらルカが近寄ってくるのが解った。


「ほら、せめて椅子に座りなよ。」

「はーい…」


 緊張が解けた所為とフルで内部マナ稼働させた反動で怠い躰をのそりと椅子に乗せる。やっぱり笑いながらルカが何かを差し出してくるけど、正直受け取るのも億劫だ。

 んー、と唸ると口を開けろと言うので素直に従う。途端カカオの香りが口の中に広がっていく。


「ちょこ。」

「そーチョコ。僕の秘蔵品だからね。」


 味わって食べるように、と言うルカは既にトップバッターで披露を終えている。

 私が今回、ルカのやり方を参考に、魔法の発現と詠唱を並行させたのと同じように。彼もまた私の陣展開を参考により継ぎ目の滑らかな連続発現を実現させて大盛況だった。

 私と違うのは、それだけの大魔法を発現しておきながらまだこうして余裕で動き回れる体力があるところか。


「体力落ちたなぁ…」

「その身体じゃそもそも筋力の限界があるでしょ。」

「それは…そうだけど。」


 じわりと甘さが体を巡って、気力が戻ればマナエネルギーの回復も早い。MPが回復していくのってこんな感じかなーなんて思いながら体を伸ばしていると、控室にフィーが入ってきた。


「お疲れ様、ハルド。素敵だったわ。」

「ありがとうフィー。最後土に戻すアイディアをくれたおかげだよ。」


 フィーの披露は手番の関係で見られなかったけれど、聞こえてくる評価は上々。ルミィはもう言わずもがな派手魔法どっかんどっかんの剣舞でスタンディングオベーション…あの子アチェアロだよね…?


「…あら?ルミィこっちに来ているんじゃないの?」

「うん?」

「フィーと居たんでしょ?」


 ルカとフィーが顔を見合わせて首を傾げる。


「ハルドの披露が終わるまでは一緒だったわよ?でも終わった途端一目散に駆けて行ったから…てっきりここに向かっているんだとばかり思ったのだけれど。」

「僕は終わってすぐここに来たけど、見てないよ。」


 空間接結が出来るルカがすぐと言うなら、本当にすぐなのだろう。であれば、ルミィはどこへ?


「何か、用事でも…」


 言いかけて、すっと背筋が凍った。イベント(・・・・)。昇級試験最終日、実技披露の終わった後。大きなイベントがひとつ、あるじゃないか。


「ハルド?!」


 思い至ったと同時に駆けだす。説明している暇はないのだ。もし違うならそれでいい。けれど、本当にアレなら。本当にゲーム通りに進んでしまうなら。

  手遅れになる、その前に。






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