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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ルナ・グレイスコールという私
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10月、自習室‐2

 

「それじゃ、こっちはこれくらいで終わりましょうか。」

「何故途中から監修がフィーになったのでしょうか…」


 思考が絞られ過ぎてカスッカスになった気さえしている私を後目に、悠々とノートを広げているルカ。たまには違う人から出題された方が新鮮で良いでしょとでも言いたいのだろう。まさにその通りなのだが。


「自分の思ってる事率直に書けばいいのよ。論文や奏上じゃないんだから。」


 よっぽど頓珍漢なこと書かなければ(ごうかく)はもらえるじゃない、とフィーは言うものの。どうにもうまくできないんだと苦笑いするしかない。そういえばルミィは逆にこっちの世界の方がテストが楽しいって言ってたっけ。わかんないなぁ…

 ふうと息を吐いて、私もノートを引っ張り出す。実技試験用のノートだ。


「アタシは実技(こっち)の方が憂鬱。クラヴィアの実技披露なんてどうしろって言うのよ。」

「観衆から誰かひっかけて痛めつけて元以上に治してあげたらどうだい?」

「お前は何を言ってるの。」


 ふっと思いついたままを言えばルカから鋭いツッコミが入る。ですよね。なんか思いついてしまったんだよ…やっぱり頭を使いすぎるのも良くない。思考が突拍子もない方向に飛んでいくよ。

 まあそれはそうとしてしかし、確かにクラヴィアの魔法は魅せるには向かないものが殆んど。かといって属性に寄った魔法ばかり披露してはグラーアルの影に隠れてしまう。


「うーん、同調と相殺をうまく使えたらいいんだろうけど。」

「やっぱりそこよね…参考までに訊くけど、アンタ達はどうやって組み立ててるの?」

「僕ら?あんまり参考にならないんじゃない?ルミィの方がまだ近いと思うけど。」

「…あの子に訊かなかったと思う?」

「あ、ダメだったんだね。」


 ルミィ曰く、あるもの順に使って行けばいいんだよ!と。それができりゃ苦労しないさ…ってこれさっきも思ったな。


「…私の場合は…そうだなぁ…ドミノ倒しを組んでいくイメージ?」


 こう…マナを牌に見立てて詠唱で並べて、並べ終わったら最初のひとつを発現させる。そうすると、魔法が滑らかに連鎖していくというか。まあ、そもそも私の魔法陣を描くイメージがドミノ倒しに近いから、その違いから説明するとなるとまた別の話になってしまうので割愛。


「…魔法陣を重ねて描くって事かしら?」

「んん…ちょっと違うかな。ひとつの陣のマナエネルギーを、ひとつの魔法として発現させ切るんじゃなくて、その一部を次の陣を発現させる起爆剤として使うというか…陣Aのマナひとつを陣Bと共有させるというか。」

「待って。陣って独立して綴じきらないと破綻するじゃない。」

「うん。だから陣AはAで綴じきるようにしてる。」

「ああ、それでお前の陣ってぴったり繋がってるんだ。」

「そうそう。ルカの陣はマナひとつ仲介役で置いてるよね。」

「…ついていけないわ…」


 こんな感じ、とノートに図を描きながら説明するものの、フィーにはあまりピンと来ないようだった。うん。これがこの世界の魔法の難儀なところだよね。想像力があれば何でもできるけど、逆に固定観念に囚われるとほとんど発展できない。そして、個人の感性に完全依存だから、継承が難しい。詠唱が個人でバラバラなのはこの所為。

 私とルカは双子だから、たぶん考え方も似ていてお互い教え合ったりできるけれど、光線の魔法をフィーに教えるときは本当に大変だったのだ。


 例を挙げると。

 炎を発現させる、という魔法を使うとき。人によって必要な火のマナの数からまず違う。ひとつの火マナでマッチくらいの火を発現させる人も居れば、四つ繋いでも火花が散る程度の人も居る。八つ繋いでまだ火花すら発現できない人も居る。それは魔力やマナ適性とはまた別の問題で。

 私は、火マナひとつで熾せる。それは、火という現象に対して科学的な根拠と明確なイメージ、そしてある意味で非常識的なファンタジー脳を持っているからだ、と思う。発火点と、ガスコンロと、燃やすものがなくても消えない火があってもいいよねという考え方だ。

 ルカは二つで熾せる。それは、私がそうやって当然のように扱っているのを見ているからというのと、火が熾きるメカニズムを知っているからだろう。

 フィーは四つ使って熾す。彼は火を、火打石を使って、火口(ほくち)に燃え移らせ、薪をくべて熾すものだと認識していて。なおかつ火を保つには薪を絶やしてはいけないという考えがあるからだ、と推測できる。

 平民では、仮に陣が描けたとしても、ほとんどの人が発現できないだろう。彼らには、火打石も火きり棒と板もなしで火を熾すイメージが出来ないからだ。

 そして、必要なマナの数が増えれば当然、詠唱も長くなる。詠唱はマナを縛る鎖であり、陣を描く動力であるからだ。


 という事は、だ。


 同じ現象を起こすのに必要な詠唱が人によって違ってくる。私が“風よ”と起こすそよ風を、別の人は“風起きよ 其の身を震わせ 木葉を揺らせ”と唱えなければ発現させられない。自分の使っている魔法を他人に教えようと思ったら、まず目の前で使って見せて。なぜその詠唱なのか、どのような効果があってどういうイメージで発現させているのかを説明し、それを相手が直感的に理解できるまで繰り返すのだ。

 それはそういうもの、と丸々受け留めて納得できるならまだいい。どうしてそうなるの?と少しでも疑問を持ってしまうと、途端に成功率が下がる。下がるどころか、暴発することさえある。

 だから初学部の実技授業は殆んど座学のようなものになっているのだけれど、またそれも別の話。


「僕は効果から考えてるかな…火が熾きて、風が吹いたら形が変わって、消された後の煙が雲になって、降らせた雨が緑を育むんだ。魅せたいのは最後の木魔法だから、そこに行きつくまでの魔法は大きなものである必要は無くて、演出でどうにかする。光と地があるから大抵なんとか出来るし。」

「あーなるほど。」

「理解はできるけど参考にはならないわね…」

「感性の話になってくるからねぇ…」


 フィーの広げたノートをルカと覗き込みながら、唸る。私たちに対してフィーがそうであるように、私たちもまた彼の魔法に対する感性(せかいのとらえかた)を理解するのは難しいのだ。

 フィーは、魔術師(マジシャン)と言うよりかは精霊使い(ドルイド)祈祷師(シャーマン)に近いような気がする。自らが事象を引き起こすのではなく、起こるべくして起きる現象を呼び寄せているような。詠唱もどこか祈りめいた響きがあるし、きっと彼の中では魔法はそれぞれ独立して完成しているイメージなのだろう。

 ひとつの魔法で応用が効いて、少ない魔法で多彩な効果を得られる代わりに、連続で魔法を使用するのが苦手。今まで見てきて、私は彼をそう評している。


「せっかくフィーは光闇の相殺が出来るんだから、そこは出していきたいよね。」

「そうよね…」

「この後僕ら実技棟で練習するから見てみたら?なんか得るものあるかもしれないし。」

「…そうさせてもらうわ。」



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