世界の事情‐2
5歳くらいの頃だろうか。何気なく言った言葉が、ひどく周りを困惑させたことがあった。
"どうしてルカはわたしとちがういろなの?"
双子なのに、と私は首を傾げていたのだけれど、そんな突拍子もない発言に、メイア含め使用人たちも、言われたルカも、揃って首を傾げることになった。たぶん、単純に何を指して言っているのかわからなかったからだと思う。私とルカは、目の色も、髪の色も、着ていた服も、違う色だっただから。
あの時は…確か、ルカの従者のマイラが“お色は人によって違いますから”みたいなことを言って、そんなものかと納得したのだったっけ。メイアとマイラも男女の双子だけれど、髪も目の色も違っていたから、そう珍しいことでもないのかな、と。
「…いや、なんかカラフルだなぁとは思ってたけど…」
はあ、とため息を吐く。
自室に戻って考え事…もとい情報の整理をしようと机に向かったものの、羊皮紙と羽ペンという書き直しも切り貼りもきかない筆記具に辟易し開始5分で文字起こしは放棄。行儀は悪いがラグに座り込んで、時折言葉を漏らしつつゲーム知識と昨日の父様の話を擦り合わせる。
…この世界には、魔法がある。
属性は10。その内2つ、昼と夜の属性は皇族のみに発現する。残り8つは、光・火・金・風・闇・水・木・地。
それぞれ、昼は赤、夜は黒、以下黄色・橙色・銀色・空色・紫紺・青緑・深緑・茶色が象徴色である。
これら魔法の素になる自然界のエネルギーを魔力、マナと呼ぶ。マナは真名に通じ、魔力を操る根幹になり、その者を最も強く縛る呪であるため、真名は伏せられ呼ばれ名を通す。
ヒトの、マナに対する親和性を“適性”と呼び、適性の高い順から第一属性、第二属性、第三属性、となる。先天的であり、死ぬまで変わることはない。これは判りやすく外見として現れ、第一属性が目の色。第二、第三属性が髪の色。
適性の遺伝については未だ解明されておらず、解っていることは、遺伝には多くの内外的因子が関わっており、皇族を除き、親子や一卵性双生児ですら同じ適性を持つのは稀である、ということ。
双子なのに髪も目も違う色なんて変だなぁ、という幼い私の疑問は、この世界においてはむしろ、どうして同じ色だと思ったのと大真面目に聞き返されるものだったんだなぁ、と今になって納得する。
ここで私とルカの外見について少し触れておこうか。私の目は空色。髪は根元から毛先にかけて茶から橙のグラデーションになっている。つまり第一属性風の、第二が地、第三が火、ということになる。
一方ルカは緑の目に、茶色ベースの髪にちらほらと黄色のメッシュが入っている。第一属性木、次いで地、光だ。共通して地属性に対する適性を持っているが、これは恐らく父様から受け継いだのだろうと思う。稀なケースがここにあったわけだ。
以上を踏まえて、喧嘩相手であるイメラ・エザフォスティマをもう一度見てみる。
エザフォスティマ家は、始まりの八家・地のワスティタエリモスに仕える。そして、先々代より三代、当主は地が第一属性である非常に珍しい家である。そこに産まれた長子イメラ。母親は産後の肥立ちが悪く亡くなっている。妻を深く愛している当代様は、後添えは考えていないという。
故に現時点でイメラが唯一の跡継ぎというわけだが、彼は銀の目に、髪は黄色から青緑へのグラデーション。三代続いた天文学的数字の奇跡は、ここでとうとう外れてしまったのである。その上、地の色が彼にはどこにもない。さらに、第一属性の金属性が指すのは、価値・欲望・地位といった言葉。
それについて父親や親族が何か言ったりだとか、そのせいで冷遇されているだとか、そういったことは一切無いとのこと。けれど、家の中ではそうでも、外に出れば口さがない大人が居るもので。私が簡単に拾うことができたのだから、イメラ本人にも嫌でも聞こえていることだろう。
そもそも、そういった大人の世界のどろどろした側面をチラ見させるために、王族や公爵家の嫡子は皇館へ頻繁に通うことが慣習になっているのだけれど。もちろん私だってルカだって、自分たちが悪い風に噂されているのを何度か耳にしている。まあそれは、今は置いておいて。
これらすべてを鑑み、昨日のイメラの心情を推し量るに、
同い年の生意気な女の子、しかも自分がどれだけ望んでも努力しても絶対に手に入らない地属性を継いでいる女の子に、ピンポイントでコンプレックスを突かれた上に王族としての品位まで嘲笑われた。
…といったところだろうか。そりゃ怒るわ。ガチギレもやむなしだわ。むしろ手を出さなかったことを褒められてもいいんじゃないだろうか。
ゲームでは、それがどうした、という態度をとっていたが今は未だ8歳。受け流せという方が無理だろう。いやもう本当に、正直すまんかったでは済まされないレベルじゃなかろうか、これ。
「どう謝ろう…」
控え目に言って十六方塞がりだ。八方なんてもんじゃない。リカバリーしようとして別な地雷を踏む予感しかしない。ああもう、これがゲームなら選択肢が出るのに。
思わず、遠い目になる。そう、イメラ・エザフォスティマは、マナキミのメイン攻略対象であるのだ。




