朝晴れの休話
胸章に輝く星。ゲームで気に掛けなくなるほどよく見たその構図が、星の色が違うというだけで。こうも違和感を感じさせるものなんだなぁと受け取ったジャケットをしげしげと眺めていたら、メイアが眩しいものでも見るように目を細めるものだから、居たたまれなくなって足早に部屋を出たのはついさっき。
ほわ、と漂ってくる香ばしい香りに少々肩を落とす。イングリッシュマフィンかー…私アレ苦手なんだよなぁ。周りのあのコーンミールが何とも言えない違和感を口の中に落としていくし、食べづらい。ちぎればパラパラと落ちるし、流石にしないけど齧り付けば口の周りに付くし。
食べづらいと言えば、千切り野菜。アレなんでナイフとフォーク時々スプーンな食事文化の中で生き残っているんだろう。人参の甘酢炒めとか火を通してあってさえギリギリアウトな食べ難さなのに、生でサラダに出てきたときなんてもう悲惨だったよね。フォーク一本でどう食べるってのよ。あたしには無理だったよ。
「朝からなんて顔してるのよ。」
「あ、やあ。おはようフィー。」
そんな変な顔になっていたのかと首を傾げると、目が死んでいたと返ってくる。これは失態。私はミステリアスキャラ、私はミステリアスキャラ…
「余計変な顔になってるわよ。」
「…うん?それは困ったなぁ。」
手鏡を持つべきだろうか。いやしかしそうするとナルシストキャラ成分が入ってしまうのではなかろうか。それ以前に攻略対象ポジの自覚をいい加減ちゃんと持つべきか。
「アンタ最近…あら?胸章のそれ、一体どうしたの?」
半目でじとりと何か言いかけたフィーが、セレスタイトの星を見止めて、眇めていたそれを瞬かせる。星付き候補章と返せば、彼も知らなかったようで。
「この間の実技演習で優秀だったから、その…証明?表彰、とは違うかな…」
学級委員バッジ、が一番近いんだろうけれど、生憎フィーには通じないからなぁ。別段特権は無いんだよね、星付き候補って。生徒会みたく学校運営に関わるわけじゃないし、委員会長ほど決定権も発言権もないし。
「アンタは…」
「…うん?」
「…いいえ、なんでもないわ。」
どう見たって何でも無くない顔だしどう聞いたって何かある言い方だと思うのは私だけですか。
「フィー、言って?私は察しが悪いから、何を聞き逃したのかもわからないんだ。」
途端彼はげっそりとした表情を浮かべる。あれこの台詞そんな痛々しいものでしたか申し訳ない。
「アンタのそういう所が嫌なのよ…いろいろと誤解されるの解ってるの?」
「心外だなぁ。これでも言葉は選んでいるつもりだよ?」
「なおさら悪いわ。ああもう…最近はそういうのが減ってきたわねって思ったのよ。」
完全に思い違いだったようだわとフィーは心なしか憤慨したご様子。なにがそこまで彼の中で引っ掛かっていたのかは解らないけれど、やっぱり私のミステリアスキャラは崩壊の危機を迎えていたようだ。危ない危ない。
「やっぱり最近は少し私らしくなかったみたいだね。気付いてくれてありがとう。」
私的爽やかスマイルでそう言ったのに、フィーはお気に召さなかったようだ。
「…そうね。アンタはそういう人だったわね。」
特大の溜め息と共にすたすたと講堂へ向かって行ってしまう。なんだろう、彼の中の私のイメージを著しく損なった気がする。
その後を追うように講堂に入れば、フィーは既にルカと席についていた。私も朝食プレートを受け取って、ルカの向かいに座る。
「おはようルカ。」
「昼の君のご機嫌も麗しく。…こっちの機嫌はよろしくないみたいだけど。」
朝から喧嘩でもしたわけ?と可笑しそうに問うルカ。その胸章には朱に囲われた木賊色の星が付いていた。わあクリスマスカラー。ダメだこれも通じない。
「星、そっちにも届いたんだ。」
「うん。ルカにも届いていたんだね。おめでとう。」
「…祝われるような事じゃない気がするんだけどね、これ。」
さすがルカ鋭い。いやまあ、あんなお手紙添えられてたら気付くよね普通。
会話を交わす傍でフィーは黙々と朝食を食べ続けている。なんでも、ルカにも星が付いてたのを見止めるやむっつりと黙り込んでしまったらしい。ええー…これルミィにも星届いてるよって今のうちに言っておいた方がいいやつかなぁ…
ちらとフィーを見遣ってからルカと視線を合わせると、ルカは暫し渋い顔をしてから、そっと首を振った。何考えてるか知らないけど今は何言っても火に油だという合図だ。んんん解らん!男の子の思考回路は私には難解すぎるよ…
「お先に失礼するわ。」
そうこうしているうちにフィーはさっさと食べ終わってしまって、いっそ優雅なほどに立ち去ってしまった。
本当に何言ったの、と言うルカに、本当に何も言っていないと弁明するも全く信じていないようで。ルカからもまあお前ってそういう奴だよねと言われる始末。どうして。
挙句、釈然とした気持ちを抱えたまま朝食を終え、教室の前で会ったルミィにもフィーに何をしたのかと訊かれ。
「仲直りしたんじゃないの?」
「そのはずだ…と私は思っていたのだけれど。」
一部始終を聞いてもらい、何か変な事を言っていたのかと訊けば、彼女もことりと首を傾げる。
「うーん、ハルドって気を許した人に甘々だから、度が過ぎるって言いたかったのかも?」
その言葉に、思わずあーと声が漏れる。確かにそうかもしれない。思い返してみれば、私の言動はフィーには子ども扱いに感じられても仕方がなかった気がする。
「あとたぶん、私と話してるとき口調が違うから、ちょっともやもやしてるんじゃないかな。」
私にだと結構素っぽい喋り方だよ、と指摘され、ちょっと驚く。
「そうかい?」
「うん。ルカと話してる時と、私と話してる時と、そのほかの人と話してる時、でちょっとずつ違うかな。」
扱いは身内なのに、口調は余所行き。なるほどそりゃもやもやもするだろう。完全に無意識だったとはいえ…うーん、思った以上にルミィに気を許していたのか。というよりは感じているよりもフィーとの距離が遠い?
「…難しいな。」
これは私も今一度周囲との関わり方を見直さねばならないようだ。ルミィと顔を見合わせ、お互いに苦笑を交わした。




