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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ハルド・ファエラという攻略対象
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永日の演習 2

 

「…勝敗の決定は審判が行う。そこまでと言われたら速やかに行動を停止すること。以上だ。」


 競技棟の一階広間にて再度説明を受け、華奢なブレスレットが渡される。ダイアモンドだろうか、水晶だろうか。透明な小粒の石がはめ込まれたこれは、言うならば情報端末、なのだろう。

 石に振れればモニターのようなものが現れ、各階での試合進行状況と総当たり表、自分の出場試合が切り替えて表示できる。さらに、出番が近づくとお知らせまでしてくれるというのだ。

 なんだこれ超ハイテク。ゲームの仕様を落とし込むとこうなるの?


 元来貴金属や宝石は、マナを溜め入れやすく取り出しやすいという性質があるため、モバイルバッテリーとして重宝されてきた。

 そこからいろいろと技術が進歩して、適性のないマナが溜め込まれていたとしても、触れるだけで魔法が発動できる道具が開発されていったのだ。とはいえ予め組み込まれている魔法しか発動しないうえ、そこまで複雑な術式は組み込めない。

 例えば、“火を灯す”という魔法を組み込んだ場合。

 5センチほどの大きさで、同じ種類、同じ純度の物にマナを満タン溜め入れて。天まで届く火柱を上げるならほんの一瞬で消え、キャンプファイヤーくらいの火ならそれよりは長く持続する、たき火程度の物ならさらに長く、といったように、発現する火の威力が弱ければ弱いほど持続時間が増える。

 けれど、そこに“拡散させて”あるいは“方向を指定して”火を“放つ”ように術式を組み加えると。その威力と持続時間は格段に落ちるのだ。

 実はその理由ははっきりとわかっておらず、一度他者が干渉したマナだから使用者が石中のマナをすべて使うことが出来ないだとか、術式つまり魔法陣を常に完成一歩手前まで保つためにマナが使用されていて石中のマナの何割かが魔法に使用できないからだとか言われている。

 それで結局、効率悪いし危ないからやめとこ、となってカーネリアンやトパーズがコンロの火や光源に使われるのが精々といったところなのだ。

 そうそう、物事に溜め入れやすいマナというのがあって、最も親和性の高い宝石が八属性それぞれにあるのだけれど、これはまあ、置いておいてもいいか。


 要は、その程度にしか使えないはずの宝石を、しかもこんな小さなものを、ここまでハイテク機能の核にできるというのは一般的に見て異常な事態ということで。


「…すごいな、これ。」


 手に持ったブレスレットを矯めつ眇めつ見ながらルカが言う。


「ブレスレット本体にもマナが溜め入れられているし、術式が組んである。」

「であれば純銀製か。そうなると石はダイヤモンドなのだろうね。」

「おそらくね。」


 そう言ってルカもブレスレットをはめた。途端一瞬眉を寄せる。うんうんわかるよ。一日限定とはいえ外れないように術式組んであるんだもんね。なにこのバケモノ装置。

 これが卒業生の卒研の成果だっていうんだから、この学園がいかに優秀な生徒を育て上げたかが伺い知れるというものだ。先輩はエジソンとかそういう勢いでしょこれ。


「全員装着したな。間もなく最初の試合予定時間が表示される。第一試合に指定された生徒は表示された階へ移動すること。第二試合以降の生徒は自由に見学して構わない。では、解散!」


 兄様の低く張りのある声がひときわ響いて、生徒たちが動き出す。おお、なんだか体育の授業って感じだ。なんて思いつつ、自分の試合を確認、かくにん、かく、か…ええぇ……


「…何してるの。」


 呆れ声でルカが問うてくるも応えず総当たり表と自分の試合を何度も交互に表示させる。まあそんなことしたって変わらないけどね!


「…ああ、なるほど。」


 答えない私に痺れを切らしたのか、ひょいと後ろから覗き込んだルカがにやりと笑うのが分かった。そこに表示されていたのは“二階第一試合 相手:フィー・レッダ”の文字。

 …なんで!絶対これもうボコられるやつじゃないか!いやたぶん殴られはしないだろうけど!


「まあ、がんばったら?」


 く、と喉の奥で笑ってルカが心底楽しそうに言う。ちくせうなんだよ私の味方じゃないのかよちょっとは労わってくれてもいいんじゃないの…はいはいわかった移動ね、移動しますよ、しますとも。


「違う違う。同じ表情してる奴が居るけどほっといていいの?」

「うん?」


 ルカがちょいちょい、と指で指示した先には、一人立ち竦み遠い目で半笑いのルミィが居た。わぁあれはダメなやつだ。絵面的にもダメなやつだ。

 慌ててルミィに駆け寄る。何やってんだ王子様方。試合のことで頭一杯か。


「ルミィ、ルミィ、気を確かに!」


 目の前でパタパタと手を振って呼びかける。さすがに肩とんとんはできないよね状況的に。


「、え、あ、ハルド…」


 我に返ったルミィがこちらへ片手を差し出してくる。はめられたブレスレットから表示されていたのは、やはりというか“一階第一試合 相手:イメラ・エザフォスティマ”の文字。


「ああ…」


 デスヨネーとも言えずに何とも形容しがたい声が漏れる。ハルドの試合は?と硬い表情のまま聞かれるので泣く泣く伝える。ごめんよ私も試合なんだ。何も助けてやれないんだ。


「…この試合乗り切れたら私、とっておきのプリンを作ってもらうんだ…」

「縁起でもないことを言うものじゃないよ。」

「いきのころうね、お互い。」

「…そうだね。」



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