永日の演習
「…というわけで、ルカにも協力してもらうことにしました。」
「待って分かんない。」
「かくかくしかじか。」
「それで通じるのはフィクションの中だけだからね?!」
翌朝、教室前。開口一番へらりと報告すれば、面白いほどの反応が返ってくる。言ってしまってからハッと周りを視線だけで確認して、ルミィはほっと息を吐いた。ああやっぱりいいなぁこういうの。ボケ甲斐があるというか、打てば響くとはまさに。ルカだと本当にかくしかで大体伝わってしまうし、フィーとは私のキャラ性を保つためにもこんなやり取りできないし。
「…協力するとは言ってない。」
眉を寄せて不機嫌そうに言い放つルカ。ルミィはそんな様子にたじろいでいるようだけれど、まあルカはこういうところはっきり言う性格だからね。なのに言葉足りないし。そんなんだから辛辣とか毒舌とか言われるんだよ君。
「困ったら助けてくれるんだろう?」
苦笑し尋ねれば、僕のできる範囲でね、とひらり片手を振って教室へ入っていく。なんだそれ気障ったらしい。くっと喉の奥で笑いをこらえて軽く手を振りかえす。ルミィに視線を戻せば、何やら心ここに非ずといった表情で立っていて、振った手をそのまま目の前で揺らしてみる。
「ルミィ?」
「…なんか…あの、印象がだいぶ違う…」
意図を掴みかねて、ルカの?と問えば、それもそうだけど、と煮え切らない返答。ゲームと性格が違うってことだろうか。正直ゲームのルカの印象がほぼない私には判断の付けられないところだ。そんなことを思っているうちに彼女の中で整理がついたのか、ルミィは小さく頷いて。
「よし、私たちも教室入ろう。今日は初めての総合演習だし!」
両手を握り気合を入れるルミィと話しながら、そう言えばイメラルートにそんなイベントあったなぁと思い出す。所謂負けイベント兼戦闘チュートリアルというやつで、一周目データではどうあっても勝てないパラ設定のイメラに、戦闘力と知識の無さを端から笑われフルボッコされるという一見誰得だよとツッコみたくなるものだった。
が、実のところチュートリアルは解りやすく、さらにそれをストーリーと無理なく調和させるという意味ではあの展開もそこまで悪くはないと個人的には思っていたし、今となっては、両者の境遇を見るとイメラのあの態度もやむなしと言えよう。彼は誰よりも努力を重ねて周囲に自分の価値を認めさせた人だから。
教室にて演習の概要が説明される。要するに、所属別演習と違い、一日かけて行われる能力階級ごとで分けての実技授業というわけだ。今回は一回目なので総当たり戦。この学園のクラス分けはそもそも能力階級を元にして行われている。ので、大概はクラス実習になるのだけれど、私たち能力階級Jのクラスは人数が少ないため、9・10階級のクラスと合同で行う。
ゲームだと、ここでフィー、キラザ、ヴェルと友好度が高ければ再会イベントが起きて、そこから第一恋愛イベントにつながっていくのだけれど…
「ルミィ、階級の紫と橙の彼と交流はあるのかい?」
その後、実技棟へ移動する。その間にそれとなく尋ねると、案の定否の返答。ゲームでは中学部3年の時点で階級9にルミィ・フィー・キラザ・ヴェル、階級10にルカ・イメラ・リド・ハルドが居て。特に同じアチェアロ所属のキラザとは友好度が上がりやすかったため、色んなルートで当て馬的ニュアンスの立場に置かれやすく不憫キャラと影では…じゃなくて。なので総合演習では元クラスメイトな彼らとのイベントが割合多く用意されているのだけれど、可能性は低そうだ。フィーは私が引き連れ回したせいで同じクラスだから、ここはもしかしたら何かあるのかもしれない。
更衣室の前でルミィと別れ、着替える。前の私で言うところのジャージなわけだけれど、あれまでのラフさは無く、割とカッチリした印象。さらに野外演習となればこの上からコートを羽織るので、そうなると見た目はほとんど軍服だとかに近くなるのだ。前の私はこの野外演習の戦闘立ち絵に釣られたんだったなぁ…
「アンタあの子に何したの。」
がっと、衝撃。え何何なに待って上着伸びるまだちゃんと着てないからちょっと待って肩掴まないで!
「フィー、離して。」
骨の軋む音が聞こえるんじゃないかと思う位の力で肩を掴んでいた手が離れ、急いで身なりを整える。そうしてフィーへ向き直ると、珍しく憤慨した様子を隠していない彼が立っていた。嫌な予感しかしない。
「…誤解を解いただけだよ。きちんと話し合って、ね。」
あ、待ってこの言い方裏が有りそうにしか聞こえない待って待って違うのよちゃんと双方理解の上でってあーほらぜったい間違えた!某アニメスタジオだったら髪の毛ぶわって膨れてるよ今のフィー!鎮まりたまえ!
「…今日の演習、覚悟しておきなさいよ。」
フィーはゆぅっくり息を吐くと、目力全開でそう言い置いて更衣室を出て行った。女性口調なのが凄みを倍増させていますとても怖いです大変申し訳ありませんでした!うわあ本気で怒らせたよこれフィーにも説明した方がよかったかなぁでもそうなるとどこから説明していいのやら私の勝手な判断ではどうしようもないと言いますかええルミィの意思も確認しないとというかルミィもフィーには何も言ってないのかまあそりゃそうかルミィもたぶん同じようなこと思ってるんだろうしこの辺も話し合って
「それはオレも気になるところだな、ハルド・ファエラ。」
はぁい?!ぃあああ、良かった!今の口から出なくて良かった!ついでに肩とか跳ねてないともっといいんだけどどうだっただろう?!
「…さて、貴方の憂慮するところではないのでは?エザフォスティマ殿。」
落ち着いて振舞えてますか私?ミステリアスキャラ大丈夫?
「何か企んでいるのであれば、今のうちに諦めるのが身の為だと思うがな。」
「御忠告痛み入る。全く身に覚えのないものだけれどね。」
「…彼女を害するような事があれば、その時は、」
もともとあまり良くない彼の目付きが一段と鋭く光る。フィーとはまた違った威圧感だなーすごいなー泣いていいかな…
「…まあいい。いずれにせよお前の実力は気になっていたんだ。」
精々楽しませてみせろよ、と言い放って彼もまた更衣室から出て行った。
「悪いな。別にあんたを嫌ってるわけじゃないだ、あいつも。」
「…彼の人となりは多少解っているつもりだよ。馬に蹴られるつもりはないけれど、彼自身に伸されそうだ。」
取り成すように声をかけてきた苦笑する背の高い青年に、こちらも微苦笑で返す。茶色の瞳に、光が当たると空色に輝く緑の髪の彼は、爽やかスポーツ系頼れるアニキキャラことリド・ディアイスヒス。さっき出て行った彼…わざわざ言うまでも無くイメラ・エザフォスティマなのだが、そのイメラの幼馴染兼従者であるバクノート所属の青年だ。私もルナとして幼い頃数回話したことがある。
「あー…やっぱり分かるか。」
「本人には、伝わっていないようだけれどね。」
意図せずこぼれた言葉に、一瞬。見定めるかのようにリドはすっと目を細め、しかしまたすぐに人好きのする笑みを浮かべ、気ぃ遣って伸されてやらなくてもいいからな、とイメラの後を追って行った。
「随分人気だね。」
「感動で涙が出そうさ。」
笑いを隠そうとすらしないルカにポンと肩を叩かれ、本当に涙が出そうになった。私何か悪いことしたかなぁ…




