斜陽の対談 2
どう、とその躰が倒れる。その双眸には未だ光がちらつき、最後の足掻きとばかりに尾が持ち上げられるのが視界の端に映る。けれど、それが何をするよりも早く、この苦難の道を共に乗り越えてきた相棒とも言える大剣を、心臓のある場所へと突き刺す。
「っは、んだよ…顔のわりに、やること、えげつねェ、な、お前…っ!」
そう言い捨てて、とうとう本当にその命の燈火が消えた。震える息を吐けば、それに乗って行くように、ざぁっと躰が崩れていく。後に残ったのは、青緑色の魔晶石だけだった―――
「…で、魔晶石まで崩れて、クレジットだよね?」
「うん。」
学園までの帰還の様子を背景にスタッフロールが流れ、最後、ラスボス討伐メンバーが揃った一枚絵が映り、それが写真になり、アルバムに綴じられて、エンド。確かそんな流れだった気がする。
「そうそう。フィーのノーマルまではその終わり方なんだよ。」
「…変わるの?」
「うん。フィーのトゥルーだと、そのアルバムが魔導書になってるの。」
「…え。」
「さらに、ハルドのノーマルで、その魔導書を閉じたのがディンだって描写が入って。」
「…うん。」
「ハルドのトゥルーでは、ほら、さっき言ってた、魔王の魔晶石、あれ青緑の光の粒になるでしょ?」
「…そうだね。」
「…あれ、たぶん水マナだと思うんだけど、それが、魔導書に吸い込まれて、光るの。で、ディンが笑う。」
青緑の光に照らされうっそりと笑う青年。なにその演出どう見たってダークサイドじゃないですかやだー。
「それで、ディンルートが解放されるんだけど、ラスボス討伐にはディンじゃなくて、ハルドがメインで同行するの。」
――崩れた水の魔晶石、青緑の光の粒が流れる先をなんとなく見て、私は目を見開く。イメラの向こう側、ハルドが何かを持っている。細長く鋭く光るそれは、どう見たってナイフだった。
「――!」
ハルドはためらいなくそれを振り下ろす。空を切る音にイメラが振り向く。
「、あ?」
それが解っていたかのように、ナイフはイメラの胸へまっすぐ飲み込まれていく。彼が何か言う前に、見えない何かが彼を切り裂いた。隣にいたフィーが崩れ落ちる。彼もまた見えない何かに…いや、私はこれを知っている。今まで何度だって助けられた、風の刃。ハルドの、得意魔法だ。
「…どうして、」
イメラの傍に控えていたリドが取り出そうとした召喚札はケースごと切り刻まれ、炎に燃やされる。その炎は彼の腕にまで燃え移って、
「やめて!」
私はとっさに水を呼び出してそれを消す。ハルドは私を一瞥して、何も言わずにリドに向けて手を払った。いつもの唄うような呪文は無く、ただただ冷たく風がリドに襲い掛かった。どうして。どうしてハルドがこんなことを。まるで機械の様に淡々と。仲間を手に掛ける姿に、倒れ伏していく仲間の姿に、恐怖で動けなくなる。ただでさえ魔王討伐で、私もみんなも疲れ果てていたのに。どうしてこんな、
「よくやった。」
聞こえるはずのない声が響く。いつも私を支えてくれていた声だった。低く響くけれど、どこか温かみがあって、安心できたはずの、それ。今、冷たく冷え切って放たれた言葉が、私に向けられていないことくらいは、混乱した頭でも理解が出来た。
この場に似合わない、革靴の底が岩肌を叩く音。ハルドは私に視線を向けたまま動かない。崩れかけの入り口から入ってきたのは、やっぱりディン先生だった。靴音が止まるとハルドは私に背を向け、先生へ歩み寄る。そして、そのまま躊躇なく膝をついた。
「すべて、指示通りに。」
「ああ、上出来だ…立て。」
先生が右手を動かす。持っていた剣が光る。それはそのままハルドに突き刺さって、ハルドは、動かなくなった。
「…ようやく準備が整った。これで…」
先生が左手に持っていた魔導書。見たことのない表装のそれはぞっとするほど綺麗で毒々しい海の色に光っていた。先生と目が合う。先生は笑っていた。青緑の光が強くなる。先生が口を開く。視界はもう青緑一色で、海へ沈んでいくような錯覚に陥る。先生の声が聞こえる。
「…もう誰にも邪魔されない。二人っきりだ…ずっとな。」
その声は、とても、とても、嬉しそうだった。
《Route:Din END1 “りそうのせかいで”》
先生と…ディンとふたりきり。このお屋敷がせかいのすべて。怖いことも、痛いことも、辛いこともなにもない。ディンがしあわせならわたしもしあわせ。わたしたちだけのせかいで、ずっと、ずっと。それが…幸せ?




